保守層取り込みを目指す立憲民主党の参院選公約は成功するか、岸田内閣と野党共闘(その18)

参院選が近づくにつれて、全国注目の京都選挙区では最近、各党の宣伝カーがしきりに走るようになった。私が住む衆院選京都3区(京都市伏見区)では、昨年の衆院選で共産が不可解にも候補擁立を見送り、立憲の泉健太氏が楽々と当選した。聞けば、京都1区での立憲の候補擁立の見送りと引き換えに、共産が一方的に候補を降ろして選挙協力したと噂されている。「裏取引」か「バーター取引」か知らないが、こんな水面下の不透明な政治取引は許せないとして、多くの有権者が棄権した(私もその1人)。泉健太氏がとても「野党統一候補」にふさわしい人物だとは見なされていなかったからである。

 

ところがその後、泉氏は立憲代表に選出されることになり、京都3区の有権者は「立憲にはそれほど人材がいないのか!」と呆れかえった。可もなく不可もなく、個性もオーラもない政治リーダーとしては最も不向きの人物が「野党第1党」の党首になったのだから、みんなが驚いたのも無理はない。泉氏が立憲代表に就任してから半年、地元の京都新聞は「生活者目線も党内不安、立民・泉氏 代表就任半年」「政策立案型アピール 支持率伸び悩み」と題する記事を掲載した(5月31日、要約)。

――立憲民主党の泉健太代表は、昨年11月の代表就任から30日で半年となった。「政策立案型政党」を打ち出し、夏に迫る参院選に向け党勢回復を目指す姿勢をアピールしてきた。ただ政党支持率は伸び悩んだまま、党内からは「野党は政策で支持を伸ばすのは難しい」(改選の参院議員)との不安が漏れる。岸田文雄首相と対決した26日の衆院予算委員会では、生活安全保障を前面に押し出し、生活者目線を大切にする姿勢を際立たせようと腐心した。だが党ベテランは「政権を追求する視点が不足している」と不満を吐露する。

――21,22日両日の世論調査で立民の支持率は8・7%、就任直後の昨年12月の11・6%から減らし、上昇気流はつかめていない。参院選改選1人区で立民が共産、国民民主両党に呼びかける候補者調整も難航中だ。党中堅は「決戦は近づくが、等に勢いが感じられない」と危機感を募らせる。

 

今国会は6月15日で会期末を終えるが、6月1日の衆院予算委員会の集中審議では、野党は対立軸を示そうと岸田文雄首相を追求した(朝日新聞6月2日、要約)。

――昨秋の衆院選敗北後、泉氏は「『批判ばかり』のイメージの転換」を訴えて代表に就任。国会論戦も「提案型」を掲げて臨んだが、党内でも「考えがよく見えない」「埋没している」などの指摘が相次いだ。今国会は野党第1党として存在感を発揮できず、岸田政権の高支持率を許してきた。その泉氏が5月26日の衆院予算委員会に続き、質問に立ったのは「焦りの裏返し」(中堅)でもある。党国会対策委員会幹部によると、泉氏が「再登板」を申し出たという。参院選前の最後の「党首対決」となる可能性が高く、政権との対決姿勢を打ち出すのに腐心した。

 

それにしても、5月3日の憲法記念日に公表された朝日新聞の大型世論調査(全国有権者3000人を対象にした3月15日~4月25日の郵送法による調査、有効回収率は63%)では、注目すべき結果が出ている。

(1)今夏参院選の比例区投票先を昨秋の衆院選比例区の投票先と比較すると、自民43%(昨秋衆院選)→43%(今夏参院選、以下同じ),立憲17%→14%、維新6%→17%、公明5%→5%、国民3%→3%、共産5%→4%などとなって、維新の勢いが増している。

(2)立憲が今夏の参院選で共産との選挙協力を進めるべきかについては、「進めるべきだ」24%、「進めるべきではない」62%と大差がついた。立憲支持層でも「進めるべきだ」32%、「進めるべきではない」60%と、ほぼ同様の結果だった。無党派層では26%対53%で、「進めるべきではない」が多かった。

 

こんな世論動向に押されたのか、立憲は6月3日、今夏の参院選の「右寄り」の選挙公約を発表した。翌日6月4日の朝日新聞は「立憲公約 防衛力を強調」「『鬼門』の安全保障 路線転換」、毎日新聞は「保守層取り込み 未知数」「立憲公約『生活安保』党内不満も」との見出しで、その特徴を解説している(要約)。

