国民投票法改正案への対応でわかる野党共闘への本気度、菅内閣と野党共闘の行方(32)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その257)

 

毎日新聞は4月28日、「国民投票法改正案、自民・公明が5月6日採決、11日衆院通過へ」と報じた。自民・公明両党は憲法改正手続きに関する国民投票法改正案を5月6日に衆院憲法審査会で採決し、11日に衆院を通過させる方針を固めたという。改正案は2018年に自民、公明、日本維新の会などが提出したが、野党側の抵抗で実質的な質疑が進んでいなかった。

 

しかし昨年12月、自民・立民両幹事長が今国会で「何らかの結論を得る」と合意したことから、国民投票法改正案審議の外堀は事実上埋められたと言ってもいい。立憲民主党は表向き国民投票法改正法案に反対するだろうが、結果として改正案の成立に手を貸したことは間違いない。菅首相が「改憲への第一歩」と位置づける改正案が成立すれば、改憲へのロードマップ(進行表)は敷かれたのも同然だからである。

 

偶然かどうか知らないが、自民党の安倍前首相は憲法記念日5月3日の夜、BSフジ番組で次の党総裁選で菅氏が続投すべきだとの考えを表明し、「継続して首相の職を続けるべきだろう」と述べた。菅首相の党総裁任期は今年9月末に満了するが、安倍氏は「総裁選は昨年やったばかりで、1年後にまた総裁を代えるのか。自民党員であれば常識をもって考えるべきだ」とも語った。安倍氏は菅首相が無投票で再選されるべきかを問われ、総裁選より前に衆院選を実施して自民党が勝った場合は、無投票が望ましいとの認識を示したという(日経新聞5月4日)。

 

 私は、安倍前首相がわざわざ憲法記念日に菅支持を打ち出したことは、「政権を維持したければ、改憲に取り組め」との強力な政治メッセージ(指令)を送ったと考えている。同日、改憲右翼の櫻井よしこ氏が憲法改正について「ぐずぐずしている暇は一瞬たりともない!」と檄を飛ばし、それがNHKのトップニュースで伝えられるなど、今年の憲法記念日は異常な雰囲気に包まれている。コロナ禍に紛れて改憲実現を疎かにしてきた菅政権に活を入れ、政権支持を餌(エサ)に一気に改憲を具体化しようとする動きが始まった―と見るべきだろう。

 

 そういえば、野党のなかでも改憲に関する立憲民主党の態度がいっこうにはっきりしない。5月3日憲法記念日の談話において、共産党は「コロナ危機に乗じた国民投票法の『改正』強行に断固反対する」と強調したのに対して、立憲民主党は改憲の是非を明確にしなかった。国民民主党は「現行憲法の足らざる点を補強することが求められている」として改正案審議には積極的なので、最終的には国民民主党と歩調を揃える可能性もなしとはしない。

 

国民投票法改正案への対応にとどまらず、エネルギー政策においても立民・国民両党の間では政策理念が曖昧模糊としている。昨年8月27日、立民、国民両党と連合は、新型コロナウイルス禍を踏まえた新たな社会像に関する共有理念を発表し、連合傘下の民間労組が反発する「原発ゼロ」の明記は避けた。原発政策は「純国産エネルギーの確保など低炭素なエネルギーシステムを確立する。二項対立的思考に陥ることなく、科学的知見に依拠する」との表現にとどめ、福山立民幹事長は記者会見で「原子力産業で働いている人や電力の安定供給について忘れてはならない」と語った。立民が2018年に国会提出した「原発ゼロ基本法案」については、新党結成後に党内で議論する考えを示したのである(日経新聞)。

 

しかし今年3月27日、立民が去年9月に合流新党として結党して以来検討してきた基本政策の最終案に「原発ゼロ社会」の実現を掲げると、今度は神津連合会長が嚙みついた。神津氏は4月15日の記者会見で、立憲民主党が次期衆院選公約の土台となる基本政策に「原発ゼロ社会を一日も早く実現する」と盛り込んだことに苦言を呈し、「原発ゼロという言葉自体が、その分野で働く人の気持ちを傷つける。残念だ」と述べた(NHKニュースWEB)。

 

4月25日投開票の衆参3選挙では野党候補の勝利に終わったが、枝野立民代表はその後4月27日、玉木国民代表と会談して次期衆院選の選挙区で候補者の原則一本化を図ることで一致した。玉木氏によると、立民と国民が連合と個別に政策協定を結んだ上で衆院選に臨むことで合意し、現在候補が競合している3つの選挙区で一本化に向けて調整を進めることも確認したという(産経新聞4月28日)。

 

立民は野党共闘で政権交代を目指すが、立民・国民両党の支持母体である連合神津会長は、「(共産が掲げる)野党連合政権は目指す国家像が違う以上あり得ない」と明言している。玉木氏はこの会談で「連立政権となった場合、共産が入っているのかどうか。選挙で訴える政策も変わってくるのでどこかの段階で明確に示してもらうことが必要だ」とクギを刺したという。玉木氏によると、枝野氏から今後の共産との関係について「具体的な話はなかった」というが(同上)、立民がいつまでもそのような「ヌエ的態度」を取り続けることは、不信を買うばかりだ。

 

国民は、参院長野選挙区補欠選挙で立民の新人が日米同盟是正を盛り込む政策協定を共産などと結んだことを受け、推薦を一時取り下げた。それを立民が新たな政策協定を国民・連合との間で「上書きする」という裏技で曖昧化し、何とか候補一本化にこぎ着けた。しかし、こんな芸当が総選挙では通じるはずがない。総選挙が近づくにつれて世論の監視は厳しくなり、立民の野党共闘への本気度が試されることになるからだ。

 

 立民は連合や国民の反発を防ぐため、共産とは一定の距離を取る一方で、立民の候補者に一本化した選挙区では共産支持者の票を獲得するため、共産との関係も維持したい考えだとされる。玉木氏との会談の約3時間後、枝野氏は国会内の同じ部屋で共産の志位委員長と党首会談を開いた。両氏は衆参3選挙で野党の候補者一本化が成果を上げたとの認識で一致し、衆院選での両党の協力に向けた協議を始めることを確認したというが、その後、具体的な話はいっこうに聞こえてこない。このまま事態が推移すれば、立民の政権構想は票集めの看板だとして「ボロ屑」のように見捨てられるだろう。「言うこと」と「すること」が違うような政党が信頼されるはずがないからである。

