賃上げなど労組本来の活動に取り組まず、なぜ野党分断に狂奔するのか、与党と経済団体の下僕になった連合に未来はない、岸田内閣と野党共闘(その10)

 昨年10月の衆院選を前に、各紙は一斉に日本の年収や平均賃金の現状を取り上げた。日本経済新聞(2021年10月16日)は、1面トップで「日本の年収、30年横ばい」と以下のように報じた。

 「衆院選(31日投開票)に向けた論戦が本格的に始まった。経済政策での重要な論点は成長と格差是正のどちらに軸足を置くかだ。与野党は生まれた富をいかに『分配』するかを公約で競うが、日本の平均年収は横ばいが続く。格差よりもまずは低成長を抜け出し、分配のためのパイを拡大するほうが優先度が高い」

「OECDがまとめた年間賃金データを各国別に比べると、日本は30年間ほぼ横ばいだ。購買力平価ベース(20年米ドル換算)の実質系列で30年前と比べると、日本は4%増の3.9万ドル(440万円)止まりだったのに対して、米国は48%増の6.9万ドル、OECD平均が33%増の4.9万ドルと大きく伸びた」

 

 朝日新聞(同10月20日)も「30年増えぬ賃金、日本22位、上昇率は4.4%、米47%、英44%」との見出しで、同様の指摘をしている(要約)。

 「日本経済をどう立て直すのかは、衆院選の大きな争点だ。様々な指標を外国と比べると、低成長にあえぐ日本の姿が見えてくる。安倍政権が始めたアベノミクスも流れはほとんど変えられず、1990年代初めのバブル崩壊以来の『失われた30年』とも呼ばれる低迷が続いている。賃金も上がっていない。経済協力開発機構(OECD)によると、2020年の日本の平均賃金は、加盟35国中22位で3万8514ドル(424万円)。この30年で日本は4.4%増とほぼ横ばいだが、米国47.7%増、英国44.2%増などとの差は大きい。賃金の額も隣国の韓国に15年に抜かれた」

 「賃金が上がらないのはなぜなのか。一つは、非正規労働者が増えていることだ。企業は人件費が安く、雇い止めしやすい非正規の労働者を増やしてきた。90年ごろは雇用者の2割ほどだったが、いまでは4割近くにのぼる。賃金が安い非正規の割合が増えたことで、平均賃金が押し下げられたというわけだ。(略)90年代のバブル崩壊が残した記憶も関係している。日本総研の山田久副理事長は『バブル崩壊以降、労働組合は雇用維持を優先し、賃上げを要求しなくなった』と、交渉力の低下を訴える。戦後に5割を超えていた労組の組織率は2割を切る。欧州のような産業別の労組と異なり、日本は企業ごとに組合がある『企業内組合』が一般的。『経営陣とは対等に更新しにくい』という側面もあるという」

 

 賃金が上がらなくなった「失われた30年」は、決してバブル崩壊だけが原因で形成されたのではない。連合が発足したのが1989年、それから30年余、一貫して賃金が上がらなくなったのである。非正規労働者が爆発的に増えてきたのも、連合の発足以来だ。連合は大企業の正規労働者の雇用が維持されることを条件に、日本全体の非正規労働者化を黙認した。その結果、大企業の積立金はうなぎ登りで増えているにもかかわらず、それが労働者に「分配」されなくなった。

 

連合の歴代会長は全て民間大企業出身の労働貴族ともいうべき存在で、経営陣とは「ツーカーの関係」だ。自動車、電力、繊維をはじめとする労使協調路線の民間大企業労組が主導権を握るなかで、企業内組合の「慣れ合あい路線」が連合全体に広がり、経営者の裁量の枠内に賃金がコントロールされるようになってきたのである。

 

 それだけではない。「左右の全体主義との対決」を掲げる連合は、これまで「民社党の別働部隊」と言われてきたように、革新統一戦線の分断に熱意を注いできた。歴代の連合会長は経営者と(サロンで)高級ブランデーを飲む間柄であり、政権幹部とは「政策要望」という名目で毎年会食を重ねる親しい関係だ。大企業への特権的優遇措置は経営陣とともに推進する一方、国民に負担を強いる消費税増税には賛成するという文字通りの「階級的」労組幹部なのである。

 

 図に乗った連合幹部は、最近になって政界再編にも口を出すようになった。神津前会長は、小池都知事の主導する「希望の党=保守第2党」の旗揚げを前原民進党代表とともに秘密裏に画策し、民進党内のリベラル派を「排除」する形で民進党の分裂を導いた。連合内部では立憲民主党を支持する官公労と国民民主党を支持する民間労組の対立が深まる中で、その収拾に手を焼いたのか、神津氏は遂に会長の座を退くことになった。そして、その後を託されたのが「新顔」の芳野会長である。

