同じことを繰り返すだけの〝丁寧な説明〟では国民の信は得られない、安倍「国葬」をめぐる世論の変化について、岸田内閣と野党共闘(その24)

 9月に入ってから、各メディアの世論調査が注目を集めている。12日発表のNHK世論調査、13日の朝日新聞調査、そして15日の時事通信調査が相次いで内閣支持率の〝急落〟を報じたからである。一般的に言って、内閣支持率が下がることはそれほど珍しくないが、支持率が急速に低下するとか、不支持率が支持率を上回るようになると耳目を引くようになる。政権運営に危険信号が点滅していることが、誰の目にも明らかになってくるからだ。

 

  NHK調査では、内閣支持率が先月より6ポイント下がって40%になり、去年の岸田内閣発足以来最も低くなった。不支持率は12ポイント上がって40%となり、支持率と不支持率が同率になった。支持率の下落(6ポイント)よりも不支持率の上昇(12ポイント)が2倍になるほど大きいのは、これまで支持してきた人たちが不支持に回ったことに加えて、どちらでもない人が不支持に転じたことを示している。いわば、岸田内閣の評価をめぐって様子見をしていた人たちが、大げさに言えば「雪崩を打って」否定側に移行したのである。

 

 その理由は、以下の質問に対する回答からも明らかだろう。岸田首相が先月行った内閣改造と役員人事については、「大いに」と「ある程度」を合わせて「評価する」34%、「あまり」と「まったく」を合わせて「評価しない」56%。政府が今月27日に安倍元首相の「国葬」を行うことについては「評価する」32%、「評価しない」57%。「国葬」についての政府の説明については「十分だ」15%、「不十分だ」72%。自民党が今後、旧統一教会や関連団体と一切関係を持たないことを基本方針とし、党所属の国会議員との関係を点検して公表したことについては「十分だ」22%、「不十分だ」65%と、いずれも否定側の回答が圧倒的に多い。

 

 この結果は、「旧統一教会との関係を断ち切る」と称して岸田首相が行った内閣改造や党役員人事、党所属国会議員の同協会や関連団体との関係に関する自己申告調査、そして安倍元首相の「国葬」の実施と説明の全てが国民の信を得ていないことを示している。国民の疑惑に何ら応えることなく、ただ「丁寧な説明」を繰り返すだけの岸田首相に対して、世論はもはや「政権を担う能力なし」と判断していると見るべきであろう。

 

朝日新聞調査も同様の結果を示している。内閣支持率は先月より6ポイント下がって過去最低の41%になり、不支持率は8ポイント上がって47%となり初めて逆転した。「国葬」への賛否は、先月の「賛成41%、反対50%」から「賛成38%、反対56%」と反対が大きく増えた。安倍元首相の「国葬」に関する岸田首相の説明には「納得できる」23%、「納得できない」64%、安倍元首相と旧統一教会の関係について自民党が調査すべきかについては「するべきだ」63%、「その必要はない」31%と大差がついた。自民党の政治家が旧統一教会との関係を断ち切れるかについては、先月の「断ち切れる」16%、「断ち切れない」76%から、「断ち切れる」12%、「絶ち切れない」81%に更に差が開いた。つまり国民世論は、自民党と旧統一教会との関係は何ら解明されておらず、その大元の安倍元首相と同協会との関係の調査に踏み込まないようでは、これまでの深刻な〝癒着関係〟を解消できないと判断しているのである。

 

時事通信調査ではさらに結果が鮮明になった。時事通信は各社が電話自動音声で調査しているのに対して、調査員が回答者に個別面接して調査していることが特徴だ。社会調査法の常識として、この方法はコストがかかるが正確な回答を得られることは言うまでもない。また有効回答率も高く、今回は61.9%だった。結果は、内閣支持率は前月比12.0ポイント減の32.3%に急落し、昨年10月の政権発足後最低となった。不支持率は同11.5ポイント増の40.0%で、初めて不支持率が支持率を上回った。安倍元首相の「国葬」については「賛成」25.3%、「反対」51.9%と、反対が賛成の倍以上になった。岸田首相の旧統一教会問題への対応については「評価する」12.4%、「評価しない」62.7%、首相や自民党議員の同問題への説明については「納得できる」5.5%、「納得できない」74.2%と、数倍から桁違いの賛否の差が開いている。

