全ての下部組織に「返事」を求める党中央の「手紙」が〝民主的運営〟の体現と言えるのか、共産党党首公選問題を考える(その4)、岸田内閣と野党共闘(39)

 一般的にいって、手紙とは「用事などを書いて他人に送る文書、書簡」(国語辞典)だと解されている。受け取った手紙に対して返事を書くか書かないかは、個人の自由であり任意であって強制されるべきものではない。手紙は個人の自由意思に基づくコミュニケーション・ツールであって、それ以上でもそれ以下でもないからである。熱烈なラブレターであっても無視されることもあれば、些細な内容でも暖かい反応が返ってくることもある。手紙を書いたから必ず返事をしなければならないなどと迫るのは一種のストーカー行為であって、迷惑行為に他ならない。これが、社会の常識というものだろう。

 

 ところが、共産党機関紙「赤旗」(3月4、5日)には、「〝勝負の2カ月――選挙勝利、党づくりの挑戦をやりぬこう」(3月3日中央委員会幹部会)の訴えを受けて開かれた全国都道府県委員長会議の中で、「手紙」と「返事」が乱発されている。山下副委員長は、討論のまとめで共産党に対するさまざまな批判を「反共キャンペーン」の一言で片づけ、まとめの半分を割いて「『手紙』と『返事』のとりくみが党の民主的運営を体現している」と結論づけた。このまとめは「民主集中制」を原則とする党運営がいかに優れているかを強調したものだが、手紙に関する社会常識から言えば、それを誇らしげに報告する党幹部の気持ちが計り知れない(抜粋)。

 ――わが党に対する反共キャンペーンに対して、いま私たちは党の本当の姿をみてほしい、真の姿を見てほしいということを、反撃の一つの内容として訴えてきました。日本共産党がいかに民主的な運営をやっているかいうことであります。討論を聞いて、また寄せられた感想を読んで、いまやっている私たちの「手紙」と「返事」のとりくみそのものが、党の民主的運営を体現しているのではないかと思いました。

 ――第7回中央委員会総会で私たちは、支部・グループへの「手紙」を、英知を結集して練り上げました。そしてすべての支部・グループに届ける努力をしてきました。そして今度は、支部・グループで2回、3回、4回と繰り返し「手紙」を討議していただいて、中央に「返事」を出し、それぞれの支部の存在意義を再確認しながら、「130%の党」や統一地方選挙勝利に向かって力を発揮しつつある。まさに中央と支部が双方向で学びあいながら、活動している。これほど民主的な党運営をしている政党が他にあるでしょうか。

 ――いまの「手紙」と「返事」のとりくみそのものが、党の規約の精神にもとづいた民主的運営の実態を体現している、証明していると言っても過言ではないと思います。そういう角度からも「手紙」と「返事」の運動に確信をもって、このとりくみをうんと強めていこうではありませんか。

 

 山下氏のまとめに引用されている第7回中央委員会総会(2023年1月5日)では、「『130%の党』をつくるための全党の支部・グループへの手紙」が採択され、次のような内容が強調されている(抜粋)。

 ――今年2023年は、日本の前途にとっても日本共産党にとってもその命運がかかった文字通りの正念場の年になります。第7回中央委員会総会は「特別期間」の成果を踏まえ、来年1月に開催予定の第29回党大会までに第28回党大会で決めた党建設の目標――党員拡大と「しんぶん赤旗」読者拡大で、第28回党大会比130%の党をつくる、青年・学生と労働者、30代~50代などの世代で党勢を倍加し、民青同盟を倍加するという目標を必ず達成することを決定し、この大事業を全党に呼びかけることにしました。直面する統一地方選挙勝利・前進、岸田内閣の大軍拡を許さないたたかいなど国民運動の発展のための方針も決めました。

 ――「130%の党」という大目標をやりとげる道はただ一つです。すべての支部・グループのみなさんがこの運動に参加し、それぞれの条件をふまえそれぞれがもつ可能性をくみつくしてこの運動に主人公として参加することです。それができるならば「130%の党」は必ずつくることができる。私たちはそう確信し、7中総の総意としてこの手紙をみなさんにおくるものです。

 ――全党のすべての支部・グループがどうかこの「手紙」を討議していただき、「130%の党」と若い世代・真ん中世代の党勢倍加をめざすそれぞれの自覚的目標と計画をしたためた「返事」を、党機関を通じてどんなに遅くとも2月末までに中央委員会にお寄せください。「返事」では支部のおかれた実情や一人ひとりの党員のみなさんの気持ちも私たちにぜひともお寄せください。

 

 つまりここでは、党決定として「130%の党をつくるための全党の支部・グループへの手紙」が採択され、それが党方針として全党の支部・グループへの「手紙」という形式をとって指示され、支部・グループが「返事」という形で回答することが求められているのである。このことは、これまでのような通達一辺倒では党中央の意思が下部組織に伝わらないので、これを「手紙」と「返事」という形式にして党勢拡大の大目標を達成しようとする単なる方針の〝形式的変更〟にすぎない。党中央が拡大目標を立て、下部組織に号令をかけるという〝本質〟は何ら変わっていないのである。

 

 それにしても思うのは、鈴木元氏の著書は『志位和夫委員長への手紙――日本共産党の新生を願って』(かもがわ出版)というタイトルになっている。共産党がこれほど「手紙」と「返事」にこだわるのであれば、志位氏が真っ先に自分あての「手紙」に「返事」をしても何ら不思議ではないと思うが、これに関しては「共産党攻撃を書き連ねたもの」(日曜版2月19日)と一蹴し、あまつさえ「規約違反」として処分しようとしている。党方針に忠実な支部・グループには「手紙」を出して「返事」を求めるが、一方、批判的な意見に対しては「党攻撃」「反共キャンペーン」とみなして返事もしない。これでは極め付きの「ご都合主義」と言われても仕方がない。

 

志位委員長は、昨日開かれた京都(円山公園公会堂)での講演会でも、今回の除名問題にともなう批判を「一部大手メディアによる新たな反共キャンペーン」(赤旗3月6日)と見なす発言を繰り返している。これでは「批判を受け付けない政党」「異論を封じる政党」としての評価が高まるばかりで、会場に集まった支持者の拍手は受けても社会からはますます孤立していくことは避けられない。いつまでこのような発言を続けるのか、そしてその影響が次の選挙でどう現れるのか、社会はその行方を注視している。(つづく)