 

 芳野会長は、連合初の「女性会長」である。だが、その「階級的」立場は神津前会長とまったく変わらない。むしろ就任後の「力量」を試されているからか、前会長にも増して前のめりの姿勢が目に付く。政治経験が未熟で裏工作に慣れていない分だけ、表舞台での活躍に力が入るのだろう。また、「女性だから大目に見てもらえる」という思い込みがあるのかもしれない。とにもかくにも言うこと為すことが露骨でドギツイ。世の顰蹙(ひんしゅく)を買っていることが分からないらしい。

 

その極め付きが、立憲幹部を絶句させた今年1月21日の連合の参院選基本方針案だった。連合は夏の参院選に向け、連合が支援政党を明記せず、「共産党と連携する候補者を推薦しない」などとする基本方針案をまとめたのである。「人物本位・候補者本位で臨む」として支援政党が明記されていない参院選の基本方針案は21日、連合の加盟組合に示された。朝日新聞(1月22日)は、その背景を次のように解説している。

「連合は1998年に旧民主、民政、新党友愛、民主改革連合の4党が合流し新たな『民主党』が結成されて以来、民主党の流れをくむ政党を支援してきた。『希望の党』への合流をめぐり、選挙直前に民進党が分裂した2017年衆院選を除き、国政選挙では支援政党と政策協定を結んでおり、今回の方針は異例だ。神津里季生会長時代、20年に旧立憲民主、旧国民民主両党などが合流した際は、連合は新たな立憲を『総体として支援』する方針を示した。立憲が進めた『野党共闘』に不快感を示す芳野友子会長へと連合執行部が変わり、立憲を中心とした支援のあり方が白紙になった形だ」

 

 連合の激しい政治介入に対して、立憲民主党は表立った反論を表明していない。むしろ泉健太代表は、連合路線を後ろ盾にして共産党との公約を破棄し、国民民主党と連携して参院選に臨む方針を打ち出している。立憲が昨年の衆院選についてまとめた総括案(1月24日)では、共産党との連携を理由に小選挙区の投票先を変更した割合が投票全体の3%強、比例代表では約5%と分析し、「小選挙区で一定の成果はあったものの、想定していた結果は伴わなかった」として、「全体的な戦略の見直し」が必要だと総括していた(各紙1月25日)。

 

 ところが、この総括案は25日の常任幹事会では了承が見送られ、27日になって「昨年の衆院選を敗北」と位置付け、戦略を見直す方針を示した総括が発表された。毎日新聞(1月28日)は次のように伝えている。

 「立憲民主党は27日、昨年の衆院選を敗北と位置付け、戦略を見直す方針を示した総括を発表した。25日の常任幹事会では了承が見送られていた。共産党との連携が敗因の一つだと分析する原案の記述を一部削除した。夏の参院選を前に共闘への賛否が党内で割れていることに配慮したが、あいまいさが残る内容となった。 焦点となったのは、小選挙区や比例代表で、有権者が共産との連携を理由に、投票先を立憲から他党に変更したと分析した部分。原案では党の独自調査に基づき、1万票以内の接戦で負けた31小選挙区で投票全体の3%強、比例では約5%が投票先を立憲から別の党に変えたとする調査結果を示し、『接戦区の勝敗に影響』『一定層の離反への影響が読み取れる』と分析した」

 「しかし参院選を控え、共産との『1人区』での候補者の一本化調整に響くと懸念する声が相次いだため、これらを削除。『一本化の一定の成果は前提としつつ、より幅広い集票につなげることが必要』と共闘の評価があいまいな表現に修正した。2017年衆院選と比較して、一本化の成否を示す際も『(共産票との)合算通りの成果を得られなかった』と分析しつつ、『小選挙区全体で9議席増となったことは評価できる』との前向きな評価を加えた。一方、立憲が政権を獲得した場合に、共産から『限定的な閣外からの協力』を得るとした合意については、『選挙戦に影響を与える結果となった。今後はより慎重に対応する必要がある』と指摘した部分は原案のまま残した。党としての敗因は『存在感を示しきれず、期待値は維新(日本維新の会)に集まる結果となった』と明記した。修正した総括の文案は、26日の持ち回りの常任幹事会で了承された」

 

 この総括は、毎日新聞が指摘するようにまさに「曖昧模糊」とした内容だ。だが、問題は連合が突き付けた「共産党と連携する候補者を推薦しない」とする参院選基本方針に対してどう対処するかだろう。連合の言いなりになって国民民主党化するのか、それともその呪縛から離れて政治的に独立した革新政党になるのか、立憲はその分岐点に立っている。労働者の立場に立たず、労使協調路線を掲げて経営者の下僕として行動する連合との選挙協力は、立憲民主党が連合とともに国民から見放される歴史的な契機になるだろう。