「敵に塩を送る」ことは美談だが、立憲京都府連を支援することは「票をドブに捨てる」のと同じことだ、岸田内閣と野党共闘(その5)

 ことわざ辞典によれば、「敵に塩を送る」ことの意味は、敵が苦しんでいるときに弱みにつけ込もうとするのではなく、逆にその弱みを助ける行為を指すとされている。「正々堂々」「真っ向勝負」の意味に通じる部分があり、そこには相手と自分が最善の状態で戦いたいというニュアンスが含まれている。今回の総選挙に関して言えば、立憲と野党各党は政策合意に基づき多くの選挙区で候補者を一本化したが、一本化できなかった選挙区も相当あったことも忘れてはならないだろう。一本化できなかった選挙区ではそれなりの事情もあるのだから、野党各党は「正々堂々」「真つ向勝負」で互いに戦うのは当然であり、それが有権者に対して政党の取るべき真摯な態度だと言える。

 

 ところが、この中で世にも世にも奇怪な動きをした選挙区があった。立憲民主党の福山幹事長や泉政調会長、国民民主党の前原代表代行、共産党の穀田国対委員長など、野党各党の幹部を輩出している京都の選挙区である。総選挙投開票日の翌日、11月1日に開かれた共産党京都府委員会の総選挙報告集会では、渡辺委員長が次のような報告をしている(京都民報11月7日)。

 「今回の選挙では、9月8日に市民連合と野党4党が20項目の共通政策に合意し、30日には、枝野代表と志位委員長の間で共通政策実現のためにわが党が閣外から協力する政権合意が成立し、その上に公示直前の調整によって約7割の小選挙区で野党候補の一本化が実現して選挙戦に臨みました。野党の陣容が整い、メディアも総じて『自公対野党共闘』などと二極対決の構図が報道の基本となりました。野党間のこの合意と協力は、都市部を中心に自民党の有力議員の議席を奪って、一本化した62選挙区で野党候補が当選するなど、一定の力を発揮しました。京都では、6選挙区中2選挙区で自民党が議席を失い、3区・6区で一本化された野党候補が当選しました。私たちはこのことを喜び、当選者がこれまで以上に国会共闘を発展に尽力し、20項目の野党共通政策実現のために奮闘されることを期待します」

 

 これだけ読めば、京都では1区・3区・6区で野党候補が一本化され、3区・6区では一本化された野党候補が勝利したように聞こえる。しかし、メディア各紙はどこもそのような報道をしていない。幾つかその事例を挙げよう(要約)。

 「(京都)1区は、12期務めた自民の伊吹文明元衆院議長が引退して、新顔2人と前職1人が争い、自民新顔の勝目康氏が初当選を決めた。共産前職の穀田恵二氏は比例区で復活当選して10選を決めた。今回も『悲願』の小選挙区初勝利は果たせなかった。選挙戦では、党国対委員長として野党共闘の旗振り役を担った実績を強調し、自公政権のコロナ対策を批判。党も1区を『必勝区中の必勝区』と位置づけ、穀田氏を『実質上の野党統一候補』と訴えたが、実際には1区で選挙協力はできていなかった」(朝日11月1日)。

 「京都1区では、初当選した自民新顔の勝目康氏に自民支持層の82%、公明支持層の8割弱が投票した。ただ、立憲が候補を擁立しなかったことで『実質上の野党統一候補』と訴えた共産前職の穀田恵二氏には、共産支持層の96%が投票した一方、立憲支持層で投票したのは59%だった。全国レベルでの野党共闘路線とは異なり、京都では共産が共闘に前向きな一方、立憲は共産との共闘に否定的だった。立憲支持層の32%は、維新新顔の堀場幸子氏に流れていた。一方、共産が候補者を立てなかった3区では、立憲の泉健太氏に共産の93%が投票していた。同じく共産候補がいなかった6区でも、共産支持層の91%が立憲の山井和則氏に投票し、山井氏の小選挙区の議席奪取を後押しした」(朝日11月2日)。

 

 朝日記事が示すように、京都ではどの選挙区においても野党候補は一本化されていない。1区では共産が穀田氏を「実質上の野党統一候補」と勝手に言っているだけで、福山氏や泉氏は自らが野党共闘に責任を負う党幹部の要職にありながら、立憲京都府連や京都連合の意向を受けて最初から最後まで「京都では共産と共闘はしない」との態度を頑なに変えなかった。二枚舌もいいところだが、これに同調する立憲支持層の3分の1が(あろうことか)、維新の会候補に投票したのである。

 

3区と6区でも共産は(頼まれもしないのに)候補者を擁立せず、それを「野党共闘の大義」であり、「野党候補の一本化」などと勝手に称しているにすぎない。共産支持層は、なぜこんな(荒唐無稽な)府委員会の方針に疑問を抱こうとしないのか。共産支持層の9割超が府委員会の指示に従って(共闘拒否の先頭に立つ)泉政調会長に投票し、当選に貢献したのである。私などはこれは「敵に塩を送る」どころの話ではなく、戦う前から「白旗を上げる」行為そのものではないか――と思うのだが、京都3区ではそんな風に考える有権者はいなかったらしい。

 

 しばらくして、毎日新聞(11月5日)が今回の選挙状況を総括する記事を掲載した。長い記事なので骨子の部分だけを抜粋しよう。

 「街頭演説で穀田陣営は、立憲重鎮(小沢一郎、原口一博、中村喜四郎、赤松広隆など)からの為書きを並べて立憲との連携を強調する選挙戦を展開した。ただ、これとは対照的に立憲府連は共産との連携を拒否し続けた。他府県では立憲候補が共産の集会などに参加して連携を訴える場面もあったが、京都の小選挙区ではそのような姿は最後まで見られなかった。立憲府連には、福山哲郎幹事長や泉健太政調会長など立憲幹部も名を連ねる。にもかかわらず、府連会長を務める泉氏自身が『選挙協力できる環境にない』と共産との対決姿勢を強調するなど、中央との違いは鮮明だった」