 

 しかし、影響は単に立民にとどまらない。そんな立民といつまでも付き合うような共産党も「同じ穴の狢(むじな)」とのそしりを受けかねないからだ。「自共対決一本槍」から、ある日突然(さしたる説明もなく)「野党共闘推進」に豹変した共産党は、その後も野党間の矛盾に目をつぶって猛進している。だが野党共闘の現実性は、間もなく立民の国民投票法改正案への対応をめぐって明らかになるかもしれない。そのとき、これまで野党共闘を真摯に追求してきた市民団体など革新勢力がどんな反応を示すのか、それが次の新しい政治局面を切り開く可能性を秘めている。(つづく)

 

手放しで喜べない衆参3選挙の野党全勝、〝チグハグ野党共闘〟で果たして次期衆院選に勝てるのか、菅内閣と野党共闘の行方(31)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その256)

 

 菅首相就任後初めての国政選挙であり、次期衆院選の前哨戦と位置づけられた4月25日投開票の衆院北海道2区と参院長野選挙区の両補欠選挙、参院広島選挙区再選挙は「野党全勝」で終わった。選挙前の自民党の算段では、北海道は汚職で立候補断念の「不戦敗」、長野は野党前職の「弔い合戦」だから仕方ないにしても、広島では「政治とカネ」の問題はあっても、強固な保守地盤を総動員して「1勝2敗」に持ち込むつもりだったらしい。それが全敗したのだから、菅政権への打撃は少なくないはずだ。

 

 菅首相は翌4月26日、自民党役員会で「国民の審判を謙虚に受け止め、正すべき点はしっかり正したい」と一応型通りの挨拶はしたが、彼自身が深く関与した河合安里氏への肩入れ問題や党資金1億5千万円問題については何ら言及することなく、ダンマリを決め込んだままだった。また、有権者の不信を買った新型コロナ対策の遅れについても何も語らなかった。要するに、選挙の敗因について何ひとつ語らず、ただ「分析する」と言って責任逃れに終始しただけだ。これでは、自民党支持者といえども到底納得しないだろう。

 

 一方「立憲ニュース」(4月26日)によれば、枝野代表は平野代表代行や福山幹事長とともに翌26日午前、いち早く連合会館に出向いて神津会長に選挙結果を報告している。終了後、枝野代表は記者団に対して次のように語った(要約)。

 

「昨日、投開票のあった3つの選挙で、われわれの公認あるいは推薦する候補が3勝することができた。党派、立場を越えて幅広い皆さま方に大変力強い応援をいただいたおかげだと感謝している。何と言っても3つの選挙とも、連合の皆さんには目に見えないところでのことをはじめとして、大変力強いご支援をいただいたことが大きな流れをつくっていく原動力であったと思っている。早速、神津会長にご報告と御礼を申し上げたところだ。間違いなく半年以内にある総選挙に向けて、さらに連携を強化し、力強いご支援をいただける構造をつくって、政治を転換していきたいという話を神津会長とさせていただいた」

 

長野の選挙で一連の政策協定を巡る混乱もあったが、今日は神津会長をはじめ皆さんとお話をする中でその点について言及はあったか  「お互いいろいろな経緯を分かっている同士なので、具体的なことを申し上げたというよりも、この間大変ご迷惑をおかけしたりご苦労をおかけしたりしたが、結果を出すことができ有難うございました、という話をさせていただいた」

 

神津会長は415日の記者会見で、次期衆院選について政権選択選挙だから、立憲民主党と国民民主党が実際に内閣を形成して政権を担うことが一番現実的だと発言された。今日は政権構想について話があったか。また、次期衆院選までに政権構想を発信する考えはあるか

今日、具体的に政権構想というような言葉はやり取りの中ではなかった。ただ、政権選択の衆院選挙が半年以内ですね、ということを踏まえたやり取りをさせていただいた。政権構想という言葉はよく踊るが、その政権で実現しようとする政策のことを指すのか、それともその枠組のことを指すのか、それからそこに向けた選挙戦略、選挙戦術のことを指すのか、多義的なので、そういった意味では、既に枝野政権で何を目指していくのかという概略は、かなり具体的なことは、この間の国会審議等を通じて示してきている。それを実現する政権をつくっていく」

 

枠組という点で、次期衆院選までにつくるのか

それは相手もあることだ。私どもが目指している政策、あるいは中長期的な展望を踏まえながら、それぞれの党や議員にはそれぞれのお考えがあるわけだから、どこまでどういう連携ができるのかは相手の立場も踏まえながら、今後、柔軟に、その都度都度示していくことになる」

 

この記者会見の内容はメディアでも大きく取り上げられ、立憲民主党の思惑についてはいろんな観測記事が出ている。その中で枝野代表の「本音」を伝えたのが産経新聞(4月26日電子版)だろう。その部分を紹介しよう。

 

「立憲民主党は、野党統一候補の衆参3選挙全勝は立民が主導した共闘の成果だとし、次期衆院選の各選挙区で野党候補を一本化する調整を加速させたい考えだ。(ただし)共産党と一体とみられるのを避けるため、基盤が弱い新人候補の競合は事実上容認し、立民の現職や元職らが出る選挙区では共産に擁立を見送ってもらってその票を得るという限定的な協力にとどめる案が有力となっている」

 「立民は289選挙区中207選挙区で候補者を決めているが、このうち67選挙区は共産と競合する。非・与党票が複数の野党に分散すれば与党候補に有利に働く。 とはいえ、立民には一本化のために候補者を取り下げる考えはない。一方の共産も安易に譲歩できない。前回衆院選では取り下げた選挙区で党員の活動が鈍り、比例票を減らした苦い記憶があるからだ」

 「こうした中、立民は野党共闘の『大きな試み』(福山哲郎幹事長)と位置付けた衆参3選挙の勝利を、立民主導の共闘の促進剤にしたい考えだ。特に衆院北海道2区と参院広島選挙区では共産が過去の選挙戦で公認候補を立てたが、今回は共産が降り、立民系候補に一本化した。国民民主、社民両党の推薦を得た一方で共産には推薦を求めず、広島は支援、北海道は地方組織推薦にとどめた」

