10月21日、高市政権が発足してから1年を迎えた。直前に行われた各メディアの世論調査は、簗農水相更迭の影響は限定的だったものの、内閣支持率は依然として下げ止まらず、「支持政党なし層」が増え続ける中で、高市政権は正念場を迎えている(以下要旨)。
〇時事通信(10月9~12日実施、個別面接方式、有効回収率58.4%):「内閣支持率42%に下落、簗氏続投批判 8割問題視、『高市離れ』男性も加速」
(1)高市内閣の支持率は前月比1.7ポイント減の42.4%、不支持率は0.4ポイント増の29.7%、下落は5カ月連続でこれまでの最低値を更新した。簗農水相の地元自治体の「道路予算カット」発言や公選法違反疑惑が報じられる中、半月にわたり続投させた高市首相の判断が影響したとみられる。簗農水相続投の是非については「問題だ」49.6%、「どちらかと言えば問題だ」28.4%、合わせて8割弱に上った。
(2)男女別支持率では、女性42.9%(1.1ポイント増)、男性42.0%(4.2ポイント減)で、男性の「高市離れ」が進み、女性と拮抗するようになった。世代別では「18~29歳」は5割を超え(50.4%)、「30~50歳代」4割台、「60歳代・70歳以上」3割台と若年世代の支持率が高い。支持政党別では「自民支持層」81.4%(3.3ポイント増)と高水準だが、「支持政党なし」32.0%(3.5ポイント減)で無党派層の「高市離れ」が進んだ。
(3)政党支持率は「自民」22.1%(1.1ポイント減)、「維新」1.6%(0.5ポイント減)で連立政権を組んで以降、初めて2%を切った。野党各党の支持率は公明3.4%(0.2ポイント増)、参政2.7%(0.5ポイント増)、国民民主1.9%(0.9ポイント減)、チームみらい1.7%(0.6ポイント増)、立憲民主1.5%(1.3ポイント減)、共産1.4%(0.4ポイント減)の順だった。調査に回答した1167人のうち、民主、中道を支持したのは各1人(0.1%)だった。
(4)立憲民主、中道、民主を合わせた3党支持率は1.7%、中道結成直前(今年1月)の立憲民主支持率は4.2%で、中道の結成と分裂を経て支持率は半分以下となった。「支持政党なし」は59.7%(3.0ポイント増)に増えた。
〇読売新聞(10月16~18日実施、音声電話応答方式、有効回収率36.4%、内閣支持率「重ね聞き」):「積極財政『評価』59%、経済政策 高い評価、政権 下落回避に安堵、農相更迭 打撃は限定的、『経済最優先』安定化図る」
(1)高市首相が掲げる経済成長優先の「責任ある積極財政」の方針を「評価する」59%、「評価しない」29%。「評価する」は6割を維持し、経済政策に対する期待感が高市内閣の支持率を下支えしている。
(2)食料品消費税率関連法案に「賛成」56%、「反対」37%。「賛成」の人は内閣支持71%、不支持18%、「反対」の人は内閣支持41%、不支持48%で、経済政策に対する賛否が内閣支持・不支持に強く影響している。物価高に対する政府の対応を「評価する」29%、「評価しない」61%で家計の負担感は根強く、今後の政策への期待が先行している。
(3)改正皇室典範成立後の内閣支持率が前月比12ポイント急落したことに比べて、簗前農水相辞任の影響は限定的で内閣支持率は57%で横這いだった。内閣支持率が急落しなかったのは、内閣支持層や若年層、中年層の現役世代が簗氏問題と高市首相の責任問題を切り離す傾向が大きかったため。簗氏更迭を「当然だと思う」82%に対して、「首相の責任が大きいと思う」は46%にとどまった。政府・与党内では、経済政策が底堅い支持を得ており、簗氏辞任の影響を打ち消したとの見方があるものの、消費税減税・支援金法案の成否が今後の政権運営を左右するとみられる。政党支持率は自民34%、支持政党なし41%だった。
〇朝日新聞(10月17,18日実施、同上、有効回収率43.5%):「簗氏巡る対応『評価せず』52%、内閣支持は横這い50%、高市政権 岩盤支持層を維持、発足1年 増える『消極的支持』」
(1)内閣発足1年を前に起きた簗氏問題の内閣支持への打撃は、今のところ限定的だ。簗氏の「道路予算大幅カット」の発言に対しては「大いに問題」「ある程度問題」を合わせて84%、この問題をめぐる高市首相の一連の対応については「評価する」39%、「評価しない」52%と否定的だったが、簗氏が辞任した問題で高市首相のイメージがどうなったかを聞くと、「変わらない」72%、「悪くなった」22%、「よくなった」3%と影響を感じさせない。さらに高市首相の発言や振る舞いにどの程度の好感を持つかとの問いに対しては、「大いに好感を持つ」11%、「ある程度好感を持つ」44%、「あまり好感を持たない」29%、「まったく好感を持たない」12%で、高市首相のキャラクターに対する好感度が高く、不祥事が首相のイメージ悪化に直結しにくいことが窺える。
