大阪市民が大阪都構想に賛成・反対する理由、政策の是非よりも橋下市長への好き嫌いが主因、3月調査(共同通信)と2月調査(朝日)を比較して(2)、橋下維新の策略と手法を考える(その10)

それでは、大阪市民は大阪都構想をどのような理由で賛成、反対しているのだろうか。実はこの回答の分析が一番難しい。なぜかと言うと、世論調査の質問はせいぜい10数問程度に限られ、回答は基本的に「イエス」「ノー」の選択である。もちろん「イエス」「ノー」にも強弱はあるので、回答は「強いイエス」「弱いイエス」「強いノー」「弱いノー」(表現はいろいろ)の4択になることもある。ところが賛成・反対の理由を尋ねるとなると、いろんな理由があるので回答選択肢は必然的に複数にならざるを得ない。

問題は限られた回答選択肢のなかにどのような内容の理由を盛り込むかということだ。朝日調査はその理由を「行政のむだ減らし」「大阪の経済成長」「住民サービス」「橋下市長の政策」の4項目に絞り、都構想への賛否理由がこの4回答に対照的に集中するように設計されている。共同通信調査は上記4回答に加えて、賛成側の回答には「思い切った改革が必要」「行政の意思決定が速くなる」など、反対側の回答には「大阪市がなくなる」「住所表記が変わる」「メリットがわからない」などそれ以外の回答が列挙されている。

回答者はこれらの回答を読み上げられ、その中から「1つの回答」を選ぶのであるが、余程の人でない限り「与えられた回答選択肢」以外の理由を挙げることはまずない。つまり調査する側が賛否の理由を複数用意して、その中から被調査者が回答を選ぶという形で世論調査が行われるのである。ここまで書いてくると読者の方はもうお気づきだと思うが、調査項目と回答選択肢はマスメディアの問題意識の枠内で設計され、それが「世論」という形で発表されるのである。このことをよく踏まえて賛否理由を見よう。

朝日調査の場合、都構想賛成派の理由は、「行政のむだ減らしにつながる」50%、「大阪の経済成長につながる」28%、「住民サービスがよくなる」8%、「橋下市長の政策だから」9%と、圧倒的に「むだ減らし」と「経済成長」に集中している。これに対して反対派の理由は、その否定である「行政のむだ減らしにつながらない」19%、「大阪の経済成長につながらない」14%、「住民サービスがよくならない」31%、「橋下市長の政策だから」27%と、こちらの方は「住民サービス」と「橋下市長の政策」(への拒否)に集中している。賛成派と反対派で重視する政策の内容が大きく異なること、これを明らかにしたのが朝日調査の特徴だろう。

しかし、大阪都構想の賛否理由にはこれ以外にも重要な項目がある。都構想は「大阪のかたち=統治構造」を根本から変える制度改革であるから、その点に注目すれば、たとえば賛成側の理由として「関西州創設につながる」「広域行政の発展につながる」「国際化・グローバル化につながる」、反対側の理由として「府県制・大都市制の廃止につながる」「地方自治、住民自治の否定につながる」「覇権主義につながる」などの回答選択肢があってもよかったのではないか。朝日調査は大阪都構想を主として「行政改革」の視点(枠内)で捉え、ひょっとすると「地方自治」の視点を意識的に落としているのかもしれない。

共同通信調査の方は、上記の4項目に加えて系統的ではないものの面白い回答が用意されている。たとえば賛成側の理由には「思い切った改革が必要」19%、「行政の意思決定が速くなる」4%、反対側の理由には「大阪市がなくなる」9%、「住所表記が変わる」10%、「メリットがわからない」35%など興味ある結果が出ている。日常具体的な理由と都構想全体の評価に関わる理由が混在しているので回答者は随分迷ったと思うが、こんなゲリラ的な回答で潜在的市民意識を掘り起こすのもひとつの方法だと言えるのかもしれない。

この他、賛否の理由を分析するにはいろんな方法があるが、今回の調査で一番わかりやすいのは、橋下市長を支持するかしないかで都構想の賛否がくっきりと分かれることだ。これは朝日調査でも共同通信調査でも傾向が変わらないので、都構想協議書の可決に関係なく形成されている根強い市民意識だといってよい。朝日調査(2月)では、橋下支持層は「都構想賛成70%:反対13%」であるのに対して、橋下不支持層は「賛成7%:反対84%」という全く正反対の結果が出ている。また共同通信調査(3月)でも、橋下支持層が賛成78%に上る一方、不支持層が反対86%に達するなどこれも対照的だ。すなわち橋下市長への支持・不支持(好き嫌い)が都構想の賛否に直結しているのである。

こうなると、橋下市長の支持率の変化と支持・不支持の理由が気になる。こちらの方は「支持43%:不支持42%」(2月)から「支持52%:不支持40%」(3月)へとかなり大きく変化している。都構想の住民投票が実施されるという「どんでん返し」が橋下市長への期待を高め、それが支持率の増加に結びついたということだろう。一方、不支持率はあまり変わっていない。

橋下市長を支持する理由(朝日、択一)は、「改革の姿勢や手法」64%、「人柄や言動」22%が圧倒的で、「個別の政策」は僅か11%しかない。共同通信調査でも「改革のリーダーシップがある」73%、「人柄や言動が好ましい」6%を合わせると80%になり、「政策がよい」12%、「実績がある」8%を圧倒している。つまり橋下市長の支持率は、政策や実績よりも属人的な「改革イメージ」が人気の根源となり、それが支持率を押し上げているのである。(つづく)