 「一定の距離を取りながら票はもらうという立民の都合を優先した対応に共産では不満も出た。小池晃書記局長は26日の記者会見で『絶大な効果が出た』と今回の共闘を前向きにとらえたが、今後の一本化に向け『政策的な一致、相互支援、対等平等の関係』も求めた。連合や立民内の保守系議員は、これらの共産の要求は絶対に受け入れられないとの立場をとる」

 「立民は現在、共産と競合している67選挙区の6割で新人が立候補を予定する。一方、立民現職が出馬予定の選挙区では9割近い80余りの選挙区で共産が候補者を決めていない。立民幹部は『ここを中心に今後も共産に擁立しないでもらうことなら両党が納得できるのではないか。無理に候補者取り下げをお願いすれば要求を断り切れなくなる』とみている」

 

 まったく自分本位の勝手きわまる言い分だが、今までの経過を見ると大体その線で落ち着いてきているので、立民は今回も「そうなる」と楽観視しているのだろう。だが、不協和音も聞こえてくる。すでに選挙中から「共産『共闘』へ募る不満」「衆参3選挙 立民の対応『屈辱的』」といった記事が出ていた(読売新聞4月19日、要約)。

 

 「25日投開票の衆参3選挙での野党共闘をめぐり、共産党が不満を募らせている。立憲民主党が支持母体の連合に配慮して、『共産色』を薄めようとしているためだ。両党の間にしこりが残れば、次期衆院選での連携に影響が出る可能性もある」

 「『3選挙では筋の通った形で野党統一候補ができた。勝利のために全力を挙げる』。共産党の志位委員長は15日の記者会見で、選挙への意気込みを強調した。しかし、ある幹部は『選挙戦の現場では〈共産隠し〉とも言える屈辱的な扱いを受けている』などと憤りを隠さない。北海道では、共産党が立候補予定者を取り下げて立民に譲ったにもかかわらず、共産党関係者は立民候補の第一声に来賓として招かれなかった。立民候補には国民民主、社民の両党が推薦を出しているが、共産党は道委員会の推薦にとどまる。それでも立民からは『推薦自体いらなかったのに』との声も聞かれる。実際、広島では共産党は推薦の枠組みから外れた。諸派の候補を立民、国民、社民が推薦するが、共産は自主支援だ」

 「さらに、立民の枝野代表は街頭演説会などのマイクを握る際、共産党議員と並ぶことを避けている。不和の発端は長野の立民候補が2月に共産党県委員会などと結んだ政策協定だ。『原発ゼロ実現』など共産色の濃い内容に連合が反発し、枝野氏は謝罪を強いられ、立民候補は連合とも政策協定を結ぶことになった。それでも共産党は表立って立民を批判することは控えている」

 「一方、立民には共産党が前面に出れば、連合だけでなく、保守票が逃げかねないとの計算がある。各小選挙区で共産党が候補者を降ろし、『こちらに票をまわしてくれるだけでいい」(党関係者)のが本音だ。次期衆院選を見据え、共産党との間合いを測っている側面もあり、今後も両党の駆け引きが続きそうだ』

 

 立憲民主党の枝野代表と共産党の志位委員長は4月27日、国会内で会談し、次期衆院選での候補者一本化を念頭に幹部間の協議に入ることで一致したという。ただ次期衆院選での野党共闘については、志位委員長は「共通政策、政権の在り方、選挙協力の三つの分野で協議を行いたい」と提案したが、枝野氏は「政策の一致しているところをしっかり確認しなければならない」と述べるにとどめた(時事通信4月27日)。 

 

 共産党が野党共闘の筋を通すのか、それとも〝チグハグ共闘〟のままでいくのか、はたまた立民の「下駄の雪」になるのか、今後その行方が注目される。次回は、それぞれのケースについて分析しよう。(つづく)

バッハIOC会長はオリンピック・マフィアなのか、日本国民の支持が得られない東京五輪は開催できない、菅内閣と野党共闘の行方(30)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その255)

 

 政府は4月22日、新型コロナウイルスの感染再拡大が続く東京、大阪、京都、兵庫の4都府県を対象に、特別措置法に基づく緊急事態宣言を出す方針を決めた。4都府県では酒類やカラオケを提供する飲食店に休業要請するほか、床面積が1千平方メートルを超える商業施設や遊興施設に休業を要請する方向で検討しているという。

 

 注目されるのは、緊急事態宣言の期間が4月25日から5月11日までの17日間ときわめて短いことだ。4月22日に開催された東京都モニタリング会議では、新型コロナウイルス(第4波)の感染予測が行われ、都内のウイルスが全て変異株に置き換わったと仮定した場合、1日の新規陽性者が700人で増加比が1.7倍となり、2週間後の感染者数は2000人を超え、入院患者数は6000人を超えるという結果が出た。こんな状況下で緊急事態宣言を予定通り解除することになれば、事態はさらに「火に油を注ぐ」ことになりかねない。政府はいったい何を考えているのだろうか。

 

 各紙が伝えるところによると、バッハ会長が5月17、18両日に日本を訪れ、17日には被爆地・広島市で聖火リレーの関連式典に出席し、18日には都内で菅首相らと会談する予定になっているそうである。そうなると、緊急事態宣言下でのIOCトップの訪日は世論の反発を招きかねないので、バッハ訪日の前に緊急事態宣言をなんとか終わらなければならない。そこで、緊急事態宣言の期間を5月11日までにすることが決まったというのである。

 

果たせるかな、菅首相は4月20日夜、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言を東京都に発令した場合、東京オリンピックの開催判断に影響するかどうかを問われ、「オリンピック(への影響)はないと思っている。安全・安心な大会になるように政府として全力を挙げていきたい」と、首相官邸で記者団に答えた(毎日4月20日電子版)。バッハIOC会長もまた4月21日、菅首相と口裏を合わせるかのように理事会後のオンライン会見の冒頭で、日本政府が東京都内などに再び緊急事態宣言を発出する方向であることについて、「ゴールデンウィークを控え、感染の拡大を防ぐために日本政府が講じる予防的措置と理解している」「五輪とは関係ない」と述べ、東京五輪開催への影響はないとの認識を示した(朝日4月22日)。

 

   この発言に対して、朝日新聞(4月23日)は、「緊急事態 五輪と関係ない」「IOCバッハ会長発言 波紋」「都民『影響ないわけけない』」との見出しで次のように報じた(要約)。