 

《朝日新聞》

――立憲民主党は3日、参院選の公約を発表した。公約の柱で「着実な安全保障」を掲げ、ウクライナ情勢で関心が高まる防衛力の整備を強調。これまで主張してきた安全保障法制の「違憲部分の廃止」は公約の末尾で触れるにとどまった。立憲は昨年の衆院選で敗北。従来路線からの転換を図る泉健太代表の意向が反映された形だ。

――安全保障分野は党内で立ち位置が幅広く、防衛力強化に慎重な議員も多い。こうした中、防衛費についても、泉氏は会見で「真に必要な防衛力を整備する結果、当然増えることもある」と踏み込んだ。一方、「野党共闘」の原点だった安保法制の「違憲部分の廃止」は、公約末尾の「主な政策提言」に小さく盛り込むだけとなった。小川淳也政調会長は「国防の充実、強化に矛盾するととられかねず、わざわざ重点政策に掲げることは控えた」と明かす。「鬼門」(党関係者)とされてきた安全保障で、これまでの姿勢からの転換を図る背景には、参院選を控え「保守層の票を取らないと勝てない」(中堅)との思いがある。

 

《毎日新聞》

 ――立憲民主党が3日に発表した参院選公約は、生活目線から政権と対峙する姿勢を強調する一方、物価高騰対策や防衛体制の整備に重点をおき、キャッチフレーズ「生活安全保障」を前面に出して保守層の取り込みを狙うものだ。ただし、作成過程では党内のリベラル系議員から異論も出ており、泉健太代表のもとでの初の大規模国政選挙で、公約をどれだけ浸透させられるかは未知数だ。

 ――こうした主張の背景には、2021年衆院選で保守層への浸透が不十分だったとの反省がある。立憲には旧希望の党から旧国民民主党を経て多くの議員が合流したが、旧立憲が17年の衆院選比例代表で獲得した票(約1100万票)から40万票しか増やせなかった。旧希望は17年衆院選比例代表で約970万票を獲得しており、立憲幹部は「参院選で票を増やすためには旧希望の票を取りに行かないといけない。保守層にウイングを伸ばすのは当然だ」と公約の狙いを解説する。

 

 しかし立憲の支持率は、政策を「右寄り」にすれば伸びるというものではあるまい。政策を「右寄り」にすればするほど与党と変わらなくなり、ますます野党としての存在感を失うことになる。それを象徴するのが、泉代表の主張する「提案型政策」「提案型政党」の体たらくだ。今日6月5日の朝日新聞は、「注目の京都 早くも論戦」「立憲の『牙城』、維新が攻勢『最重点区』」「自民・共産も党首級が続々」と伝えた。

 ――参院選の公示日が有力視される22日が約半月後に迫り、各党が重視する京都選挙区(改選数2)で4日、党幹部らによる論戦が事実上始まった。同選挙区は自民党新顔、立憲民主党現職、共産党新顔に加え、国民民主党の推す日本維新の会新顔らが立候補する予定で激戦が予想される。国民の前原誠司選対委員長(衆院京都2区)が、維新の擁立する楠井裕子氏と並び、「勝たせていただきたい」と訴えた。「維新と改革のスピリットを共有しながら日本を変えたいと思っていた」とも述べた。

 ――維新は昨秋の衆院選で躍進し、参院選で17選挙区に18人を擁立する予定。中でも衆院選で一定の比例票を獲得した大阪、京都、兵庫、東京、神奈川、愛知を最重点区に指定。特に「最最最最最重点選挙区」(藤田文武幹事長)として京都に力を入れる。維新幹部は「全国的に『維新は大阪の政党』というイメージがいまだに強い。京都で立憲を破って当選する意味は、1議席以上に大きい」と語る

 

 事実、京都3区の東山区や左京区を歩くと、至る所に維新候補と前原氏のツーショットポスターが貼られている。立憲の要職(幹事長)を長年務めてきた福山氏がもし敗れるようなことがあれば、地元の泉健太代表(衆院京都3区)にとっても執行部の責任問題に直結する。昨日も今日も福山・泉の立憲宣伝カーが市内を走り回っているのは、その危機感を物語っている。果たして、立憲の保守票狙いの「右寄り」の選挙公約が成功するのか、それとも野党としての存在感を失った立憲が維新や国民との狭間に埋没するのか、参院選の結果が待たれる。(つづく)