2021年はデルタで暮れ、2022年はオミクロンで明けた、されど野党共闘は「霧の中」、岸田内閣と野党共闘(その9)

 毎日がまるで物理学の教科書を読んでいるような感じで時間が過ぎていく。「デルタ」だの「オミクロン」だの、ギリシャ語のアルファベットが世上に溢れているからだ。こんな言葉を毎日聞かされると、日本中が新型コロナウイルスのパンデミックに翻弄されているような気がする。新規感染者数が級数的に増えていくような状況の下では、人びとの不安が募るのも無理がない。しかし、全てが「霧の中」では、我々の生活は立ち行かない。運を天に任せるわけにはいかないからだ。

 

こんな時には「安心」を求めるのが人びとの心情というものだろう。たとえ確固たる方針が示されなくても、権力の座にある者が「丁寧な説明」をすれば何となく安心したような気になる。人びとの「気持ちに寄り添う」という言葉がやたらに流行るのはそのためだ。菅政権が岸田政権に代わってからの世論の変化が、このことをあらわしている。

 

 直近の時事通信社の世論調査(全国18歳以上男女2000人対象、個別面接方式、2022年1月7~10日実施、有効回収率64.6%)によれば、岸田内閣の支持率は昨年10月の発足以降、初めて5割を超えた。内閣支持率は前月比6.8ポイント増の51.7%、不支持率は5.3ポイント減の18.7%だった。時事通信社は「調査期間は新型コロナウイルスの変異株『オミクロン株』の感染者が全国で急増し始めた時期と重なるが、水際対策などコロナ対応や、安倍・菅両政権と比べ『丁寧な説明』に努める姿勢が一定の評価を得たとみられる」と解説している。

 

 一方、政党支持率の方はどうか。与党は自民党25.6%、公明党3.0%と相対的多数を占めるが3割には届かない。野党の方は日本維新の会4.3%、立憲民主党4.0%、共産党1.6%、れいわ新選組0.8%、国民民主党0.7%、社民党0.4%と相変わらず低迷していて、維新を除く野党は全部足しても1割に満たない。ダントツは、言うまでもなく「支持政党なし」57.4%で最大多数を占める。この数字を見ると、日本の政党政治の基盤が大きく揺らいでいることは間違いない。圧倒的多数が「無党派層」で占められている現状は、深刻な政治不信・政党不信を反映していると考えるべきで、この現実に向き合わずにいくら「政権交代」を叫んでも国民の支持は得られない。

 

 ところで、衆院選前は鳴り物入りで騒がれていた「野党共闘」はその後どうなったのだろうか。最近「野党共闘」について精力的に記事を書いている産経新聞の論調を見よう。産経の力点は、立民が連合の縛りで動くに動けず、野党共闘がズルズルと後退していく状況をクローズアップすることに力点が置かれている。政局がその方向に動いているので、記事にも力がこもっているというわけだ。

 

 「立憲民主党の泉健太代表が今夏の参院選に向けた対応に苦しんでいる。泉氏は『与党の改選過半数阻止』を目標に掲げ、勝敗のカギを握る32の改選1人区で共産党を含めた野党候補の一本化を目指しているが、立民最大の支援団体である連合は共産との決別を求め、調整は容易でない。『与党一強状態を打ち破り、二大政党体制のもとで与野党が切磋琢磨する緊張感のある政治にしなければならない』。東京都内で5日開かれた連合の新年交換会では、芳野友子会長が泉氏や国民民主党の玉木雄一郎代表らを前にこうハッパをかけた。立民が勢力を後退させた昨年の衆院選について、党内には枝野幸男前代表が共産との『限定的な閣外からの協力』で合意したことが足を引っ張ったとの見方がある。芳野氏は昨年12月の産経新聞のインタビューで、立民に『決別してほしい』ときっぱり語った」(産経2022年1月6日)

 「立憲民主党や共産党などの野党は32の1人区で候補者を一本化し、与党の議席を減らしたい考えだが、共闘をめぐり同床異夢の状況にあり、調整は難航しそうだ。(略)立民最大の支援団体の連合は共産との共闘を否定し、国民民主党との連携強化を求めている。泉氏も番組で国民民主との協議に意欲を示し、共産については皇室や安全保障などの見解の違いを理由に『立民が政権を構成する政党ということにおいては現在、想定にはない』と断言した。ただ、立民と共闘した昨年の衆院選で議席を減らしたにもかかわらず、野党連立政権樹立を掲げる共産の志位和夫委員長は引き続き立民との連携を深化させたい考えだ。立民としても1人区で自民党候補のほかに共産候補と争えば野党勢力の後退になりかねない」(同1月10日)

