泉健太氏を代表に選んだ立憲民主党の悲劇、数合わせ「野党第1党」の終わりの始まりか、岸田内閣と野党共闘(その11)

 昨年11月末、立憲民主党代表に選出された泉健太氏の動きがさっぱり見えない。共産党との選挙協力は「白紙」だと言いながら、その一方で参院選での「野党候補の一本化」は進めると言う。共産との選挙協力を白紙にすれば、参院選での野党候補の一本化などあり得ないにもかかわらず、それを平気で言う魂胆がわからない。泉代表の掲げる「野党候補一本化」が、共産が独自候補を降ろして立憲を支援することを意味しているのなら、交渉は絶対に成り立たない。交渉は“ギブ・アンド・テイク〟が鉄則だからだ。

 

 この間の事情について各紙がしきりに報じているが、「共産、参院選へいらだち=立民『共闘白紙』、協議見通せず」とする、最近の時事通信記事(2月7日)がわかりやすい。

 ――夏の参院選に向けて、共産党は立憲民主党へのいらだちを募らせている。立民の泉健太代表が共闘を「白紙」にすると言及、共産党が求める政党間協議にも応じないためだ。共闘態勢の構築を急ぎたい共産党には焦りの色も浮かぶ。「協議なしに一方的に白紙にするという議論は成り立たない」。共産党の志位和夫委員長は2日のツイッターで泉氏発言に不快感をあらわにした。共産党が問題にするのは先月31日の泉氏の発言。泉氏はBSフジの番組で「(共産党との)これまでの連携は白紙にする」と述べていた。昨年の衆院選で共産党は立民などと選挙協力を実施。立民、共産両党は政権獲得時の「限定的な閣外からの協力」で合意していた。このため、共産側は「泉氏発言は一方的にほごにするもので受け入れられない」(幹部)と反発。両党の話し合いでの「決着」を求めている。

 ――しかし、立民は政党間協議に慎重だ。先月27日に公表した衆院選の総括で、共産党との連携について「想定していた結果は伴わなかった」と明記。「閣外からの協力」に関しても「慎重に対応する必要がある」と記載した。支持団体の連合も「共産との関係はあり得ない」(芳野友子会長)などと決別を求めている。立民側は政党間協議を先送りしており、泉氏は同じBS番組で27日の立民党大会までは応じられないとの考えを示した。党内には「今回は党本部で決めずに、地方に任せた方がいい」(幹部)との声があり、地方組織レベルの協議にとどめたい方針とみられる。   

――これに対し、共産党は早期協議を迫る立場を堅持。同党幹部は「立民党大会まで待てない」と嘆き、別の幹部も「党本部の合意がないと地方に説明できない」といらだちを隠さない。煮え切らない立民に共産党は改選数1の1人区で独自候補擁立を進める。群馬、福井、鹿児島に加え、4日には奈良で候補擁立を発表した。ただ、共産党としては立民を揺さぶるのが狙いで共闘を崩したくないのが本音。ある幹部は協議すらままならない現状に「普通のカップルなら別れている」とこぼした。 

 

   2020年7月、立憲民主党は「野党第1党」の座を取り戻すため、国民民主党に対し、両党を解散して「新設合併方式」で新党を結成すること、新党名は「立憲民主党」とし、結成大会で代表選挙を実施することなどを申し入れた。協議は難航したが、結局、玉木雄一郎氏や前原誠司氏など旧希望の党系グループは合流せずに国民民主党に残留し、9月には枝野幸男氏を代表とする新しい立憲民主党が発足した。どういう思惑があったのか知らないが、泉健太氏はこのとき京都選挙区で長年仕えてきた前原氏とは行動を別にし、立憲民主党に参加した。ひょっとすると、泉氏は立憲民主党内の「トロイの木馬」としての役割を期待されていたのかもしれない。

 

 泉氏が立憲代表に選出されたことは意外だった。「平均点3・5」の男と評されてきた泉氏には、野党第1党のリーダーにふさわしい識見も風格もない。ただ「若い」というだけではどうにもならないのに、なぜ泉氏が代表に選ばれたのか。そこには、「枝野党」的な旧来のイメージを変え、「野党第1党」としての立憲民主党を新しく演出したいという議員共通の意識が横たわっていた。そして、「イメチエン」の材料として泉氏が起用されたのである。

 