―「緊急事態宣言は五輪と関係ない」「選手には毎日検査」。新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、東京五輪開催を推し進める大会幹部の発言に波紋が広がった。医師は異論を唱え、都民からは批判の声も上がった。大会組織委員会のある幹部は「都民や国民が不自由な生活を強いられる中で、『五輪は特別なのか』という不満が高まる」とため息をつく。大会期間中、競技場周辺の救護体制を担う東京都医師会の尾崎治夫会長は、「人と人との接触を減らして感染を抑えられるかどうかが、五輪だけでなく、日本にとっての正念場。もし本当に五輪を開きたいのなら、『このままでは開催が厳しい。感染の拡大を徹底的に抑えて』と訴えるべきだった」と指摘した―

 

 毎日新聞(同)も「バッハ会長『緊急事態 五輪と無関係』」「IOC 世論軽視、開催懐疑論との溝拡大」との見出しで批判する(要約)。

  ―バッハ氏は「関係がない」とする理由について「ゴールデンウイークに向けて感染者を増やさないための限定的な対策だ」と説明したが、「五輪は関係ない」とする姿勢に大会関係者は頭を抱えた。「大事なのは国内世論で、発言は逆効果でしかない。緊急事態宣言を軽く受け止めているように映る」と声をひそめる。IOCと国内世論のずれは、会見の冒頭発言にも見てとれる。東京は変わらず開催都市の優等生であり、今夏の五輪開催に影響がないことを強調するのが狙いだった。IOCと歩調を合わせる菅首相も20日、五輪への影響について「ないと思っている」と否定したばかりだ。だが、日本のワクチン接種率は先進国どころか、世界平均を大きく下回る。バッハ氏の発言がインターネット上を駆け巡ると、ワクチン接種の遅れにいらだつ国民からは批判的な意見が相次いだ―

 

そうでなくとも、バッハ会長は〝商業五輪〟を遮二無二推し進めようとする「オリンピック・マフィア」だと見られている。アメリカのマスメディアからの巨額の放映権料を受け取り、NBCとは5千億円近い契約を結んでいる。もし、東京五輪が開催中止になればIOCは致命的な打撃を受け、商業五輪を今後続けることは不可能になるかもしれない。バッハ会長自らも責任を問われ、再任されたばかりの会長職を失う可能性もある。菅首相も同様だ。今年9月までの総選挙を控えて、東京五輪の開催中止は「菅降ろし」の狼煙となり、号砲となる。バッハ会長と菅首相は一蓮托生の間柄なのだ。

 

 今から思い返してみると、自民党の二階幹事長が4月15日、菅首相の訪米直前に新型コロナウイルスの感染状況次第で東京五輪の開催中止が選択肢になるとの考えを示したことは、重要な意味を持つ。海外の主要メディアも、「オリンピック中止は選択肢だと日本の与党幹部が発言」などと報道。二階氏による「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」との発言を共同通信を引用して報じた。二階氏については「直接的な物言いで知られ、多くの与党議員が激論を招きかねない中止の可能性への言及を避ける中でコメントした」と伝えた(ロイター通信4月15日)。

 

 フランスのAFP通信や米ブルームバーグ通信なども、二階氏の発言を報道している。AFPは「日本国内で新型コロナの感染者急増に対する懸念が高まる最中のことだ」と伝え、大阪では聖火リレーが公道で中止になったことにも触れた。米ワシントンポスト電子版は東京発の記事を掲載した。日本について「(感染拡大の)第4波を抑え込もうと苦闘している」と指摘し、特に大阪と東京で伝染性の高い変異種の感染が広がっていることも伝えた。二階氏の発言に関する報道は、中国やロシア、ドイツ、オーストラリア、南アジア、中東など世界各地のメディアが行っており、東京五輪が予定通り開催されるのか、国際的な関心が異常に高まってきている(毎日4月15日)。

 

 私は、二階幹事長が菅首相の訪米直前にこのような発言をしたことは、自民党からのバイデン大統領への事実上のメッセージだと考えている。菅首相のアメリカに対する五輪開催への要請に対して、「そのまま支持することは危険だ」と伝えるメッセージである。菅首相は、日本時間4月17日に開かれた日米首脳会談後の共同会見で、「バイデン氏から五輪開催の支持を得た」と述べたが、バイデン氏は今年2月のインタビューで大会開催については「科学に基づいて判断すべき」と発言しており、慎重姿勢を崩していない。今回の会談の共同声明でも「努力を支持」の文言はあったものの「開催支持」との文言はない。会見でも、バイデン氏は五輪開催に触れていない。米国の政府高官は現状について「判断するには少し早すぎる」と説明しており、むしろ両国の温度差が増している。

 

4月23日の朝日新聞社説は、「五輪とコロナ、これで開催できるか」との主張を掲げた(要約)。

―東京都に3度目の緊急事態宣言が発出されることになった。2度目の宣言の解除からわずか1カ月余。新型コロナの猛威は収まる気配がない。こんな状態で五輪を開催できるのか。強行したら国内外にさらなる災禍をもたらすことになるのではないか。それが多くの人が抱く率直な思いだろう。朝日新聞の社説は繰り返し、その説明と国民が判断するための必要な情報の開示、現実を踏まえたオープンな議論を求めてきた。しかし聞こえてくるのは「安全で安心できる大会を実現する」「宣言の影響はない」といった根拠不明の強気の発言ばかりだ。菅首相以下、リーダーに期待される使命を果たしているとは到底いえない。開催の可否や開く場合の態様を、誰が、いつまでに、どんな権限と責任をもって決定するのかも判然としない。速やかに明らかにすべきだ。中ぶらりんでは不信が高まるだけだ―

  菅首相は国民世論にいかに応えるのか。東京五輪があと3カ月に迫ったいま、菅政権に残された時間はそれほど長くない。(つづく)

吉村大阪府知事は「政治=広報」と勘違いしているのではないか、政策を持たない政治家は間もなく消えるだろう、菅内閣と野党共闘の行方(29)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その254)

 

