聞くだけ、言うだけ、何もしない、毎日新聞調査の内閣支持率急落は岸田首相への一大打撃となった、岸田内閣と野党共闘(その22)

毎日新聞が8月20、21の両日に実施した全国世論調査によると、岸田内閣の支持率は7月16、17日の前回調査52%から16ポイント下落して36%になり、昨年10月の内閣発足以降で最低となった。不支持率は54%で前回37%より17ポイント増加した。毎日新聞の内閣支持率調査は、日経新聞や読売新聞のように最初の質問で回答しなかった人に「どちらかと言えば」と、重ねて支持、不支持の回答を迫る「重ね聞き」をしない。世論調査の基本を踏まえた簡明率直な調査だから、結果がクリアに出ることで知られている。その調査で内閣発足以来の最低の数字が出たのだから、岸田首相もさぞかし驚いたことだろう。

 

しかし、この結果は考えてみれば当然のことだ。この間、岸田首相は旧統一教会と自民党の関係について、「それぞれが判断することだ」として何もしてこなかった。自民党国会議員が口先だけで「無関係だ」と申告すれば、政務三役(大臣、副大臣、政務官)に派閥均衡で起用するのだからこれほど安易なことはない。果たせるかな、共同通信が全国会議員を対象として行ったアンケート調査では、旧統一教会と関係のある議員は106人にも上ることが明らかになった(8月13日)。そのうち自民党議員は82人で全体の8割を占め、しかも8月10日の内閣改造で岸田首相が新しく任命した閣僚7人と副大臣、政務官計20人が含まれているのだから、何をかいわんやだ。

 

 岸田首相は8月10日に内閣改造と自民党役員人事を実施した。現職閣僚の中に旧統一教会と関係のある人物がぞろぞろ出てきたので、「これは危ない!」と思ったのだろう。だから、わざわざ前倒しして内閣改造に踏み切ったのだが、これが裏目に出た。本人の「自己申告」に任せて何の調査もせず、言われた通りの人事を進めた結果がこれだ。改造前よりも一段と旧統一教会関係のメンバーがずらりと並ぶことになったのである。

 

 内閣改造後の世論調査では、支持率が改造前より上昇するのが通例だ。岸田首相もそのことを期待して内閣改造を実施したのだろう。ところが、今回の内閣改造と自民党役員人事については「評価しない」68%、「評価する」19%、「関心がない」13%と、否定的評価が圧倒的だった。自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係に問題があったと思うかとの質問では、「極めて問題があったと思う」64%、「ある程度問題があったと思う」23%、「それほど問題があったとは思わない」7%、「全く問題があったとは思わない」4%と、約9割が問題視している。自民党支持層でも7割超が「問題があった」と回答したという。まさに〝総スカン〟という状況だ。

 

 なぜ、こんな状況になったのか。今回の内閣改造人事には、何事も決断しない(できない)岸田首相の本質があからさまに出ているというべきだ。野党の自滅で大勝した総選挙のお陰で「黄金の3年間」を手に入れたことに安堵したのか、それとも奢りが生じたのか、国民世論には一切目を向けず、安倍派の顔ばかりを見て派閥人事を采配したことがその原因だ。旧統一教会関係者が圧倒的に多い安倍派を排除すれば、党内基盤が崩れることを恐れるあまり、旧統一教会と根絡みの関係にある人物を要職に起用するなど、目先の党内力学ばかりに目を奪われ、国民世論の動向や民意の所在に目が向かなかったのである。こんな人物に一国の宰相が務まるわけがない。

 

 それにしても、旧統一教会と自民党の関係がこれほど根深いものであることが明らかになったきっかけは、安倍元首相の暗殺事件だった。狙撃した犯人が旧統一教会の痛ましい犠牲者であり、絶望のどん底に突き落とされた青年であったことが、国民世論を大きく動かしている。暗殺という犯罪行為は肯定できないものの、それに至った深刻な背後事情を考えるとき、その社会的影響の大きさに世論は愕然としたのである。そして、その根源となった安倍元首相の祖父岸信介氏やそれに連なる極右勢力の存在の恐ろしさに気付いたのだった。

 

 国民世論の所在は明白だろう。毎日新聞調査の政治家は旧統一教会との関係を絶つべきだと思うかとの問いに対しては、「関係を絶つべきだ」86%、「関係を絶つ必要はない」7%だった。自民党支持層でも「絶つべきだ」77%、「絶つ必要はない」12%だった。この民意に反して政治を行うことは許されないし、また不可能だというべきだ。それでも、岸田首相はまだ決断できないらしい。首相は22日夜、オンライン形式で記者団の取材に応じ、旧統一教会と自民党議員の関係について「政治家それぞれの責任で明らかにし説明をすることが基本だ」と述べ、あくまでも政府による調査を拒否した(各紙8月23日)。

 

この期に及んで、岸田首相はまだ事態の深刻さを理解できていないらしい。政府による徹底的な自民党議員の「身体検査」を実施することなく、事実をあいまいにしたままで事態を乗り切れると考えているのではないか。NHKは一貫して旧統一教会関係のニュースを取り上げないが、民放各社は連日自民党と旧統一教会の関係を掘り下げている。岸田首相はこのメディア状況を甘く見てはいけない。遠からず政府責任で調査に踏み切らざるを得ない日がやってくるだろう。

 

加えて、岸田首相にとってはもう一つの難題が浮上している。言うまでもなく、安倍元首相の国葬問題である。ある歴史学者は「国葬の日が近づいて来ると国民世論も賛成側に変化する」と書いていたが、これは的外れの予測ではないか。最近の世論調査の動きから言えば、調査が行われるたびに「国葬反対」の回答が増えてきている。旧統一教会問題と安倍元首相の国葬問題が関連して捉えられ、国民の疑問が日に日に大きくなってきているからだ。このままでは、国葬の日が近づくにつれてこの動きが小さくなることはない。国葬の当日、会場の前では「国葬反対」のデモが繰り広げられないとも限らないからである。(つづく)