不人気で魅力のない野党党首が〝野党共闘不発〟の引き金を引いた、「能面ロボットスピーチ」(枝野立憲代表)や「強面(こわもて)演説」(志位共産党委員長)では有権者を引き付けることができない、岸田内閣と野党共闘(その3)

2021年総選挙が終わった。今回の衆院選で立憲民主、共産、国民民主、れいわ、社民の野党5党は、全国289ある小選挙区の4分の3に当たる213選挙区で候補者を一本化して選挙に臨んだ。しかし、予想に反して、野党5党が勝利したのは59選挙区(立憲54、国民3,共産1,社民1、勝率28%)にとどまった。213選挙区のうち、立民候補者に一本化された160選挙区で立憲が勝利したのは54選挙区(勝率34%)、国民民主は3選挙区、共産は39選挙区のうちたった1区(沖縄1区、勝率3%)でしか勝てなかった(読売11月2日)。

 

立憲が狙ったのは選挙区だけの勝利ではなかった。野党共闘の効果で比例代表区でも議席を大幅に伸ばし、あわよくば「政権交代」を目指していたのである。しかし、立憲は比例代表得票数で1149万票(得票率19.9%)にとどまり、議席数は公示前の62議席から23議席減の39議席へ大幅に後退した。共産は、目標850万票(得票率15%)に対して得票数は僅か半分以下の416万票(得票率7.2%)、しかも前回440万票(得票率7.9%)から更に減少して議席数も11議席から9議席へ2議席後退した。その結果、立憲は公示前の110議席から14議席を失って96議席となり、共産は12議席から2議席減の10議席となった。共産は、国民(8議席から11議席へ増加)の後塵を拝することになり、野党の末席に追いやられることになった。いずれも散々な結果としか言いようがない。

 

立憲や共産の不振に比べて、目を見張るような成果を挙げたのが日本維新の会である。維新は地盤の大阪で19選挙区のうち(公明前職がいる4選挙区を除いて)15選挙区に候補者を立てて全員が当選し、自民10議席(前回)を「ゼロ」に追い込んだ。通常、選挙区選挙において自民が「ゼロ」になるなんてことは凡そ考えられないが、大阪ではそれが実際に起こったのだから〝驚天動地〟の出来事だと言うほかない。そればかりではない。維新は比例代表区においても得票数805万票(得票率14.0%)を獲得し、前回得票数338万票(得票率6.0%)から一挙に倍増(2.4倍)させた。それとともに比例代表議席数を8議席から25議席へ3倍増させ、全体として公示前の11議席から4倍弱の41議席へ(公明32議席を抜いて)第3党に躍進した。

 

かくなる大変動が生じた原因は何か。メディア各紙では、そもそも「野党共闘」に無理があったとの論調が広がっている。朝日、毎日、日経などは、立憲と共産の共闘にかねてより異論を唱えてきた連合の動きに焦点を当て、次のような解説記事を掲載している(11月2日、要約)。

――立憲枝野代表は1日、支援団体である連合の本部を訪れ、芳野友子会長に衆院選敗北を詫びた。芳野氏は選挙期間中に共産との「野党共闘」で組合員が混乱した選挙区があったことを指摘。『来年の参院選に向けてしっかりやってほしい』と敗因の総括を求めた。連合本部には立憲に反発し、各地の組合が立憲候補の応援に動いていない状況が報告されており、参院選に向けて支援体制を見直すべきだとの見方が広がっている(朝日)。

――敗因を巡り、(立憲)党内では政策が異なる共産との協力が支持層の離反を招いたとの見方が大勢だ。あるベテランは「与党側が配る『立憲共産党』のビラの影響は大きく、中盤以降はきつかった」と指摘した。党関係者は「共産党と組むべきではなかった」と執行部の判断を批判した。立憲と候補者調整を行う一方、共産と距離を置いた国民民主党が3議席増の11議席となったことで、連合も立憲執行部への不信感を強めている。1日には「国民は健闘した一方、立憲は大きな課題を残した」と指摘した芳野友子会長は、記者会見で立憲と共産の共闘を「現場が混乱し、連合が戦いづらかった」と批判し、2020年夏の参院選での、立憲、共産両党の協力は「認められない」と釘をさした(毎日)。

