自民・国民の連携が進む一方、野党共闘は依然として膠着状態、このままでは野党は参院選を戦えない、岸田内閣と野党共闘(その14)

 ロシアによるウクライナ侵攻が日々加速する中で、メディア空間はウクライナ一色に染まったままだ。連日連夜ウクライナの惨状が目の前に映し出されれば、誰もが不安にさいなまれ焦燥感に駆られるのは当然のことだ。しかし、安倍元首相のように情勢に付け込んで「核共有」を打ち上げ、「敵地攻撃力」を拡大解釈し、この際改憲と軍備拡張を一挙に実現しようとする右派勢力の動きも活発化している。注目すべきは、岸田政権がこんな緊迫した情勢の下で「新しい資本主義」など国策の基本課題について何らの具体策を示さないまま、コロナ対策とウクライナ支援を軸に高支持率を維持していることだ。この間の状況を伝える各紙記事を分析しよう。

 

日経新聞(2022年4月3日)は次のように言う。「岸田文雄政権が発足してから4月4日で半年を迎える。内閣支持率は一貫して5割超を維持してきた。新型コロナウイルスの『第6波』で緊急事態宣言を回避し、ロシアのウクライナ侵攻で危機対応に注目が向かう。感染再拡大の懸念や具体的な経済政策を示すことが夏の参院選に向けた関門になる」。主な内容は以下のようなものだ。

(1)コロナ下では感染者数の増減と政権の支持率が連動する傾向がある。菅政権は感染拡大に伴い緊急事態宣言を数多く発令したが、岸田政権では「蔓延防止等重点措置」を適用して宣言を回避した。記者団の取材に対しても丁寧に対応するスタイルを前面に出す。

(2)ロシアによるウクライナ侵攻への対応も支持率が上向く要因になった。主要7か国(G7)をみると、英国やフランス、ドイツの首脳も支持率が上昇傾向にある。ウクライナ侵攻を巡る外交や安保政策の積極姿勢に関心が集まる。有事にはリーダーの決断が前面に出て、内政への批判に矛先が向かいにくい。

(3)3カ月後には7月10日投開票を見込む参院選が控える。乗り越えれば大型国政選挙が最長で2025年までない。首相が選挙を気にせずに政権運営でまとまった時間を手にできる可能性がある。

 

言葉を選ばずに言えば、岸田政権は基本的な政策を打ち出すことなく小出しに施策を並べ、批判を受ければその都度修正を繰り返し、「その場任せ」「その場限り」の対応に終始しているだけだ。それにもかかわらず、高支持率を維持しているのは、ロシアによるウクライナ侵攻を〝漁夫の利〟として利用しているからなのである。しかしこの間、国内政治は野党共闘の分断に向かってその勢いを増しつつある。

 

毎日新聞(4月2日)は、これを裏付けるかのように「自民党が、夏の参院選山形選挙区(改選数1)で独自候補の擁立を見送る調整に入ったことで、2022年度当初予算案に賛成するなど与党への接近を図る国民民主党との事実上の選挙協力が進むことになる」と報じた。同選挙区は、2016年の前回選挙で舟山康江氏が「山形方式」といわれる非自民勢力の結集に成功し、自民候補に12万票差で大勝した選挙区だ。2021年も知事選でも野党系無所属候補が勝利した。今回、舟山氏は国民民主から現職として立候補予定だというが、自民幹部は「渡りに船」として独自候補の擁立を断念したという。「国民民主とは、共に予算に賛成し政策協議もしている関係。選挙だけは別で戦うと、と言えるのか」というのがその理由だそうだ。

 

一方、朝日新聞(4月2日)は、国民民主党の動きを次のように伝えている。「夏の参院選へ国民民主党は4月1日、小池百合子東京都知事が特別顧問の地域政党『都民ファーストの会』と候補者を『相互推薦』する覚書を交わした。国民民主は、都民ファの荒木千陽代表を参院東京選挙区で推薦する。東京で2人を擁立する立憲民主党への影響は大きいとみられる。他の選挙区でも国民民主と立憲の候補者調整は見通せず、互いに不信感を強めている」。国民民主はなぜ都民ファーストと連携するのか。その背後には連合の影が見え隠れする。

(1)国民民主は、最大の支持団体である連合の民間産別内候補4人が比例区で立候補予定だが、支持率低迷で全員当選は見通せない。玉木雄一郎代表は「小池人気」にあやかって「東京で比例100万票を目標にしたい」と意気込む。4人が都民ファーストの推薦を得れば比例票の上積みが期待できるからだ。

(2)都民ファーストは、国民民主と共闘し連合の支援を受けられれば「前回参院選で立憲民主に入った票が半分以上入ってくる」ともくろむ。そうすれば、悲願の国政進出が実現するからだ。

(3)これに対して、東京選挙区で2人擁立を続ける立憲にとっては、国民民主と都民ファーストの相互推薦は「連合の支援が股裂きになり2人目の当選は厳しくなる」との観測だ。

 

連合は、表向きは立憲と国民民主の共闘を求めているが、本音は自民や都民ファーストとの連携で立憲の政治基盤を切り崩すことにある。そのためには、維新と手を組むことも十分あり得ると考えられている。国民民主の前原誠司選対委員長は、朝日新聞のインタビューに答えて次のように言う(朝日同上)。

――維新をどう評価しているのですか。

「維新も野党勢力だ。私は維新ともよく話をするが、彼らは政権交代で自民に代わるものをつくろうという意思を非常に強く持っている。より協力を密にしていきたいと思っている」

――連合内にも異論があるが。

「連合にとって大切な労働法制に対する感覚は違う部分がある。だが、それさえ議論して一致点を見出せればいい。連合は維新を敵だとは言っていない」

 

前原氏は、自らが国民民主の府連会長を務める京都選挙区においても、京都新聞のインタビューで維新との連携を匂わせている(京都3月9日)。

――参院選京都選挙区には、旧民主党や旧民進党で一緒だった立憲民主党の福山哲郎氏が立候補を予定している。

「過去は過去。繰り返すが、複数区は原則擁立するということでやっている。ただ、都民ファーストの会と協力する東京のようなこともありうる」

――京都では日本維新の会と連携するのか。

「国会では共同で法案を出し、憲法審査会では共同歩調を取るなどかなり協力関係を深めている。参院選についても意見交換しているが、何か具体的に決まったことがあるわけではない。ただ、『中道保守改革勢力』の力を合わせていくことになれば、日本維新の会は同じ範疇に入る。虚心坦懐に話し合いをしているところだ」

 

このところ、日本維新の会は意気軒昂だ。3月27日は大阪市内で党大会を開き、夏の参院選で改選6議席からの倍増以上を目指す活動方針を採択した。また政権交代に向け、次期衆院選で「野党第1党」を獲得する目標も掲げた。松井代表は党大会に先立つ常任役員会で、参院比例選の獲得議席で立憲民主党を上回る目標を確認し、馬場伸幸共同代表は記者会見で「比例票で立民を上回れば、国民の多くが『野党のリーダーに維新がなってほしい』という意思表示だ」と強調した(読売3月28日)。

 

いずれにしても、維新が国民民主や都民ファーストと組んで「野党第1党」の座を目指していることは本当だろう。維新や国民民主が「野党」を名乗り、「第1党」の座を占めるようなことになれば、立憲民主党の姿は見えなくなり事実上消滅する。野党共闘はいま、「風前の灯」となりつつある。(つづく)