 大阪の1日当たり新型コロナ感染者数が4月13日、遂に1000人を超えた(1099人)。大阪を中心に廻っている関西経済は大打撃を受け、その他の活動も軒並み大きくダウンしている。学会活動も研究会もまたもや「オンライン」時代に逆戻りだ。大学の講義も「リモートワーク」でやってほしいと言われている。しかし、私のような時代遅れの人間は、「ズーム会議」とやらには付いていけない。第一、パソコンにカメラが付いていないのだからどうしようもないのである。

 

 それにしても、連日テレビに出ずっぱりの吉村知事には呆れてものが言えない。毎日のニュース番組には必ず登場して、急増する感染者数を挙げて「自粛をお願いします」というだけなのである。出る方も出る方だが、出す方も出す方だろう。感染者数を挙げてその理由も説明することもせず、ただ「お願いします」というだけの人物をいったい何時まで使い続けるつもりなのか。吉村氏もマスメディアも「政治=広報」だと勘違いしているようだ。というよりは、政治を意図的に広報活動に矮小化し、「政策不在の政治」を国民に見えないようにしているのである。

 

 だが、こんな小手先の「騙しのテクニック」はいつまでも通用しない。メディアに対しては抗議が殺到しているというし、第一、若者の「テレビ離れ」がどんどん進んでいる。変異ウイルスが主流となり、若者の感染者数が増えてくるようになると、吉村式広報は破綻せざるを得ない。見てもくれもしないテレビニュースで幾ら宣伝しても、彼・彼女らの目や耳に届かなければ「自粛効果」は上がらないからである。

 

 それに我々世代の「テレビ人間」からしても、4月13日の関西方面のニュースは傑作だった。吉村知事が自粛を呼びかけるニュースに引き続き、誰もいない万博記念公園での東京五輪聖火リレーの様子が映し出されたのである。有名な上方の噺家や歌舞伎役者が満面の笑顔を振りまいて走っていたが(というよりは、歩いていたが)、その様子は誰が見ても寒々としたものだった。変異ウイルスによる感染症の第4波が襲来している最中での聖火リレーなど、まさに「パロディ」そのものではないか。

 

 すでに、大阪維新のお家芸である「騙しのテクニック」は破綻している。大阪を〝バクチの街〟にするカジノリゾートを誘致するための「関西万博」は、新型コロナパンデミックによるカジノ産業の破産によって実現が難しくなった。大阪府と大阪市の二重行政を解消すると称してぶち上げた「大阪都構想」は、住民投票で否決された。そしていま、新型コロナ対策に対して本気で取り組まず、その場凌ぎの「自粛要請」と「緊急事態宣言解除」を繰り返してきたツケが、大阪維新の足元を掘り崩そうとしているのである。

 

 同じことは、菅政権についても言えるのではないか。菅首相は4月12日、高齢者向けの新型コロナウイルスワクチン接種が始まったのを受け、「ワクチンは発症や重症化(の予防)に対し、まさに切り札だ」と、東京都八王子市の接種会場で強調した。だが、鳴り物入りの「高齢者向けワクチン接種」は本数が余りにも少ないため、「予約が取れない」との不満が沸き起こっている。30分もすれば「予約完了」となり、大多数の高齢者は不安と焦燥の中に置き去りにされる状況が全国各地で起こっているのである。

 

 八王子の接種会場での医師の話が象徴的だった。本来、ワクチン接種は医療従事者を先行させ、その後に高齢者に接種するはずだった。にもかかわらず、接種を担当する肝心の医師本人がまだ接種を受けていないというのである。これでは自分も感染する恐れがあり、また高齢者に感染させる恐れもあるという医師の話が、菅政権のワクチン接種の内実を暴露している。ワクチンの本数が余りにも少ないため、医療従事者の接種が終わるのを待っているといつ高齢者接種が始まるかわからない。これでは、菅政権が国民に約束した4月12日接種スタートがウソになる。テレビニュース向けの場面を演出するため、ごく少数のワクチン接種をとりあえず始めたというのが真相なのだ。

 

 新型コロナ対策を巡っては4月12日、新たに東京、京都、沖縄の3都府県に「まん延防止等重点措置」が適用された。だが、飲食店などの営業時間短縮要請といった既存の対策は十分な効果が見通せないことは百も承知だ。日本のワクチン接種状況は1%足らず、すでに国民の多くが2回接種を終えている先進諸国に比べて余りにも少ない。歴代の自民党政権がワクチンの国内製造を怠ってきたツケで外国薬品メーカーに頼らざるを得なくなり、菅政権がワクチンの必要量の確保に各国の後れを取り失敗してきたからである。

 

ワクチン接種に対しては国民の期待も大きい。それだけに接種が円滑に進まなければ政権批判が噴出することは避けられない。直近の世論調査の内閣支持率は、朝日、共同通信ともにそれほどの大きな動きはない。支持率と不支持率が拮抗している状態には変わりないのであるから、もしワクチン接種が遅れるようになると、国民の不満は爆発する。河野ワクチン担当相は、自治体はワクチン接種に対して「フルスウィング」で臨んでもらいたいと胸を張ったが、これが「フルスウィングの空振り」になると、事態はただでは収まらなくなる。菅政権は「ワクチン接種」という〝薄氷〟の上を歩いている。(つづく)

野党3党は内閣不信任決議案を突き付けるというが、その先はどうなる? 菅内閣と野党共闘の行方(28)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その253)

 

 新型コロナ再拡大と国会での与野党対決の激化が同時進行している。関西では大阪と兵庫で新規感染者数が激増し、京都にもいよいよ影響が及んできた。2月末に緊急事態宣言が解除されてからというもの、関西では花見シーズンとあって人出が尋常ではない。伏見稲荷大社からそれほど遠くない場所に住む私の周辺でも、最近は目に見えて人が増えてきている。テレビニュースで見たが、桜満開の大阪城公園などは物凄い人出でごった返しの状態だった。先日も自分の目で確かめてみたいと思って、男山八幡宮の近くの木津川、宇治川、桂川が合流する花の名所(淀川背割堤の桜)に行ってみたが、結構な人出で驚いた。飲食禁止、一方通行などの掲示が至る所に貼られ、誘導員も多数配置されていたが、それでも何となく不安を感じるような有様だったのである。

 

