〝トカゲの尻尾切り〟を何時まで続ける気なのか、岸田首相の消費期限は刻々と近づいている、岸田内閣と野党共闘(その28)

 山際大志郎経済担当相の辞任に引き続き、今度は葉梨康弘法相が辞任した。各紙が一面トップで報じているように、これは〝更迭〟そのものであり、岸田首相の任命責任は避けられない。それでも、閣内にはまだ怪しいのがウヨウヨいるというのだから、このままでいくと切るべき「尻尾」がなくなってしまう。その時は「頭」を切り落とさなければならなくなり、岸田首相の命運も尽きることになる。

 

この内閣は、まるで爬虫類みたいな薄気味悪いイメージで覆われている。なにしろ、頭目の岸田首相が周りをキョロキョロ窺うばかりで、いったいどちらの方向を向いているのか分からない。聞き耳を立てている(あるいはそのふりをしている)だけで、言うべきことは言わないし、為すべきこともしない。内閣はもとより政権自体が機能不全に陥っているのが、分からないのだろうか。内閣不信任案がいつ出てもおかしくないし、それがきっかけで内閣総辞職と解散につながっても何ら不思議ではない。

 

国民の中では岸田内閣に対する失望と不満が渦巻いている。失望が絶望に変わり、不満が怒りに転化する瞬間が刻々と迫っているというのに、そんな切羽詰まった空気も読めないで、首相は党内運営だけに気を取られている。自民党実力者との会食を重ねれば、政権が安泰だとでも考えているのか、連日会食に精を出す有様だ。「目先のこと」しか見えず、「その日の対応」に汲々としているような人物は、およそ一国の指導者の名に値しない。それが分かっていないところに、この人物の底の浅さと悲しさがある。

 

一連の事態に対する論評は枚挙の暇もないが、11月6日の毎日新聞の特大スクープ「旧統一教会教祖の発言録が流出、『安倍派を中心に』浮かぶ政界工作」は、とりわけ重大な内容を含んでいる。1956年から2009年までの53年間、旧統一教会の創始者文鮮明氏の発言録615巻(韓国語)の中から毎日新聞記者3人が当該部分の記述を翻訳したところ、文鮮明氏が岸信介、安倍晋太郎、安倍晋三の「親子孫3代」に系統的に工作していたことが判明したというのである。本来ならば、政治学者たちが発掘して解明しなければならない重要文献を、担当記者らが粘り強く検索して掘り起こしたことは特筆に値する。国際勝共連合の機関紙「思想新聞」の記事も含めて当該部分を引用すると、次のような事態が浮かび上がる。

 

〇世界平和統一家庭連合(旧統一教会)創始者の文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が1989(平成元)年に韓国で行った説教で、自民党の安倍晋太郎元外相が当時会長を務めていた保守系派閥「安倍派」(清和会)を中心に国会議員との関係強化を図るよう信者に語っていた。約53年分にわたり韓国語で記された文氏の発言録615巻の中から毎日新聞が当該部分の記述を翻訳・確認し、判明した。晋太郎氏の息子で、今年7月の銃撃事件で凶弾に倒れた安倍晋三元首相がいつ、どのように教団と深い関わりを持ったかについてはなお謎が多い。晋太郎氏の義父・岸信介元首相と文氏との間で築かれた関係が源流にあるとされるが、その後を継いだ晋太郎氏を足掛かりにした教団の政界工作が、教祖の肝いりで模索されていた可能性が浮かんだ。

 

〇1989年7月4日、文氏は日本の政治をテーマに韓国で行った説教の中で「国会議員との関係強化」に言及し、「そのようにして、国会内で教会をつくる」「そこで原理を教育することなどで、全てのことが可能になる」と語った。加えて「国会議員の秘書を輩出する」「体制の形成を国会内を中心としてやる。そのような組織体制を整えなければならないだろう」「そして、自民党の安倍派などを中心にして、クボキを中心に超党派的にそうした議員たちを結成し、その数を徐々に増やしていかないといけない。分かるよな?」と語った。クボキは、日本の教団本体と勝共連合で初代会長を務めた久保木修己氏を指すとみられる。さらに「行動結束と挙国だ。挙国とは国を挙げて一致団結することだ」「日本の中央の国会議員たちだけではなく、地方もそうだ。地方には皆さんがいるよね? 分かるだろ?」と地方政界にも言及した。岸氏、晋太郎氏と「親子2代」の関係を築いた文氏は、岸派を源流とする安倍派との関係を強化することで、日本政界への影響力を高めようとしたとみられる。

 

〇2004年9月16日、「岸首相(の時)から私が(日本の政界に)手を出した」と振り返り、自ら岸氏に接近したことを示唆した。これに続けて「中曽根の時に130人の国会議員を当選させた」とも語った。教団系政治団体「国際勝共連合」が発行する「思想新聞」は、中曽根政権下で行われた1986年7月の衆参同日選で、当選した638人のうち130人について「勝共推進議員」と報じており、文氏は教団の支援によって多くの当選者を輩出したと強調したとみられる。思想新聞によれば、晋太郎氏は1988年2月の勝共連合の懇親会で「皆さんには我が党同志をはじめ大変お世話になっている」とあいさつしたといい、晋太郎氏ら自民党の保守系議員と教団との関係が深まっていたことがうかがわれる。この後、文氏は安倍派を中心とした更なる関係強化を口にする。

 