 

 連合の動きも活発をきわめている。芳野会長は就任以来、誰の指示によるのか知らないがとにかく精力的に動き回っている。連合は立民を牽制する一方、自民への急接近も目に付く。昨年暮れの12月8日、芳野会長は連合トップとしては「7~8年ぶり」に自民党本部を訪問し、茂木幹事長や麻生副総裁と面会して会長就任のあいさつをした。その際、茂木氏から「連合初の女性会長として頑張ってほしい」などとエールを送られたという(読売2021年12月31日)。

 

また、今年1月5日には岸田首相が自民党の首相として「9年ぶり」に連合の新年交歓会に出席し、「政治の安定という観点から与党にも理解と協力を心からお願いする」と呼びかけた。芳野氏は、首相の看板政策「新しい資本主義実現会議」のメンバーとしても起用されている。芳野会長は5日の記者会見で自民党との接近を問われ、「共産党を除く各党に政策要請している」と答えた(日経1月6日)。首相はまた1月14日、新年交歓会のお礼をかねて官邸を訪れた芳野会長に面会し、「連合に期待しているので頑張ってほしい」と激励した(同1月15日)。連合は共産党を除く各政党と連携し、「二大政党体制」の構築を目指しているのだろう。

 

こうした政局を朝日新聞は「野党共闘へ、難しい調整」との見出しで次のように解説している。

「野党側の焦点は、1人区で候補者を一本化できるかどうかだが、調整は難航が予想される。(略)昨年10月の衆院選で敗北した立憲は、『野党共闘』の検証を進めている。共産党と『限定的な閣外からの協力』とする政権枠組み合意を結んで挑んだが、安全保障をめぐる溝を与党や支援団体の連合会長からも批判されて失速したからだ。泉氏は9日のNHK番組で『立憲の政権を構成する政党に共産は想定にない』と明確にし、『候補者調整や国民の命と暮らしを守る政治に変えて行く部分では共通するところがある』と連携を続ける考えを示した」(朝日1月13日)

 

要するに、泉代表の思惑は共産との「限定的な閣外協力」の公約を解消し、部分的な政策連携で候補者の一本化を図りたいというものだ。問題は共産がこれに応じるかどうかだが、志位委員長は「限定的な閣外協力」は公党間の約束なので、立憲の代表が変わったからと言って解消できるものではないと反論している。衆院選では「歴史的な政権公約」だとして選挙戦を戦ってきた経緯があり、この「政権公約」を破棄することは「野党共闘」の崩壊につながる恐れがあるからだろう。

 

一方、国民民主党は、小池東京都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」との連携を推進している。玉木雄一郎代表は9日のNHK番組で、参院選に関し「外交、安全保障、エネルギーなど、基本的な政策の一致なくして選挙協力はない。逆に政策で一致できる政党とは選挙協力していきたい」と述べ、「都民ファーストの会」との連携については、「政策的な一致の先に選挙協力ができるのであれば、それは排除するものではない」と強調した。また岸田首相が「敵基地攻撃能力」の推進に意欲を燃やしているのに関しては、「敵基地攻撃能力という言葉はどうかと思うが、相手領域内で抑止する力は必要だ」と主張して賛意を示した(産経1月10日)。

 

こうなると、「敵基地攻撃能力」について反対している立憲とは安全保障面で政策が一致しなくなり、連合の推進する「立憲民主党と国民民主党の共闘」は難しくなる。と言って、立憲が国民と政策的に妥協すれば、今度は立憲支持層が離反する恐れもある。泉代表は「ジレンマ」ならぬ「トリレンマ」に直面しており、政治経験が浅く確たる政治思想を持たないような人物が、この難局を乗り切れるとはとても思われない。

 

野党共闘は深い「霧の中」にある。霧の晴れた時にいったいどのような光景が現れるのだろうか。それは泉代表の辞任かそれとも立憲の分裂か、オミクロンで明けた2022年の政局の行方は目が離せない。(つづく)