 3月30日に発表された大阪府の新規感染者数432人は衝撃的だった。この日364人だった東京都を3月28日に続いて大きく上回り、全国最多となった。大阪府内で1日あたりの新規感染者が400人を超えるのは、緊急事態宣言が発令されていた1月24日(421人)以来のこと、前週火曜日(3月23日)の183人に比べて倍以上の増え方だ。吉村大阪府知事は、緊急事態宣言の「前倒し解除」を強引に推進したことなど棚に上げ、自らの失策は絶対に語らない。次から次へと施策を小出しにして「やった感」を演出することで点数を稼ぐのが得意だ。今回も「まん延防止等重点措置」を連呼すればその場をしのげるとでも思っているらしい。(言うだけの)大阪維新代表の面目躍如というところだろう。

 

 それにしても、会食時の飛沫を防ぐと称して「マスク会食」を義務づけることが「まん延防止等重点措置」の対策というのだから、呆れてものが言えない。「マスク会食」は菅首相の〝専売特許〟ではないか。菅首相が発言した瞬間から国民の不評を買い、早々に引っ込めた世紀の愚策を周回遅れで持ち出すなど、吉村知事も万策尽きたようだ。こんな人物に大阪を任せていたらとんでもない所に連れていかれる。大阪維新に酔いしれてきた大阪府民もそろそろ目を覚ますときではないか。

 

 一方、国会では立憲民主党など野党3党の国対委員長が3月30日会談し、菅政権の新型コロナ対策の責任を追及するとして、内閣不信任決議案の提出準備に入ることで一致したという。安住氏は、記者団に「第4波を防げなかったり、ワクチン接種がうまくいかなかったりした場合は内閣総辞職に値する。そのために取り得る行動は躊躇(ちゅうちょ)なく取っていく」と述べた。これに対して、自民党の二階幹事長も3月30日の記者会見で「大いに結構だ。受けて立つ」と述べ、野党が不信任案を提出した場合、政権側が衆院解散に打って出る姿勢を示した(各紙3月31日)。

 

 これだけ見ていると、野党3党の姿勢はいかにも勇ましいが、問題は「それから先はどうなる?」かだ。単なる不信任決議案の提出なら、否決されるだけで終わってしまう。それを次の総選挙に向けての野党共闘のバネにしなければ、不信任決議案の意味がない。ところが、こちらの野党共闘の方はいっこうに進展を見せないのである。むしろその機運は遠のいていくような感じさえする。それを象徴するのが、4月25日投開票の参院長野補選を巡る一連の騒動だ。

 

 立憲民主党新人候補の羽田次郎氏は今年2月、共産党長野県委員会や市民団体と「原発ゼロ」や「日米同盟に頼る外交姿勢の是正」を明記した政策協定を結んだ。ところが、これに反発した民間産業別労働組合(産別)の意を受け、(というよりは先頭に立って)神津連合会長が「協定潰し」に動いたのである。言うまでもなく、神津連合会長は「共産党との共闘はあり得ない」とする根絡みの反共主義者(労働貴族)である。神津氏はまた、旧民主党代表の前原氏や小池都知事と組んで「希望の党」を立ち上げ、民主党を分裂させた張本人でもある。彼らに「排除」された枝野氏らが立憲民主党に活路を見いだし、辛うじて政治生命を保ったことは記憶に新しい。

 

 ところが、こともあろうに枝野立憲民主代表は3月17日、神津会長と連合本部で会談し、立民新人の羽田次郎氏が共産党などの県組織と結んだ政策協定について「(立憲)長野県連で軽率な行動があり、連合に迷惑をかけた」と謝罪したのである。いまや世界の常識になっている「原発ゼロ」の政策を棚に上げ、連合長野と羽田氏が交わした確認書で以て、共産などとの協定を「上書き」して「原発ゼロ」の政策を消したのである。「節操のない人物」とは、枝野氏のような人間のことをいうのではないか。票欲しさに立憲民主党の基本政策を曲げてまで労働右翼にひれ伏す―、これではとても野党第一党の党首とは言えないだろう。

 

 菅政権は、身内の接待問題といい、総務省閣僚や幹部の腐敗といい、新型コロナ対策の失敗といい、今や満身創痍だ。また、それを支えている自民党は、二階幹事長に代表されるような腐臭漂う利権集団の塊だ。それでいて、菅政権の内閣支持率は40%台で下げ止まり、立憲支持率は数パーセントのレベルで低迷している。理由は明らかだろう。立憲民主党が連合や国民民主党に引きずられ、国民が期待する政策を打ち出せず、国会でもあいまいな妥協を繰り返しているからである。

 

 それどころか、こんな記事が大手紙の政治欄に載る始末だ(毎日新聞3月30日)。まるで、立憲民主党に民主党時代への先祖帰りを促しているようではないか。

―国民に議員を輩出する民間労組には、「立憲の政策はリベラルに寄りすぎだ」との不信感がある。立憲は次期衆院選で国民や共産を含めた野党共闘を目指すが、国民幹部は「共産、民間労組の双方にいい顔する立憲の『曖昧路線』は限界だ。『共産離れ』をしないと、民間労組は立憲を支援しづらい」と指摘する。立憲の泉健太政調会長は3月中旬、旧国民時代に同僚だった議員に「スタンスを変えずに一緒にやっていこう」と連携を呼びかけ、共闘に腐心している―

 

京都は国民民主党の牙城だった。それが立憲民主党との合流をめぐって前原グループと泉グループに分かれた。それでも両氏らの行動にはさほどの違いは見られない。名前を変えただけで「中身は同じ」なのだ。こんな人物が立憲民主党の政策責任者になっているのだから、国民民主党の政策と一体どこが違うのか見分けることが難しい。

一方、共産党の機関紙「あかはたしんぶん」には、立憲民主党や枝野批判の記事は滅多に載らない。「自共対決」一点張りだったのが、こんどは「野党共闘」一点張りに豹変したのである。私の周辺では、「共産党は立憲民主党の〝下駄の雪〟になった」との噂が飛び交っている。公明党が自民党の「下駄の雪」から「下駄そのもの」に変質してからもう大分経つが、このままで行くと、今度は「共産党、おまえもか!」ということになりかねない。どこかで立ち止まらないと、野党共闘はなし崩しで消えてしまう―、こんな心配をオールドリベラリストの面々は心配しているのである。(つづく)

新型コロナ再拡大で東京五輪はどうなる? 総選挙はどうなる? 菅内閣と野党共闘の行方(27)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その252)