 

時事通信は、この結果を次のように分析している。

(1)NHKや朝日新聞の内閣支持率がまだ40%台に止まっているのに対して、32%にまで落ち込んだ時事通信の内閣支持率は、政権維持の「危険水域」の目安とされる30%に近づいてきている。このまま内閣支持率が低下して30%を割り込むようになると、首相の求心力低下に拍車がかかり、政権維持が困難になる。

(2)深刻なのは、自民党支持層の理解も得られていないことであり、「国葬」への「賛成」47.3%と半数に届かず、「反対」33.2%だった。旧統一教会に関する首相らの説明も「納得できる」13.0%、「納得できない」63.9%と、まったく信用されていない。

(3)与党内は危機感に覆われつつある。自民党の森山選対委員長は「支持率が非常に厳しい状況になってきた」との認識を示し、二階派幹部は「歯止めがかからない。菅政権の末期と似てきた」と述べ、首相の身内である岸田派中堅も「肌感覚で逆風を感じる」と不安を口にしている。

(4)「首相が何をしたいのか分からない」との不満も強い。岸田内閣は「新しい資本主義」を看板政策に掲げるが、自民党内ですら理解が広がっていない。公明党ベテランは「政権の柱がない。全て対症療法で右往左往している」といら立ちをあらわにしている。

 

 安倍元首相の「国葬」に対してこれほど国民の間に世論反対が広がっているというのに、予定通り9月27日に行われることになっている。しかし、野党陣営のなかでも「国葬」への出欠をめぐって大きく意見が分かれている。日本維新の会や国民民主党が真っ先に出席の意思を示したのは予想されたことだが、見苦しいのは立憲民主党の態度が最後まではっきりとしないことだ。9月16日の京都新聞はこの問題を大きく取り上げ、立憲民主党の態度が煮え切らいないことの背景に、泉健太代表の「決断できない」姿勢が横たわっていることを鋭く批判している。

 (1)安倍元首相の「国葬」をめぐる立憲民主党の泉代表の発言は揺れに揺れてきた。「本来なら出席する前提に立っている。本当に悩ましい(9月2日)」、「説明責任を果たしていない。政府の対応を見極めたい(8日)」、「政府の考えに変更がなければ、執行役員の出席は難しい(13日)」などと、結論を一貫して先送りしてきた。

 (2)泉代表が明確な方針を出さないまま状況が推移する中で、政府から国会議員に「国葬」への案内状が届き、立憲民主党の各議員が執行部判断を待たずに出欠意向を示し始めた事態が発生する。慌てた執行部は9日、役員以外を除いて出欠は各議員の自主判断とする方針を通知した。

 (3)13日に開いた両院議員総会では「幹部は党の明確な姿勢を示してほしい」「対応が中途半端だ」との意見が相次ぎ、同日、政府への質問書を提出したが、翌14日に届いた返事は「予想通りゼロ回答」(幹部)。これを踏まえて、執行部は15日に欠席方針を漸く決定した。

 (4)泉代表の一連の対応に、対しては、「まともな回答が返ってこないのはわかっていたはず。遅いとしか言いようがない(政務三役経験者)」、「欠席をすぐ宣言せず、もたもたするからだ(元幹部)」、「国葬対応一つを取っても、泉氏が何をしたいのか全く見えてこない(重鎮議員)」などの呆れた声が溢れ返っている。

 

 驚いたのは、あろうことか連合の芳野会長までが15日の記者会見で、「首相経験者が凶弾に倒れたことに弔意を示すため、労働者代表として出席する」と安倍元首相の「国葬」への出席意向を表明したことだ。「国葬の決定過程や法的根拠に問題がある」「苦渋の決断」などの言い訳をしきりに並べながら、結局は「出席」するというのだから、連合にとっては国民の民意に従うことよりも自民党との盟友関係を維持することの方が大切なのだろう。芳野氏が「労働者代表」であることはもはや誰もそう思っていないが、彼女が安倍元首相の「国葬」に出席することによって、早晩その仮面を剥がれる日がやってくるに違いない。(つづく)