〇元信者で教団関連の「世界日報」記者だった金沢大の仲正昌樹教授(政治思想史)は「文氏が韓国で語っていた内容をまとめて目にしたのは初めて。日本人の信者向けの発言集に比べると過激な印象だ」と話す。岸氏、晋太郎氏と「親子2代」の関係を築いた文氏は、岸派を源流とする安倍派との関係を強化することで、日本政界への影響力を高めようとしたとみられる。実際、晋三氏が率いていた現在の安倍派を中心とした議員に教団との接点が次々と明らかになっており、清和会との関係強化を訴えた文氏の発言が今につながっているとみることもできる。仲正教授は「教団はいろんな議員にアプローチする中で結果的に『反共』の議員が集まる清和会との関係強化に狙いを絞ったのではないか。政界工作の戦略を文氏と教団幹部のどちらが考えていたかは不明だが、文氏が方針を示すことで教団の活動が強化されたのは間違いないだろう」と指摘した。

 

 この記事が掲載された頃、読売新聞の全国世論調査が行われていた。11月4~6日の3日間に実施された世論調査の結果は、これまでの結果に比べて注目すべき傾向が見て取れる。第1は、内閣支持率と不支持率が逆転し、支持率が過去最低の36%、不支持率が過去最高の50%を記録したこと。第2は、女性、若年層、自民党支持層に「岸田離れ」の傾向が顕著になったことである。

 

 周知のように、読売新聞の世論調査は「重ね聞き」の手法を取っている。まず「内閣を支持するか」「しないか」を尋ね、次に回答しなかった人に対して「どちらかといえば」とさらに回答を促し、最初の回答と2番目の回答を合わせて支持率、不支持率を算出するのである。最初と2番目の回答の内訳と合計を正確に示すのであれば問題ないが、内訳を示さないで合計だけを掲載するので、読者は「はっきりした支持・不支持」と「あいまいな支持・不支持」の区別がつかないまま、結果を受け取ることになる。一種の「世論操作」ともいうべき手法だろう。

 

 とはいえ、調査結果の推移を見ると、今回の世論調査は自民党を震え上がらせるには十分だった。10月末に大規模な「総合経済対策」を打ち上げたにもかかわらず、その政治効果がまったくみられず、国民が岸田内閣に「愛想を尽かしている」ことが明白になったからだ。解説記事には次のような一節がある。

 

 〇今回の調査で特に「岸田離れ」が顕著だったのが、「女性」「若年層」「自民党支持層」だ。女性の内閣支持率は、前回10月調査から11ポイント下がって36%となり、不支持の49%と初めて逆転した。18~39歳の「若年層」は、前回調査で50%が内閣を支持していたが、今回は36%と一気に14ポイント下がった。40~59歳は34%、60歳以上は38%で、それぞれ前回比で9ポイントと6ポイント下落した。

 

 〇「支持基盤」であるはずの自民党支持層の内閣支持率も前回比7ポイント下落の66%と、初めて7割を下回った。自民党の支持率自体も前回比7ポイント下落の33%となり、菅政権末期の2021年8月調査の32%に近い水準となった。ただ、野党の支持率も低迷したままで、無党派層が前回比6ポイント上昇の43%で内閣発足後最高となった。

 

 解説記事には、年代別の内閣支持率の推移(今年7月~11月)もグラフで掲載されているが、18~39歳は54%から36%へ、40~59歳は63%から34%へ、60歳以上は74%から38%へと、それぞれ一直線で下落している。僅か4カ月で各年代とも半分近く下落するというのは、尋常ではない。アメリカ中間選挙では、共和党の圧勝を阻んだのが「女性」「若者」「リベラル派」だったと言われている。岸田内閣も「女性」「若者」「リベラル派」に見放されたらもうお終いだ。

 

最後に、岸田内閣に対する江田憲司衆院議員の指摘を紹介しておこう(毎日新聞11月8日)。

 〇安倍・菅政権と「強権的な政治」が続いたあと、人柄の良さそうな岸田文雄首相の「癒やしの政治」に、国民が当初、期待したところはたしかにあった。自ら「聞く力」を標ぼうしたこともあり、朝令暮改も逆に「柔軟さの表れ」と好意的に解釈された。しかし、「丁寧な説明」と言いながら、丁寧なのは言葉だけで中身がない、「聞く力」と言っても、それは国民の声を聞く力ではなく、党内の有力者、派閥の声を聞く力だということが段々とわかってきた。悪い言葉でいえば「化けの皮がはがれた」、それが内閣支持率急落の最大の要因だ。

 

〇国葬は岸田氏にしては珍しく電光石火の早業で決定したが、明らかに最大派閥である安倍派に配慮したためだった。山際大志郎前経済再生担当相の更迭が遅れたのも、山際氏の派閥の領袖(りょうしゅう)である麻生太郎氏、幹部の甘利明氏に配慮したからだ。一方で、世論には鈍感だ。その象徴が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題だ。当初は、政治家個々人で説明責任を果たすべきだと言っていたが、すぐに党で調査せざるを得なくなった。宗教法人法による解散命令の請求の前提となる調査すら、するともしないとも言わなかった。被害者救済の必要性には言及しながら、これも当初は今国会で救済法案を出すとも出さないとも言わなかった。それが、野党の攻勢と何より世論の強い後押しで受け入れざるを得なくなった。

 

〇最近では、旧統一教会との選挙時の「政策協定」(推薦確認書)の問題が出てきたが、これまでの学習効果もなく議員個人任せだ。安倍晋三事務所や細田博之衆院議長の調査は引き続き、かたくなに拒む(略)。その一方で、「所得倍増」とか、「子ども予算倍増」とか、簡単に「倍増」という言葉が出てくる。しかし、それを野党からただされても「今後検討、検討」の「検討使」。目玉政策の「新しい資本主義」も、「分配」の2文字が消え失せて何が「新しい」のかまったくわからなくなった。内閣支持率急落や岸田政権を支える党内有力者や財界などを気にするあまり、右往左往しているのが今の岸田政権の現状だろう。(つづく)