 2021年3月30日、各紙朝刊は、全国で新型コロナ再拡大の傾向が鮮明になりつつあると報じた。今年1月8日から始まった緊急事態宣言が、大阪府、兵庫県、京都府で2月28日に解除されたのに引き続き、3月21日には首都圏など全国で全面解除になった。全国の感染者数(1週間平均)は3月9日の679人まで減少したが、それ以降は再び増加に転じ、3月28日時点では1713人に達している。注目されるのは、感染者数が34都府県で前週よりも増加しているように、これまで緊急事態宣言の対象地域だった大都市部だけでなく、地方でも急増していることだ。なかでも、直近1週間(3月22日~28日)の10万人あたりの新規感染者数は、宮城県38人、沖縄県31人と大阪府20人、東京都18人を大きく上回っている。

 

 大阪府の吉村知事は、これまで感染防止対策よりも経済活動を重視する姿勢で知られる。今回の緊急事態宣言に関しても「前倒し解除」に最も積極的だったのが吉村知事であり、兵庫県、京都府の両知事が(情けないことに)それに引っ張られる形で解除した。ところが、新規感染者数の前週比は、大阪府2.11、兵庫県1.62と急上昇し、このままでは「倍々ゲーム」のように感染者数が急増する事態に直面することになったのである。一方、これまで感染者が少なかった東北や四国でも急速な増加がみられる。宮城県では、村井知事が2月23日から「GoToイート」キャンペーンを再開したことをきっかけに、感染者数(1週間平均)は3月28日時点で134人へと爆発的に増加した。その影響はお隣の山形県にも波及し、3月に入ってからの感染者数累計は320人を超えている。

 

 「マッチポンプ」という言葉がある。マッチポンプとは、自らマッチで火をつけておいて、それを自らポンプで水を掛けて消すと言う意味で、偽善的な自作自演の手法や行為のことを指している。菅政権も「GoToトラベル」キャンペーンの推進で新型コロナ感染の火を着け(マッチ)、それが手に負えなくなると今度は緊急事態宣言を発出して水を掛ける(ポンプ)という行為を繰り返してきた。だが、問題は大元の火が消えていないことだ。火が完全に消えるまで水を掛けないで緊急事態宣言を解除するものだから、解除した瞬間から燻っていた火元が再び燃え上がり、リバウンドが広がることになる。吉村知事や村井知事などは、菅政権の手法を小出しに繰り返しているというわけだ。

 

こうなると、新型コロナウイルスワクチンに期待するほかないが、この点でも菅政権は決定的に出遅れている。厚生労働省のまとめによると、3月23日時点での接種実績は全国で僅か69万9千回。政府が先行接種する医療従事者は約485万人、続く65歳以上の高齢者は約3600万人、基礎疾患のある人は約820万人、高齢者施設などの職員は約200万人というのだから、接種予定者5100万人のうち1.4%しか接種が行われていないことになる。ワクチン接種は2回行われることになっているので、接種は国民の間で僅か0.7%しか行き渡っていないことになる。政府は6月末までにこれらの接種を終え、夏以降から16歳以上の成人を対象に接種を始めるというが、ワクチン供給が世界的に逼迫している中で、果たして予定通り進むかどうか疑わしい。

 

3月25日から東京オリンピック聖火リレーがスタートした。私のように1964年東京オリンピックの華々しい聖火リレーを知っている者には、その淋しい光景に愕然とするほかない。テレビ報道などもその日だけで、その後はほとんど画面に登場しない。聖火リレーが今どこを走っているのか、どこまで来たのか、次はどこかなどもわからないし、国民の関心もそれどころではないのである。毎日毎日、新型コロナウイルスの感染状況に国民が気を奪われているような状況の下では、東京五輪に対する関心が日々薄れていくような気がする。

 

東京オリンピック2020は、2021年7月23日から8月8日まで開催されることになっている。パラリンピックは、8月24日から9月5日の予定だ。しかし、ワクチン接種が高齢者だけでも6月末に終わらず、7月にずれ込むようなことになると、オリンピック開催時までに果たして新型コロナ感染を抑え込めるかどうかが危うくなってくる。しかも、今後は変異ウイルスが主流になるというのだから、それまでにワクチン接種の対象にならない子供や若年層への感染が懸念される。

 

国際的にも懸念が広がっている。公益財団法人「新聞通信調査会」が3月20日に発表したところによると、新型コロナウイルス感染症が世界的に収束していない中での東京五輪・パラリンピック開催の是非を海外5カ国で尋ねた世論調査結果(2020年12月~2021年1月に面接か電話で調査、各国約千人ずつ回答)は、「中止すべきだ」「延期すべきだ」との回答の合計が全ての国で70%を超え、特にタイでは95.6%、韓国で94.7%に達した。このほか、中国は82.1%、米国は74.4%、フランスは70.6%の順だった(共同通信2021年3月21日)。

 

 こうしたなかで、立憲民主党の枝野代表は、党の役員会で「東京は完全に感染のリバウンドに入り、一足早く緊急事態宣言を解除した大阪は第4波と認めざるをえない。検査拡大や補償もなく国民にただお願いするだけでは、暮らしも経済もめちゃくちゃになってしまう。対策を変えない政府や地域は、やはり政治そのものを変えるしかなく、国会の内外で戦っていきたい」と述べた。また、安住国対委員長も菅内閣に対する不信任決議案の提出を検討する考えを重ねて示し、新型コロナウイルス感染の第4波を防げなかった場合を挙げ、「内閣総辞職に値する。そのために取り得る行動はちゅうちょなく取る」と記者団に述べた。安住氏は、ワクチン接種の遅れが生じても「政治責任を問う行動を取らなければならない」と強調した(各紙3月30日)。このような野党の動きに対して、自民党二階俊博幹事長は「不信任案なら解散」と早期解散をぶち上げ、3月29日の記者会見では、「私は解散権を持っていないが、野党が不信任案を出してきた場合、直ちに解散で立ち向かうべきだと菅首相に進言したい」と明言した(同上)。

 

自民党内からは「選挙は早い方がいい」「5月が菅政権のピークだ」の声も上がっているというが、5月頃にはゴールデンウイークの影響で新型コロナウイルスの第4波が猛威を振るっている可能性が高い。ワクチンの本格接種も始まっていない中で総選挙に踏み切れば、国民の批判は菅政権に集中する。また、東京五輪開催も危うくなる。さて、菅政権はどうする、立憲民主党はどうする―、次回はそこに焦点を当てて考えてみたい。(つづく)