 「投開票の結果、穀田氏は6万5201票で次点となり、維新新人に約3000票差まで迫られた。得票数は、前回17年(6万1938票)を約3000票上積みしただけで、得票率30.5%は前回33.3%を下回った。結果的には苦戦とも見える状況に、穀田氏は『野党共闘の意義や展望を伝える期間がなかった』と振り返る。共産府委員会の幹部は、候補の擁立を見送った京都3区、6区で立憲が優位に選挙戦を進めたことを引き合いに、『我が党の票がなければ2人と通っていない』と強弁する。そして、自らに言い聞かせるように語った。『野党共闘は初挑戦だから、全てうまくいくわけはない。今後もこの道を進む以外にない』と」

 

 京都1区の得票数・得票率をもう少し詳しく説明しよう。まず、自民勝目氏が8万6238票(40.4%)を得票して伊吹氏の8万8106票(47.3%)をほぼ継承することに成功した。これに対して、穀田氏は前回17年衆院選の比例近畿で立憲が1区で得た約3万6000票を取り込むことができなかった。維新新人の堀場氏が予想外の6万2007票(29.1%)を得票して、その多くを奪ったからである。ちなみに維新は、京都1区の比例代表で5万4042票(17.9%)を得票し、前回17年の1万9547票(10.4%)から3万4000票も上積みしている。一方、自民は6万665票(28.4%)で前回5万8152票(30.8%)から2500票の微増、共産も3万3636票(15.7%)で前回3万1814票(16.9%)から1800票しか上積みできなかった。立憲の2万4165票(11.3%)と前回3万6233票(19.2%)の減少差1万2000票の多くが、投票数の増加分とともに維新に持っていかれたのだ。

 

 全国でも同様の傾向が出ている。読売新聞(11月1日)は、「共産支持層の大半が立憲候補を支援する一方、立憲支持層から共産候補への支援は限定的で、共闘に関する温度差が明らかになった」とする出口調査分析を掲載している。それによると、全289小選挙区のうち213選挙区で野党5党が統一候補を立て、このうち160選挙区では立憲候補に、39選挙区では共産候補にそれぞれ統一した。同紙の出口調査では、立憲候補に一本化した選挙区全体では、統一候補は立憲支持層の90%、共産支持層の82%を固めた一方、共産候補に一本化した選挙区全体では、統一候補は共産支持層の80%を固めたのに対して、立憲支持層は46%にとどまり、自民候補に20%、維新候補に11%が流れた。野党5党が統一候補を一本化した選挙区においてもこうなのだから、京都1区のように立憲が共闘拒否の姿勢を明確にしている選挙区では、共産が「実質上の野党統一候補」になることは極めて難しかったのである。

 

 直近の朝日新聞世論調査(11月6、7日実施)では、今回の衆院選で自民党が過半数を大きく超える議席を獲得したことは「よかった」47%、「よくなかった」34%という驚くべき結果が出た。過半数超えの理由は「自公の連立政権が評価されたから」19%、「野党に期待できないから」65%だった。維新が議席を増やして自民、立憲に次ぐ第3党に躍進した理由は「維新への期待から」40%、「ほかの政党に期待できないから」46%だった。衆院選では立憲や共産など野党5党が候補者の一本化を進めたが、来夏の参院選で一本化を「進めるべきだ」27%にとどまり、「そうは思わない」51%だった。立憲と共産が安全保障政策などで主張の異なるまま、選挙協力することには「問題だ」54%、「そうは思わない」31%で、両党の支持層で温度差がみられ、立憲支持層では58%が「問題だ」と答えたのに対し、共産支持層は「そうは思わない」が「問題だ」より多かった。いずれの回答からも、今回の野党共闘に対する大きな失望感が読み取れる。

 

 この先、事態はどう展開するのだろうか。目下の話題は、立憲民主党枝野代表の後任を決める代表選に集中している。代表選に立候補するためには国会議員の推薦人20人を集める必要があるが、衆参約140人規模の立憲にとって推薦人20人のハードルはかなり高いとされている。朝日新聞(11月6日)は、「昨年9月に旧立憲と国民民主党の一部などが合流した際の代表選で、枝野氏と戦った泉健太政調会長は今春、『新政権研究会』を立ち上げた。20人台半ばが参加し、自前のグループで推薦人を確保できるのが強みで、今回も有力候補だ」と伝えている。

 

 泉氏は今回総選挙でも、京都では「共産との共闘」を頑なに拒否した共闘反対派の急先鋒だ。「死んでも共産とは一緒にならない」と宣言する前原氏とは政治信条が極めて近く、国民民主党時代に常に行動を共にしてきた仲である。その泉氏がもしも次期立憲代表に選出されることになれば、渡辺共産府委員長が「京都では3区・6区で一本化された野党候補が当選しました。私たちはこのことを喜び、当選者がこれまで以上に国会共闘を発展に尽力し、20項目の野党共通政策実現のために奮闘されることを期待します」とするとの期待は、無残にも裏切られることになる。

 

私は冒頭で、立憲京都府連を支援することは「票をドブに捨てる」のと同じことだと(ドギツイ言葉で)言ったが、おそらく事態はそれだけにはとどまらないだろう。共産府委員会は「敵に火薬を送る」ことで、野党共闘を木端微塵にするような切っ掛けを作ったと言われても仕方がない――、こんな事態が起こらないよう立憲代表選の行方を見守りたい。(つづく)