――衆院選の結果は小選挙区で候補者を一本化する共闘態勢をとれば野党に勝機が生まれるという定説を崩した。安全保障政策などで隔たりのある共産党との連携は有権者の理解を得にくいという実態が露呈した。立民は2019年参院選でも市民団体を介して共産と政策協定を締結した。今回が異なるのは政権交代が実現した場合、共産が「限定的な閣外からの協力」をすることで合意した点だ。共産が他党の政権に協力することを表明したのは初めてだった。立民執行部には共産との閣内協力を含む連立政権はつくらないという「歯止め」という認識があった。それでも政権のあり方まで踏み込んだことで与党から格好の批判材料になった。立民の支援団体である連合も警戒を強め、選挙協力に支障が出た。野党5党の共闘と一線を画す姿勢をとった日本維新の会は躍進した。与党にも立民にも不満をもつ層の受け皿になった(日経)。

 

こうした批判を受けて立憲枝野代表は11月2日、国会内で開いた党執行役員会で、衆院選で敗北した責任を取り、代表を辞任する意向を表明した。枝野氏は執行役員会の冒頭、「ひとえに私の力不足。政権の選択肢として次のステップを踏み出すことが役割で、新しい代表のもと、新しい体制を構えて、来年の参院選、次の政権選択選挙に向かっていかなければならないと決断をした」と語った。首相指名選挙が行われる特別国会の閉会日に枝野氏が辞任し、代表選はその後、党員やパートナーズなどが参加した形で行う考えも示した(各紙)。

 

 一方、共産党の志位和夫委員長は1日、党本部で記者会見し、衆院選で共産が議席と得票数を減らしたことに対する引責辞任の可能性を問われ、「責任はないと考える」と否定した。理由として「我が党は、政治責任を取らなければならないのは間違った政治方針を取った場合だ。今度の選挙では、党の対応でも(野党)共闘でも政策でも、方針そのものは正確だったと確信を持っている」と説明した(毎日11月2日)。共産党機関紙赤旗によれば、中央委員会常任幹部会発表の「総選挙の結果について」の骨子は以下の通りである(要約)。

 ――この選挙での野党共闘は、共通政策、政権協力の合意という大義を掲げてたたかったものであり、一定の効果をあげたことは間違いありません。同時に、野党共闘は今後の課題も残しました。とくに、野党が力をあわせて共通政策、政権協力の合意という共闘の大義、共闘によって生まれうる新しい政治の魅力をさまざまな攻撃を打ち破って広い国民に伝えきる点で、十分とは言えなかったと考えます。共闘の大義・魅力を伝えきれなかったことが、自公の補完勢力=「日本維新の会」の伸長という事態を招いた一因にもなりました。全国の支持者、後援会員、党員のみなさんには懸命の奮闘をしていただきましたが、それを結果に結びつけられなかったのは、わが党の力不足によるものだと考えています。私たちはこの間、党の地力をつける活動、党の世代的継承の活動にとりくんできましたが、このとりくみは途上にあります。地力をつける活動を必ず成功させ、次の機会で必ず捲土重来を期したいと固く決意しています。

 

 興味深いことは、枝野、志位両氏とも野党共闘の敗因を抽象的な「力不足」という一言で片付けていることだ。この言葉は「一億総懺悔(ざんげ)」という言葉にも似て、全てを語っているようで実は何も語っていない。「力不足」とは党全体の力量を測る言葉であって、選挙で敗北した原因を具体的に解明する言葉ではあるまい。野党共闘の敗因をこのような言葉でしか語れないことは、枝野、志位両氏が野党共闘敗因の総括にまともに取り組む気がないことを示している。

 

 私は、今回の野党共闘の敗因は、枝野、志位両氏の党首としての魅力の欠如や不人気さが大きな比重を占めていると考えている。「能面ロボット」のように早口で喋りまくる枝野代表や、仁王立ちで聴衆を見下ろして「強面(こわもて)演説」を繰り返す志位委員長からは〝政治の魅力〟がいっこうに伝わってこない。日本維新の会の吉村副代表(大阪府知事)の演説には多くの聴衆が集まり、熱気あふれる集会になったのとは対照的だ。

 

 志位委員長は「政策や政治方針に誤りがなければ責任はとる必要がない」と広言したという。だが、政策や政治方針が独り歩きをしているわけではない。それなら、ビラやチラシ、スピーチロボットだけでも十分ではないか。なぜ、政治家は聴衆に直接語りかけるのか。それは、自らの口を通して〝政治の魅力〟を伝え、有権者の支持と共感を得るためだろう。それには、政治家自身が何よりも〝魅力ある存在〟でなければならない。党首にとっての必要な資質は、人間としての魅力があることだ。長年同一人物が党首の座に居座り、同じ顔と同じ口調で選挙演説を繰り返す――このような光景にもう支持者はうんざりしているのではないか。枝野代表と同じく、志位委員長にも「ひとえに私の力不足」を自覚してほしい。(つづく)