 しかし、この選択は誤りだった。もともと「中道保守=保守第2党」を目指して前原氏とともに行動してきた泉氏には、「野党第1党」を担うだけの資質も識見もなかった。「批判だけの政党」から「提案する政党」への脱皮を掲げたものの、百戦錬磨の自民党には相手にもされず、「提案だけの政党」となって国民の失望を買うことになった。挙句の果ては、連合芳野会長の言いなりになって右往左往する始末、みっともないことこの上ない。立憲民主党の支持率は依然として低迷をきわめ、いまや維新に追い越されるまでに低落している。泉代表の存在は、まさに“風前の灯〟といっても過言ではない。

 

 参院選を前に、京都では前原誠司氏の動きが活発化している。前原氏は民進党代表時代に小池都知事や神津前連合会長らと結託して希望の党を立ち上げ、民進党を解党に追い込んだ張本人である。その後不遇をかこっていたが、今では国民民主党代表代兼選対委員長の地位を利用して、ふたたび政界再編の策動に乗り出そうとしている。前原氏は今年1月、京都新聞のインタビューに答えて次のように語った(1月14日、要約)。

 ――野党は今、中道保守の改革勢力を結集させる千載一遇の好機を迎えています。昨年の衆院選では、立憲民主党と共産党の協力に対して厳しい判断が下りました。共産は自衛隊を違憲とし、日米安全保障条約の廃棄を掲げ、「天皇制」についての考え方も全く異なる政党です。その共産と立憲が政権奪取後の「限定的な閣外からの協力」で合意して選挙を戦ったことについては、国民が票目当ての協力にすぎないと見透かしていたのでしょう。

 ――これから求められる自民党に代わる政党像は、改革志向でありながらも外交・安全保障政策は現実路線でなければなりません。国民民主党は衆院選で共産とも自民とも戦い、筋を通して議席を伸ばしました。中道保守の改革勢力を結集し、その仲間とともに政権交代を目指すスタートラインに立ったと思っています。われわれは衆院選後に、立民、国民民主、共産、社民の4党が法案審議などで連携を図るための「野党国会対策委員長会議」の枠組みから離脱しました。いい出だしができているのではないでしょうか。

 ――同じく衆院選で議席を伸ばした日本維新の会とは連携できています。改革マインドは共通しており、協力関係をより深化させたいと思っています。今年は夏に参院選がありますから、維新とはさまざまな意見交換を行い、選挙協力していくべきだと考えています。立民に関しても、昨年11月の代表選で、共産との協力を進めてきた前執行部から、関係の見直しを訴える泉健太新体制に代わりました。共産を外した中道保守の改革勢力が大きな固まりをつくる上で、地合いは非常にいいと思っています。

 

 前原氏はその後さらに踏み込み、夏の参院選で京都選挙区(改選数2)から5選を目指す立憲民主党の福山哲郎前幹事長への支援を巡り、「国民京都府連としては福山さんに一本化する義理や借りは全くない」と述べ、現状では共闘する考えがないことを明らかにした。その上で、国会活動での連携を確認した日本維新の会については「政策的に最も近い政党だと思っている」との態度を表明している(京都新聞1月22日)。

 

 日本維新の会の藤田文武幹事長は2月4日、京都市内で記者会見し、夏の参院選京都選挙区(改選数2)を巡る国民民主党との連携について「共倒れにならない方がいい。何らかのすみ分け、連携の可能性はゼロではない」と述べ、状況によっては選挙協力も辞さない考えを示した。維新は昨秋の衆院選で、京都府内の比例票を自民党(約33万8千票)に次いで多い約26万6千票に伸ばした。参院選の重点区に掲げる5都府県のうち京都を最重点地区と位置付け、「2月末から3月中には候補者を選出したい」と述べた(同、2月5日)。

 

 京都新聞の取材によれば、維新は今夏の参院選比例代表候補として、国民民主党の井上一徳元衆院議員を擁立することが分かった。元防衛省幹部の井上氏は2017年衆院選で京都5区から旧希望の党公認で立候補し、比例復活して1期務めた。無所属で臨んだ昨年の衆院選は京都5区で2万1904票にとどまり落選した。井上氏は2020年秋から国民民主党の衆院会派に所属し、国民京都府連で特別幹事に就いていたが、2月7日までに辞職した(同、2月8日)。

 

 維新の参院選京都選挙区(改選数2)の候補者はまだ決まっていないが、もし国民民主党と日本維新の会が選挙協力するような事態になれば、福山哲郎前立憲幹事長の再選は極めて危うくなる。立憲にとっても泉代表の地元である京都選挙区で前幹事長の福山氏が維新・国民候補に敗れるようなことになれば、その影響は1選挙区にはとどまらない。京都での敗北が引き金となって「野党第1党」のイメージが大きく揺らぎ、立憲の“終わりの始まり〟が一気に加速するおそれが充分あるからである。(つづく)