赤旗(日刊紙)を読まない党員が4割を超える現実をどうみるか(追伸3)、入党を上回る離党が発生している事態は深刻にしてかつ重大だ。「底の抜けた樽」に水を注ぐような党勢拡大運動はもはや限界に来ている

 前回に引き続き、拙ブログの「追伸」に寄せられたもう一つのコメントにも触れたい。趣旨は、無理な党勢拡大運動が却って離党者を増やしているのではないか――というものだ。このコメントについては、すでに拙ブログ(1月16日)で詳細に論じているが、改めて考えてみることにしたい。本論に入る前にまずは「党大会決議」(赤旗1月19日)の文面を確認しておこう。

 ――目標としていた「130%の党」、その「第一ハードル」であった第28回党大会時の回復・突破には、党勢拡大、読者拡大とも大きな距離を残している。前大会以降の4年間でみると、全党で1万6千人の新しい党員を迎えてきたが、党員現勢では25万人となっており、党員数で長期の後退から脱することができていない。「赤旗」読者の現勢も85万人となっており、長期の後退から脱していない。党づくりは、わが党の現在と未來にとって、いよいよ緊急で死活的な課題となっている。

 ――私たちの運動は、大きな課題を残している。それは党建設・党勢拡大が、一部の支部と党員によって担われていることにある。入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱、「赤旗」読者を増やしている支部は3割前後である。これをいかにして全支部・全党員運動にしていくかは、私たちが突破すべき大きな課題となっている。

 

 第29回党大会の「志位委員長あいさつ」および「党大会決議」に基づき作成した4年間の党員数の増減を表す計算式は、以下の通りである。

〇27万人余(2020年1月現勢)+1万6千人(入党者、年平均4千人)-1万9814人(死亡者、年平均4954人)-1万6千人余(離党者、年平均4千人余)=25万人(2024年1月現勢)。

 ただし、党公表の27万人「余」という数字は微妙な表現なので、仮に27万1千人(27万500人でも構わない)に置き換えると、離党者は1万7186人(年平均4296人)、27万500人の場合は1万6686人(年平均4171人)となり、いずれの場合も離党が入党を上回っている。

 

 何度でも言うが、この事態は深刻にしてかつ重大だと言わなければならない。党員の4割以上が日刊紙を読んでいないこともさることながら、すでに入党を上回る大量の離党が発生している現実は見過ごせないものがあるからだ。これは、党大会決議がいう「長期にわたる党勢後退から脱していない」といったレベルの話ではなく、‶党の存亡〟に直結する重大事態であろう。離党と死亡を合わせるとその数は「年平均9千人」を超えることになり、入党の倍以上の党員が毎年減少していくのである。このような事実を伝えないで入党数だけを報じることは、情勢を客観的に伝えなければならない公党の政治方針としてはもとより、機関紙の編集方針としても完全に間違っている。志位議長をはじめとする党幹部は、責任ある説明をしなければならないだろう。

 

 しかし、大会決議は「離党」の実態には一言も触れていないし、赤旗にも離党関係の記事は一切見かけない。党規約第10条には「離党」に関する条文が以下のように書かれており、その実態を報じなければならないにもかかわらず、現実はそうなっていないのである。

 ――党員は離党できる。党員が離党するときは、支部または党の機関に、その事情をのべ承認をもとめる。支部または党の機関は、その事情を検討し、会議にはかり、離党を認め、一級上の指導機関に報告する。ただし、党規律違反行為をおこなっている場合は、それにたいする処分の決定が先行する。

一年以上党活動にくわわらず、かつ一年以上党費を納めない党員で、その後も党組織が努力をつくしたにもかかわらず、党員として活動する意思がない場合は、本人と協議したうえで、離党の手続きをとることができる。本人との協議は、党組織の努力にもかかわらず不可能な場合にかぎり、おこなわなくてもよい。

 

 離党には「党規律違反」による場合と「党員として活動する意思がない」場合の2種類があり、後者の場合はこれまで「実態のない党員」問題として扱われてきた。だが「離党」という言葉がマイナスイメージを連想させるからか、離党の実態や実数は報告されたことがない。要するに、党員増減に関しては「入党数=増加分」が報告されるだけで、「死亡数+離党数=減少分」は公表されない仕組みになっているのであり、党勢拡大運動はただただ「入党数を如何に増やすか」をめぐって展開されているのである。

 

 しかし「収入」だけで「支出」を記入しない会計帳簿などないように、収支を突き合わせて初めて「決算」を明らかにすることができる。経済動向に関しては四半期ごとの決算が公表されるように、党員現勢に関しても四半期ごとに増減数の内訳が公表されなければ実態は明らかにならない。それが、党大会ごとに党員現勢の概数が示されるだけで、増減数の内訳(入党数、死亡数、離党数)が明らかにされないようでは、党員はもとより支持者も正確な党勢を把握することができないのである。

 

 念のため、志位委員長の在任期間中(2000年11月~2023年12月)の入党、死亡、離党の各実数および年平均(いずれも筆者算出、再掲)を挙げておこう。第22回党大会(2000年11月)から第29回党大会(2024年1月)までの23年2カ月の党員増減数は、38万6517人(2000年11月現勢)+入党18万3895人(年平均7937人)-死亡9万8809人(同4264人)-離党22万1602人(同9564人)=25万人(2024年1月現勢)であり、第29回党大会で公表された党員現勢25万人と一致している。驚くのは、離党22万1千人(平均9564人)が入党18万4千人(年平均7937人)を4万人近くも上回っていることであり、死亡者が10万人近く(9万9千人、年平均4264人)に達していることである。

