日本維新の会の「二股膏薬路線」は、立憲民主党をだませても国民には通用しない、「岸田降ろし」が起こらない理由(3)、岸田内閣と野党共闘(その34)

1月23日から始まる通常国会を前に、日本維新の会と立憲民主党の「共闘」が注目されている。維新の遠藤、立憲の安住両国対委員長は1月12日、政府が打ち出した防衛費増額にともなう増税方針に反対する方針を確認し、23日召集の通常国会でも「共闘」路線を継続することで一致した。維新の馬場、立憲の泉両代表が18日に会談し、正式合意するという(毎日1月13日)。

 

ところが、それから1週間も経たない1月17日、今度は馬場代表が茂木自民幹事長らと会談し、通常国会で維新と自民の主張が重なる憲法改正や安全保障政策などに加え、維新が掲げる国会改革についての議論を進めていくことを確認した。自民側は茂木幹事長に加えて梶山幹事長代行、高木国対委員長が同席し、維新側は馬場代表、藤田幹事長、遠藤国対委員長が出席するという物々しさだ。茂木氏は改憲や安全保障政策、エネルギー政策について「協力して議論を前に進めていきたい」と提案し、この分野で両党が協力することに合意した。馬場代表は会談後の記者会見で自民の対応を評価したうえで、「国家、国民のためになるという判断をすれば、与党側でも野党側でも協力しあっていく」と述べた。この会談の模様を伝えた朝日新聞(1月18日)の見出しは、「維新『国会改革』自民が歩み寄り、通常国会控え連携確認」、日経新聞(同)は「自民と維新、改憲で協力、茂木・馬場会談 安保やエネ政策」というものだった。

 

馬場・茂木会談の翌日1月18日、維新と立憲は通常国会での両党の「共闘」継続について正式に合意し、無駄な予算の大幅削減に向けた両党共同の対策チームの設置など4項目での連携を決めた。第2項目には「岸田内閣の安易な増税政策に反対する。防衛増税については強く反対し、政府に撤回を求める」とある。両代表によると、憲法や安全保障、エネルギー政策など考え方に隔たりのある分野も議員間で意見交換する方針で一致したという。馬場代表は会談後の記者会見で、「もうワンランク上げて、単純な政策の協調から根幹部分での相互理解を得ていく協調に移った」と述べた(毎日、1月18日)。

 

この第2項目は、如何にも岸田内閣の防衛増税に反対しているかのように見えるが、実は幾つかのカラクリがある。第1に「安易な増税政策に反対」というが、これを裏から見れば「安易でない増税政策には賛成」とも読める。「安易」か「安易でない」かの境界線は曖昧模糊しており、「増税反対」はいつでも「増税賛成」に変えることができるからだ。第2に、第2項目は自民内部でも意見が対立している防衛増税の財源である「国債発行」には一切触れていない。「増税反対」でも「国債賛成」であれば、防衛増税を事実上推進することに変わりない。これは国民の拒否感が強い増税を避け、将来にわたって国民負担を強いる戦術の単なる違いにすぎず、自民安倍派にも共有されている政策だ(日中戦争や太平洋戦争期の戦争財源の7割強が「戦時国債」によって調達されていた)。第3に、低賃金と年金の目減り、物価上昇などに苦しめられている国民生活の現状をどう打開するかという今国会の最重要課題が完全に無視されていることだ。立憲が国民生活の基盤を切り崩してきた維新の「身を切る改革」にすり寄る以上、国民生活の改善につながる政策を「共闘」の課題に取り上げることができない。ここに維新と立憲の「共闘」の最大の矛盾がある。

 

それでも立憲は、維新の「二股膏薬路線」に無頓着で気にする気配がない。1月21日の毎日新聞は、「自民 立憲『維新シフト』、幹部相次ぎ『大阪詣で』」と題する見出しで、自民、立憲両党のなりふり構わぬ「維新詣で」の姿を見せつけた。以下はその一節である。

――自民、立憲民主両党の幹部が2025年大阪・関西万博の会場となる大阪市・夢洲を相次いで視察した。日本維新の会にとって万博の成功は最重要政策の一つで、視察を通じた維新との関係強化によって、自民は円滑な国会運営や政権運営を、立憲は更なる「共闘」を図る狙いがある。万博の機運醸成を演出し、任期満了に伴う大阪府知事選、市長選(4月9日投開票)の完勝を目指す維新にもメリットがあり、3者の思惑が一致した形だが、露骨な「維新シフト」に自民、立憲内からは冷めた声も聞かれる。

 ――「万博は国家的行事で、一度現場を見たかった。成功してもらいたいし、しっかり後押ししたい」。20日午後、視察を終えた立憲の岡田幹事長は、急ピッチで工事が続く会場予定地を背景に、万博開催支持を明言した。23日召集の通常国会を目前に控える中、安住国対委員長も同行する力の入れようで「維新シフト」を鮮明にした形だ。

