第221特別国会が7月25日、閉会した。報道各社の世論調査を見ると、内閣支持率は6月から7月にかけて軒並み下落し、高市政権の評価に大きな異変が生じたことを示している。読売69%→57%、日経68%→58%、産経65.3%→61.6%、朝日60%→53%、共同通信55.8%→53.7%など、下落幅は最大10~12ポイントに及んでいる。なかでも「重ね聞き」をしない時事通信と毎日は、時事54.3%→49.0%、毎日51%→41%となり、支持率が初めて5割を割った。さらに、毎日は不支持率が44%で支持率を上回った(朝日、7月28日)。
※「重ね聞き」とは、「支持する」「支持しない」について「わからない(無回答を含む)」と答えた回答者に対して「どちらかと言えば」と再度聞き、そこで得た回答を最初の回答に加算して支持率・不支持率を算出する方法。「重ね聞き」をしない場合は、最初の回答がそのまま支持率・不支持率となるが、「重ね聞き」の場合は、「どちらかと言えば支持」「どちらかと言えば不支持」をそれぞれ「支持」「不支持」に加算するので支持率・不支持率は高くなる。
※調査方法は、コンピューターで無作為に作成した固定電話と携帯電話の番号にかけるRDD(ランダム・デジット・ダイアリング)方式で、18歳以上の有権者を対象にして実施される。時事通信の場合は、全国の18歳以上の男女2000人を無作為に選び、調査員が対象者を訪問して対面で意見を聞く「面接法」によって実施される。この方法は、自動音声による電話の応答よりも正確な意見を収集することが可能となる。
国会閉会後の各紙社説は、ニュアンスの違いはあるとはいえ、いずれも高市首相の国会運営への厳しい批判で共通している。以下は朝日・毎日・読売各紙の社説の要旨である。
〇朝日新聞(7月26日):「説明責任からの逃走、国会をゆがめた首相の独善」
・高市首相が衆院選後初めて臨んだ国会で見えたのは、説明責任から逃げ、「数の力」で押し通そうとする首相と、それを制御できない自民党の責任政党としての劣化だった。国民の代表として政府を監視する立法府の機能は大きく歪められ、首相の責任が厳しく問われる。
・日本国憲法は、国会を国権の最高機関と定め、首相や閣僚に出席する義務を課している。国会への出席を軽視する高市首相には、立憲主義の下、立法府に対して行政府の長が果たすべき役割への理解が欠けている。また、政治への信頼にかかわる中傷動画報道に関する対応も場当たり的で、最後まで疑念を払拭する説明はなかった。
・国会最終版では、多くの国民が苦しんでいる物価高騰など国民生活に直結する課題ではなく、改正皇室典範や国旗損壊処罰法、インテリジェンス強化法や副首都法など、日本維新の会との連立合意の具体化が最優先された。連立に応じた維新への恩義に報いるためであり、国政よりも私情を優先する行為そのものだ。
・衆院で圧倒的な議席差があるとはいえ、野党の力不足も深刻だった。衆院で野党第1党の中道改革連合は、参院では立憲民主党と公明党に分かれたままで、インテリジェンス強化法や改正皇室典範では、衆院で中道は賛成、参院で立憲は反対と、重要法案をめぐる態度が分かれた。このままでは、巨大与党に対抗する軸になるのは難しい。だが、政権を監視し、国民の多様な声を政治に反映させる野党の役割は、これまで以上に重みを増している。野党の立て直しと連携強化が急がれる。
〇毎日新聞(7月26日):「国会閉会と高市首相、独りよがりが分断深めた」
・特別国会が閉会した。あらわになったのは、立法府の危機的状況である。巨大与党を率いる高市首相は独善的な振る舞いに終始し、審議の形骸化が進んだ。通常国会冒頭で首相は唐突に衆院解散に踏み切り、自民党が衆院の3分の2を超える圧勝を収めた国会では、「国論を二分する政策」の具体化へ突き進んだ。
・国民生活は上向かず、将来不安が増している中で、首相はそうした懸念に応えることなく肝いりの戦略17分野に巨費を投じ、経済成長を実現する構想を描く。後半国会では、日本維新の会との連立合意に固執し、皇統の男系維持に踏み込む皇室典範を改正し、衆院議員定数の「比例代表のみ削減」を主張し、不要不急の国旗損壊処罰法や副首都法を成立させた。いずれも国民感覚とはかけ離れており、政策の優先順位を見誤っている。「二分」させた国論を統合する努力を欠いたまま、独りよがりな政権運営に陥れば分断を深めるばかりだ。
・首相の露骨な国会軽視は、予算委員会の集中審議出席の異例の少なさや中傷動画問題への答弁回避にもあらわれている。自民は首相に追随し、国民政党としての自律性を欠いた。細分化した野党は対立軸を打ち出せず、監視機能も発揮できなかった。言論の府の立て直しは急務である。高市内閣の支持率は下降し、有権者の期待が剥落しつつある。数の力を振りかざす強権的な手法は通用しない。首相は猛省し、多様な声に耳を傾けるべきだ。そうでなければ人々の心はさらに離れる。
〇読売新聞(7月29日):「内閣支持率下落、謙虚さを備えた政権運営に」