 

 これは、第26回党大会(2014年1月)で明らかになった大量の「実態のない党員=離党者」問題以降、2017年から離党が入党を上回るようになり、2020年からはそれが常態化するようになったからである。加えて死亡数が年々増加しているので、「離党+死亡」の合計が「入党」の倍以上となり、「長期にわたる党勢後退」に拍車がかかるようになった。志位氏が「長期にわたる党勢後退」の実態を明らかにしない(できない)のは、実態が明らかになれば「理論的・政治的路線に誤りはなかった」――とするこれまでの志位発言が根底から崩れるからであろう。以下は、党大会ごとの計算式である(再掲)。

 

〇第23回大会(2004年1月)

38万6517人(2000年11月現勢)+入党4万3千人-死亡9699人-離党=40万3793人(2004年1月現勢)、離党1万6025人

〇第24回党大会(2006年1月)

40万3793人(2004年1月現勢)+入党9655人-死亡7396人-離党=40万4299人(2006年1月現勢)、離党1753人

〇第25回党大会(2010年1月)

40万4298人(2006年1月現勢)+入党3万4千人-死亡1万6347人-離党=40万6千人(2010年1月現勢)、離党1万5951人

〇第26回党大会(2014年1月)

40万6千人(2010年1月現勢)+入党3万7千人-死亡1万8593人-離党=30万5千人(2014年1月現勢)、離党11万9407人

〇第27回党大会(2017年1月)

30万5千人(2014年1月現勢)+入党2万3千人-死亡1万3132人-離党=30万人(2017年現勢)、離党1万4868人

〇第28回党大会(2020年1月)

30万人(2017年1月現勢)+入党(無記載、暫定2万1240人)-死亡1万3828人-離党=27万人(2020年1月現勢)、離党3万7412人。党大会記録に入党者数が記載されていないので、2017年1月から2019年12月までの赤旗(各月党勢報告)を調べたところ、3年(36カ月)のうち入党者数が掲載されていたのは26カ月、計1万5354人、月平均590人だったので、590人×36カ月=2万1240人を暫定値として離党者3万7412人を算出した。

〇第29回党大会(2024年1月)

27万人余(2020年1月現勢)+入党1万6千人-死亡1万9814人-離党者=25万人(2024年1月現勢)、離党1万6186人余

 

 このような現状を直視すれば、「130%の党=党員35万人、赤旗読者130万人」の拡大目標(2028年末)が如何に非現実的な数字であり、「第一ハードル=党員27万人、赤旗読者100万人」ですら容易に回復できない目標であることに気付くというものである。組織の生態学から言えば、死亡者と離党者をカバーするだけの入党者を確保できなければ組織を維持することが不可能になり、組織は急速に衰退・縮小していく。共産党の場合、党組織全体が超高齢化していることからも、今後死亡数が増えることはあっても減ることはない。死亡数が公表されるようになってからの推移は、2000年代3万3442人(9年2カ月、年平均3647人)、2010年代4万5539人(10年、年平均4554人)、2020年代1万9814人(4年、年平均4954人)と着実に増加しており、2020年代を通してみれば年平均5千500人に達することはまず間違いないと思われる。

 

 そうなると、「130%の党」の党員拡大目標を2028年末までの5年間で達成するためには、以下の計算式を成立させなければならない。しかし過去4年間の入党1万6千人(年平均4千人)を今後の5年間で一挙に桁違いの15万人(年平均3万人)に引き上げることは、誰が見ても無理難題というものである。それを承知で拡大運動を無理やりに進めるとなると、結果は却って離党者を増やすことにもなりかねない。また、そうなる可能性は十分ある。

 〇35万人(2028年末目標)=25万人(2024年現勢)+15万人(入党、年平均3万人)-2万8千人(死亡、年平均5500人)-2万2千人(離党、年平均4400人)

 

 加えて問題なのは、「追伸」でも指摘したように、入党者の大半(8割弱)が「60代以上」という事実である(赤旗3月2日)。党組織全体が「60代以上が多数、50代以下がガクンと落ち込んでいる」(志位発言)にもかかわらず、新規入党者がそれに輪をかけた高齢者集団というのでは、党組織の高齢化がますます進むことにしかならない。この事態は、入党者への働きかけが高齢者中心になり、若年層や中年層には手が届かないことを示している。党中央の公式見解をオウム返しに伝えるだけの拡大運動は、多様な価値観を持つ若年層や豊富な社会経験を持つ中年層の心には響かないからだ。複雑極まる政治情勢の下での拡大運動は、自らの頭で「考える」ことのできる党員でなければ開拓できず、党中央の公式見解を「ただ学ぶ」だけの党員では対応できない。党員拡大を実行している支部が「2割弱」、読者拡大を働きかけている支部が「3割前後」という数字は、「考える」ことのできる党員が如何に少ないかという現実を映し出しているのである。

 

 これらの事態を一言で言えば、党組織の現状はもはや「底の抜けた樽)」とでも形容すべき状態にあるのではないか。樽にいくら水(入党)を注いでも、その尻から抜けていく(離党)のでいっこうに溜まらない、おまけにもう一つの穴(死亡)が次第に広がって水位がどんどん下がっていく――というのが現実の姿なのである。こんな「底抜け」状態では、いくら発破をかけても拡大運動の成果は上がらない。「底の抜けた樽」に水を注ぐような運動はもはや限界に来ている。このまま党勢拡大運動を続ければ、「底が割れる」時が必ずやってくる。それを避けるための抜本的な方針転換が求められている。(つづく)