「三度目の正直」はなかった、残るは「内閣総辞職」だけだ、安倍政権の〝負の遺産〟を清算できない岸田内閣は必ず自滅する、岸田内閣と野党共闘(その29)

 「三度目の正直」という言葉がある。最初の二回は失敗しても三回目はうまくゆく、という意味だ。山際経済担当相と葉梨法相の連続辞任に関しては対処を誤ったが、「辞任ドミノ」につながる寺田総務相の辞任だけは何としても避けたい、――おそらく岸田首相はこう思っていたに違いない。だが、「三度目の正直」も泡と消え、首相は11月21日の持ち回り閣議で寺田総務相を更迭せざるを得なかった。

 

 岸田首相はその際、例によって記者団に「私自身の任命責任について重く受け止めている。山積する課題への取り組みを進めていくことで職責を果たしていく」と述べた。任命責任は「重く」受け止めるが、それを具体的にどうあらわすかははっきりさせず、「職責を全うする」の決まり文句で終わるのが岸田首相の常套手段である。だが、国民は二度や三度もだまされない。「三度目の正直」が言葉としてはあっても、「四度目の正直」はどこを探しても見つからない。四度目は「内閣総辞職」以外に道がなく、この先岸田首相を待っているのはこれくらいのものだ。

 

 松本新総務相についても就任直後からケチがついた。「しんぶん赤旗」が翌1月22日、松本新総務相の資金管理団体が会場収容人数を超えるパーティー券を販売し、政治資金規正法違反の疑いがあると報じた。松本氏の資金管理団体が会場収容人数を超えるパーティー券を販売したことが、政治資金規正法違反の疑いがあると伝えたのである。「松本たけあき後援会」の政治資金収支報告書によると、同団体は2018~20年に姫路市内のホテルでパーティーを開催しているが、毎年千人分のパーティー券購入があったとみられ、会場の最大収容人数を超過しているという。

 

松本氏は就任記者会見でこの件を聞かれ、「法にのっとり適切に処理している」と強調した。岸田首相は1月22日の参院本会議で、松本氏の疑惑が報じられたことに関し「まずは本人から適切に説明すべきものだ」と述べた。これまで繰り返してきた答弁の、そのまたの繰り返しである。疑惑が報じられた本人は「適切に処理している」と強弁し、任命権者の首相は「本人が適切に説明すべき」と責任を回避する。事態を堂々巡りの迷路に誘い込み、メディアの関心が薄れ、国民の記憶が遠のくのを待っているのだろうか。

 

 加えて、岸田首相自身にも公職選挙法違反の疑いがあることが11月22日に報じられた。22日の「文春オンライン」によると、広島県選挙管理委員会に提出された2021年衆院選の同報告書に添付された領収書270枚のうち、ただし書きが空白のものが98枚、宛名が空白のものが141枚あったという。公選法では、選挙運動に関するすべての支出について、金額や目的などを記載した領収書などの支出を示す書面を選挙管理委員会に提出するよう義務付けている。記事によると、事実関係の確認を求めた週刊文春に対し、岸田首相の事務所は「回答期限には間に合わない」と回答したという。

 

 ところが11月24日朝、首相は昨年の衆院選の選挙運動費用収支報告書に宛名などが空白の領収書が多数添付され、公職選挙法違反の疑いがあるとの報道について、「記載の一部について不十分な点があることを確認している」と認め、再発防止を図る考えを明らかにした。首相は「収支報告書本体には(支出)目的を明記したが、添付書類である領収書には一部不記載のものがあった」と説明した。原因については「出納責任者の確認漏れだったと聞いている」とし、「今後このようなことがないように、改めて事務所に対して指示を出した」と述べた。報告書の修正などについては「選挙管理委員会と相談した上で適切に対応したい」と記者団に語った(朝日新聞電子版11月24日)。

 

 さまざまな疑惑を指摘されながら、言い逃れに終始した寺田前総務相に比べれば、首相はいち早く疑惑を認めたとはいえ、公職選挙法に違反した政治責任は免れない。首相という座にありながら、違反事実を他人事のように説明し、「指示を出す」「適切に対応したい」と言うだけでは、とうてい国民の納得は得られない。それにしても、なぜ首相はかくも責任逃れの態度に終始するのか。究極の原因は、岸田内閣が安倍政権の事実上の後継政権として生まれ、安倍政権の〝負の遺産〟を清算できない立場に置かれているからである。

 

 その象徴的問題が、岸田首相が安倍元首相や細田衆議院議長と旧統一教会との関係を(どんなことがあっても)調査して明らかにしないことだ。もしそのような態度を少しでもみせれば、最大派閥の安倍派から即座に倒閣運動が起こるので、怖くて手を着けられないのだろう。安倍元首相を元凶とする自民党と旧統一教会との癒着関係は、岸田内閣の「喉元に刺さった骨」であり、「肉を切らせて骨を断つ」だけの決断力がなければ、解決できない根本問題である。「聞くだけ」「丁寧に説明するだけ」の岸田首相にとっては、あまりにも重すぎる課題だと言わなければならない。

 

 そんな首相が、何とか活路を見いだそうとしているのが総合経済対策だ。大型補正予算を組み、水際対策の緩和などによる外国人観光客の増加や国内旅行の回復などによって景気を押し上げ、支持率を回復させようとする一連の計画である。でも、この目論見が成功するには大きなハードルがある。私は京都の伏見稲荷大社周辺で、京都駅にも比較的近い場所に住んでいるが、最近の観光スポットや駅周辺では近寄れないほど混雑が激化している。一時は数百人レベルまで減少していた京都のコロナ感染者数が、最近では千人単位で増加を続けている。このままでいけば、第7派を超える感染者数が現実のものになることは間違いない。

 

アベノミクスの後遺症である円安、そしてそれに伴う物価上昇も深刻だ。賃金はいっこうに上がらず、年金も年ごとに減ってきているというのに、生活に必要な食料品や必需品が驚くほど値上がりしている。パンやサンドイッチ、バターやマーガリン、コーヒーなども目に見えて値上がりしている。値引き販売の広告につられて買いに行ってみると、何のことはない。数量が大幅に減らされているのである。私の周辺では、家人から毎日愚痴を聞かされるのは「たまらん」という、年寄り連中が増えている。内閣支持率を回復させるのは容易なことではあるまい。

 

 サッカーワールドカップ・カタール大会では、日本が緒戦でドイツに勝って世論が湧いている。喜ばしいことは勿論だが、屋内や街頭で肩を組んで絶叫している若者たちの姿をみると、私のような高齢者は次のコロナ感染の大波をつい心配してしまう。何処を向いても面白くない景色ばかりの中で憂さを晴らしたい気持ちは重々わかるが、ワールドカップが終わった後でどんな光景が広がるのか、心配の種は尽きない。(つづく)