・特別国会で成立した改正皇室典範については、問題点が多く指摘された。高市首相は謙虚に政権運営にあたらねばならない。読売新聞の7月の世論調査で内閣支持率が57%となり、昨年10月の内閣発足以降で最低となった。調査では、首相が改正皇室典範などに関して国民に十分に説明していると思わない、との回答が62%に上った。旧宮家の男系男子を養子として皇室に迎えるのを可能にしたことについて「評価しない」の方が多かった。
・象徴天皇制の根幹にかかわる重大な制度変更だったが、衆参両院の質疑時間は計6時間余り、多くの国民が納得を得るに至っていない。皇室典範を再改正して、女性の天皇を認めることに「賛成」と回答した人は85%に達した。首相は衆院予算委員会で、安定的な皇位継承策を議論する新たな有識者会議の設置について「ただちに考えていない」と述べたが、改正皇室典範が抱える欠陥を放置してはならない。
・物価高への政府の対応を「評価しない」と答えた人は71%で、前回より15ポイントも増えた。首相は近く食料品の消費税率を1%に引き下げることについて判断を示す見通しだが、野党や有識者からは効果を疑問視する声が上がり、代替財源の確保などへの具体策も示されていない。首相は消費減税を撤回するのが筋だ。
・先の国会では、例年の通常国会より首相の予算委出席時間が少なかった。衆院選などで自身の陣営が他候補の中傷動画をSNSに投稿したとされる案件を巡り、野党の追及を嫌ったとされるが、首相は説明を尽くさねばならない。首相は一人で職務を抱え込む傾向が強い。党幹部や閣僚に任せるべきは任せて、政権運営の態勢を固め直す必要がある。
それでも、衆院で3分の2を超える絶対多数の議席を得た高市首相は、世論を無視してでも国会は「数の力」で乗り切れると思っているらしい。7月27日夜の記者会見では、公約実現をめざす方針にはこれまでと変わりないことを強調し、記者団から繰り返し説明を求められた「国民生活に直結する政策が後回しだ。支持率低下の要因は何か」「国会の反省点は」などの質問についても、「反省点というのは特にない」「支持率下落の原因は分からない」などと突っぱねた(朝日・日経、7月28日)。世論の批判を受け付けない「独りよがり」の姿勢は、生来の独善性と政治情勢を客観的に理解できない稚拙性の表れと言えるが、問題はこの状況に対応できない野党にある。
最大の問題は、中道改革連合が野党の役割を果たしていないことだ。衆院の立憲民主党がこれまでの安保法制や原発に対する基本政策を理由もなく投げ捨て、公明党に合流した結果、支持者に見放されて総選挙で惨敗(壊滅)した教訓が生かされていない。今国会でも、中道改革連合は公明の路線に引きずられて国民の大半が支持している「女性天皇」の実現に背を向け、あろうことか「赤の他人」に近い旧宮家の養子(男子)を容認し、あまつさえその子(男子)に皇位継承権を認めることに賛成した(参院では公明党賛成、立憲民主党反対)。これでは、中道改革連合、立憲民主、公明3党の合流など「夢のまた夢」に終わる公算が大きい。
中道改革連合以外の野党にしても、存在感は薄れるばかりだ。ポピュリズムの波に乗じたれいわ新選組は、山本太郎の政界引退を機に一気に消滅に向かうだろうし、社民党は内紛によるイメージ低下が深刻でこのまま沈んでいく可能性が大きい。共産党は、党の総力を挙げた「集中期間」においても党勢後退を覆すことができなかった。「左派リベラル票」の行方は浮遊しているというべきだろう(日経「れいわとポピュリズム(上下)」、7月23、25日)。
となると、野党再編による高市政権への対抗軸の構築に比べて、超党派(議員連盟)で取り組める「皇室典範改正」「衆議院議員定数削減」「中傷動画作成疑惑」の〝3大政治課題〟が浮かび上がってくる。これらは、いずれも自民党内でも異論が大きかった政策だけに、「超党派=政党横断的課題」になってもおかしくない。
(1)第1課題「皇室典範改正」
女性天皇の可能性を封じた時代錯誤の改正皇室典範は、早くも「再改正」が世論になりつつある。※読売世論調査(7月27日)「歴代の天皇の多くは男性ですが、女性の天皇もいました。今後、皇室典範を再び改正して、女性の天皇を認めることに、賛成ですか、反対ですか」、賛成85%、反対8%、答えない6%。
(2)第2課題「衆議院議員定数削減」
衆議院議員定数「比例のみ」45議席削減は、自民3%減、維新14%減と比較的影響が少ないのに対して、野党は参政40%減、国民29%減、みらい25%減、共産25%減、中道22%減など、壊滅的な影響を受ける(朝日、7月29日)。与党は既に、先の国会で(野党欠席のまま)比例区で45議席を削減する法案を提出しており、秋の臨時国会で採決を強行すれば、国会がマヒ状態に陥り、日本の議会制民主主義は崩壊する。
(3)第3課題「中傷動画作成疑惑」
自民党総裁選における高市陣営の中傷動画作成疑惑は、自民党の党内問題とは言え、自民党総裁が首相に選ばれる以上、これも議会制民主主義の根幹にかかわる大問題と言える。中傷動画作成疑惑の解明は、高市政権打倒にストレートにつながるだけに、徹底的解明が必要になる。
秋の臨時国会を控えて、内閣改造の可能性など雑多な情報が飛び交っている。日本の議会制民主主義が危機に直面している今、党派を超えた国会正常化の努力が求められる。与野党を問わず「リベラル会派」の奮闘を期待したい(つづく)。