 ――この2日前の18日、自民党の茂木幹事長も夢洲を訪れた。維新の前代表である松井大阪市長や、共同代表の吉村大阪府知事の案内の下、視察した茂木氏は「順調に進んでいる。必要な予算、制度設計など規制改革を進めたい」と述べ、政府・与党の全面協力を約束した。茂木氏はその日の夜も、大阪府泉大津市内の焼き鳥店で吉村氏や遠藤国対委員長と酒席をともにするなど協調ムードを演出した。

 

その一方、21日の読売新聞(オンライン)は次のようにも書いている。

――立憲民主党の岡田幹事長は20日、2025年大阪・関西万博会場となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)を視察した。国会で「共闘」する日本維新の会が万博を重視していることに配慮したものだが、維新共同代表の吉村洋文・大阪府知事と前代表の松井一郎・大阪市長は岡田氏とは面会しなかった。現地では、副知事と副市長が案内役を務めた。岡田氏は記者団に「万博はここまで来たら、ぜひ成功してもらいたい。しっかり後押ししたい」と述べた。ただ、維新が夢洲での整備を目指しているカジノを中核とした統合型リゾート(IR)には、「反対ということは明確に申し上げたい」と強調した。自民党の茂木幹事長が18日に夢洲を視察した際は吉村、松井両氏が同行し、吉村氏は会食も共にした。岡田氏は「待遇」の違いについて、「副知事、副市長が来られ、しっかり説明されたので十分だ」と語った。

 

大阪・関西万博と「カジノ誘致」は一体不可分の関係にある。「カジノ誘致」のために万博開催を企てたと言ってもいいぐらいだ。だから、立憲が口先だけで万博とカジノ誘致を切り離そうとしても話は通らない。大阪では万博開催とカジノ誘致が一体事業として推進され、全てがそのシナリオに沿って進められている。これは、維新の後ろ盾となった菅前首相がインバウンド政策の決め手として「カジノ誘致」を重視していたためであり、横浜が駄目になったいまでは大阪が「最後の砦」となっているからだ。

 

現地では会場用地埋め立て費用やインフラ整備事業が一路肥大し、万博会場パビリオンの建設費高騰なども重なって、建設工事費が当初の想定から大幅に膨らんでいる。その規模は、「身を切る改革」で浮かせた予算を全て注ぎ込んでも到底賄えない額に達しているとの声も聞く。おまけにコロナ禍による世界不況が原因で、当初予定されていた世界の大手カジノ業者が手を引く破目となり、「早ければ2029年秋~冬」としていた開業時期が大幅に遅れる懸念も出てきた(日経、2022年12月9日)。大阪万博とカジノ誘致は維新の「命綱」だ。これに失敗すれば、維新は政党としての生命力を失う。維新の「二股膏薬路線」は、馬場代表が言うような「国家、国民のためになるという判断をすれば、与党側でも野党側でも協力」するようなことではさらさらなく、徹頭徹尾「維新が政党として生き残る」ための党利党略そのものなのである。

 

1月19日の朝日新聞は、維新と立憲の両党が昨年の臨時国会で初めて「共闘」に踏み切ったのは、「ともに伸び悩む党勢を前にした苦肉の策だった」と解説している。また、「そもそも立憲と維新の思惑はすれ違ったまま。立憲としては『共闘』を足がかりに選挙も見すえた結集につなげたい考え」とも書いている。だが、この記事は立憲の手間勝手な思惑をそのまま伝えただけで、それが維新の党利党略に乗せられたものだとする視点はない。政治記事としては恐ろしく水準の低い分析だ。

 

 だが、伸び悩む党勢を維新との「共闘」によって打開しようとする立憲の苦肉の策は、早くも通常国会前に破綻を見せ始めている。時事通信が13~16日に実施した2023年1月世論調査によれば、岸田内閣の支持率は前月比2.7ポイント減の26.5%となり、政権発足後最低だった昨年10月(27.4%)を下回り、政権維持の「危険水域」とされる20%台は4カ月連続となった。これは、防衛費増額の財源として岸田首相が表明した1兆円強の増税方針について、「反対」50.8%が「賛成」24.7%を大きく上回ったこととも関係している。

 

 それでは、政党支持率はどうか。立憲は維新との「共闘」によって党勢の拡大を目指したにもかかわらず、政党支持率は逆に昨年12月の5.5%から2.5%へ半減し、2020年9月の旧国民民主党との合流以来の最低値を更新した。それに比べて、「支持政党なし」は58.7%へと急騰している。維新の「二股膏薬路線」に乗せられた立憲民主党の未来は限りなく暗い。泉代表や岡田幹事長が主導する維新との「共闘」は、野党第一党の崩壊につながることは間違いない。「岸田降ろし」が起こらないのは、放っておいても立憲が墓穴を掘っているからだ。立憲が維新との「共闘」を続ける限り、岸田内閣は「危険水域」にあっても安泰なのである。(つづく)