菅政権は「ババ抜きゲーム」で自滅する、菅首相は所詮〝捨て駒〟にすぎなかった。菅内閣と野党共闘の行方(26)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その251)

 今日3月16日は、菅政権が発足してから半年になるのだと言う。半年と言えばあっという間の時間のようにも感じられるが、菅政権の半年間は随分長いような気がする。政権を取り巻く情勢が厳しく、政策展開が思うように進まず、何をやってもうまく行かないからだ。国民感情もじりじりしていて、爆発寸前というところまで来ているのではないか。

 

それにしても、このところ菅政権を取り巻く情勢は出口のない迷路のような様相を呈している。何しろ「新型コロナ危機」という未曽有の危機的状況の中にあって、なすこと全てが後手後手となっているからだ。安倍前首相が政権を投げ出したのは健康問題でも何でもなく、要するにこれからの事態が自分の手に負えないと思ったからにほかならない。長期政権末期に新型コロナ・パンデミックという世界史的危機に遭遇し、もはや自分もこれまでと思ったからではないか。

 

 そうとは知らず、利権と権力の裏世界に生きてきた二階幹事長と菅官房長官が「棚からぼたもち」とばかりにタッグを組み、安倍政権の後継者として名乗りを上げ、首尾よく政権の座をもぎ取った。その時は「してやったり!」ということだったのだろうが、問題はそれからだ。「携帯電話の値下げ」や「GoToトラベル」といった目先の政策では対応できない嵐に巻き込まれ、右往左往する有様は見苦しいことこのうえない。

 

 おまけに、長年培ってきた政治手法がすべて裏目に出ている。人事支配を通して睨みを利かせてきた官僚統制が組織の劣化を招き、上目遣いの忖度行政となって国民受けのする政策一つ出せない。極め付きは、菅首相の「天領」と言われる総務省の接待漬け問題だ。放送・通信行政の許認可権を一手に握る総務官僚がことあるごとに業者の接待漬けに遭い、勤労者世帯1か月分の食糧費に相当する高額接待を満喫する――こんな情景がごく普通のこととしてまかり通ってきたのである。

 

 ハイライトは、菅首相の長男が総務官僚の「接待要員」として東北新社に雇われていたことだろう。彼は「令和おじさん」の物真似が得意で座を沸かせ、やんややんやの喝采を浴びていたという。官僚たちはその陰に本物の「令和おじさん」の姿を重ねていたのか、いつも上から威圧されている鬱憤を晴らし、溜飲を下げていたに違いない。最高権力者の長男から土下座せんばかりの下にも置かぬもてなしを受け、手土産とタクシーチケットを持たされて見送られれば、誰も悪い気はしない。「お返し」をしなければ――と思うのが人情というものだ。

 

 

 官僚だけではない。歴代の総務大臣も通信業界最大手のNTTから「専用施設」で大盤振る舞いを受けていたことが(NTT関係者の内部通報によって)判明した。高級料亭やレストラン、クラブなどはとかく目につきやすい。NTT専用の会員クラブなら出入りは限られているので秘密が守れると安心していたのが、裏目に出たというわけだ。それに会員企業には高額会費に見合うだけの特別割引があるので、表向きの接待費用も低く抑えられる。1本10万円近いシャンパンを開けても問題ないということだったらしい。

 

 NTTからは、菅首相お気に入りの高市早苗氏、二階幹事長お抱えの野田聖子氏など歴代の総務大臣が軒並み接待を受けており、武田総務大臣も接待を否定していない。「国民の疑念を招くような接待は受けていない」というのだから、「疑惑を招かないような接待」は受けていたということだ。しかも、疑惑を招くかどうかは自分で判断すると言うのだから、これでは幾ら接待を受けても「疑惑を招かないような接待」になる。それに、彼・彼女らは揃いも揃って「放送行政に関する話は出なかった」と口裏を合わせているが、論音音声がないので幾らでもウソは付ける。底なしの腐敗とはこのことだろう。

 

 それでは菅首相本人はどうか。国会参考人として出てきたNTT社長は、例の如く「個別の会食については答弁を差し控える」として、本当のことを決して明かさない。菅首相も全く同じ答弁をしているので、こちらの方も厳重な下打ち合わせが行われているのだろう。参考人ではなく証人喚問するほかないが、こちらの方は自公両党が守ってくれると言うので安心しているのである。

 

 だが、こんなウソはいつまでも通用するとは限らない。「菅降ろし」が本格化する時が来ると、必ず内部通者があらわれる。こういう内部通報を「決め打ち」というが、これまでの虚偽答弁が一挙に覆される瞬間が必ずやってくる。すでにその時は刻々と近づいてきている。首都圏の緊急事態宣言の解除が目下の話題であるが、この程度で問題が終わらないことは誰もが知っている。ヨーロッパで猛威を振るっている変異ウイルスがすでに「市中感染」のレベルに達しており、日本国中に広がりつつあるからだ。

 

 3月25日から東京五輪の聖火リレーが始まると言うが、これとて日本一周するまでにいつ中止に追い込まれるとも限らない。東京五輪が中心になれば、コロナパンデミックの危険を無視して遮二無二準備を強行してきた菅政権は厳しく責任を追求される。また、例え無観客の東京五輪を開催しても開催中に感染が拡大すれば、取り返しのつかない失態として責任を問われる。いずれにしても、菅政権の未来は限りなく暗い。

 

 結局、菅首相は「ババ抜きゲーム」の「ババ」を引いたということだ。それを知っていた有力政治家たちが、菅首相を〝捨て駒〟として利用したということだろう。こんな前代未聞の非常事態には誰が政治をやってもうまく行かない、ならば菅でもやらせるか――と言ったところが本音ではないか。所詮、「令和おじさん」は元号が代わるまでの存在だった。それが令和になってからも表舞台に立ち続けようとしたことが、ボタンのかけ違いだった。

 

 問題は、それに代わる野党共闘の代表がいっこうに表舞台に登場しないことだ。主役抜きの田舎芝居がいつまで続くのか、もう国民は飽き飽きしながら次の幕開けを待っている。(つづく)