(2)高市内閣の支持率は発足時の68%から50%へと下落傾向にあるが、支えている「岩盤支持層」は自民支持層で、自民支持率は29~35%で推移している(「支持政党なし」は41%)。自民支持層の内閣支持率は80~93%で「身内」の支持が固い。年代別では18~29歳の若い世代の57%、男女別では男性56%、女性43%で男性の支持が厚い。一方、支持理由を「首相が高市さんだから」「自民党中心の政権」「政策の面」「他よりよさそう」の4択で選ぶ質問では、発足当初は「政策の面」25%と最も多かったが、今回は12%に減少。消極的支持の「他よりよさそう」が当初の21%から25%に増えた。
(3)個別の政策で注目されるのが物価対策だ。物価上昇への高市首相の対応を「評価する」は昨年11月の44%から今回29%に、「評価しない」は59%に上った。「評価しない」層の内閣支持率は32%と低かった。物価高対策や消費税など国民の暮らしに直結する政策にどう向き合うかが、今後の高市内閣の支持率を占う上でのカギになる。
これらの世論調査から不思議に思うのは、高市首相がさしたる成果を挙げられず、しかも閣僚の不祥事が相次いでいるにもかかわらず、支持率がなかなか下落しないことだ。簗氏が国民の顰蹙(ひんしゅく)を買って辞任したにもかかわらず、高市首相のイメージが「変わらない」72%というのだから、頭を抱えてしまう。朝日調査は、その理由を高市首相のキャラクターに対する好感度が高いことを挙げ(55%)、不祥事が首相のイメージ悪化につながらないからと分析している。
朝日新聞は世論調査に引き続き「検証・高市政権1年①」(10月21日)の特集で、地方の高市支持者のインタビューを通して、高市首相の根強い期待感の背景を探っている。ここでは、石破前首相への落胆が高市氏への期待感につながり、石破氏と対比することで、初めての女性首相の高市氏の特徴が際立つ状況が浮き彫りにされている。
・「一番の好印象は話し方。聞いていて気持ちがすっきりする」(徳島県、40代女性)
・「石破さんは周りに流され、やりたいことがわからなかった。高市さんは自分で『こうする』と考えているのが伝わる」(同、50代女性)
・「石破さんはどっちつかず。高市さんは信念を曲げない」(富山県、60代男性)
・「首相の強い言葉が『何とかしてくれる』という期待につながっている」(岩手県、60代男性)
この現象を谷口尚子慶応大学教授(政治行動論)は、2025年参院選と26年衆院選に合わせて実施した全国約1万人の有権者の政治意識と投票行動の調査をもとに、次のように分析している。少し長くなるが、時機を得た内容なので紹介しよう(「発足1年 高市政権の構図」朝日新聞10月21日、要旨)。
――なぜ高市首相は個人人気が高いのでしょうか。
「有権者にとっては、政党や政策といった抽象的なものより、政治家の人柄や績の方がイメージの伝わりやすい面があります。近年普及しているSNSを通じて政治家は有権者に直接メッセージを発信し、支持者のコミュニティを作ることもできる。SNSの時代では、政治家個人の人気が重要になってきていると指摘されます」
――高市首相を支持する人にはどんな特徴がありますか。
「従来の自民党投票者と比べると、女性が多い傾向がみられました。日本で初めて女性が首相になったことに感慨を覚える人もいるでしょう。高市さんは世襲政治家でも官僚出身でもありません。SNSでは洗濯や掃除、アイロン掛けなどの家事をしていることや、多忙な日常を発信しています。首相でありながら一人の生活者としての側面を見せることで、身近さを感じる人もいるでしょう」
――政策面での支持はいかがですか。
「安全保障や外国人政策に関心が高い有権者ほど、高市さんに好感を抱く傾向がありました。戦後の日本では、米国と良好な関係を築ける政治家が評価されてきました。高市さんもトランプ米大統領と良好な関係を保とうとしています。そこが有権者の安心感につながっている面はあると思います」
――高市首相は責任ある積極財政を掲げていますが、景気や暮らしが上向いている実感がありません。
「議員定数や内閣改造といった政治の内側の話より、物価高や消費税など暮らしに直結する問題に関心を持つ有権者の方が多い。そのため有権者が期待する消費税減税について『まずは1%まで下げる』という姿勢を打ち出すことは大事だったのでしょう。そうしなければ、支持率の低下を招くからです」
――高市さんへの支持は今後も続きますか。
「新鮮なイメージで期待を集めたリーダーであっても、有権者に何か具体的な利益がなければ、支持が下がる可能性はあります。高市政権もこれからが正念場といえるでしょう」
ここでは、高市首相が「生活感のある女性の姿」を巧みに演出して同性の支持を集める一方、安全保障や外国人対策では保守右派(主として男性)の心情を引き寄せる右寄りの政策を打ち出し、高い支持率を維持してきた構図が的確に分析されている。それが1年間も続いてきたのは野党が割れているからであり、とりわけ中道改革連合の解体で立憲が壊滅した影響が大きい(同紙の中北浩爾中大教授の分析)。各メディアの世論調査をみても、野党各党の政党支持率は1~3%台に低迷しており、保革2大ブログが交代する兆しは見出せない。
だが、高市首相への期待感はそう長くは続かないだろう。各世論調査がいみじくも指摘しているように、物価高対策に象徴される国民の暮らしをよくする政策が実行されなければ、有権者の〝推し〟で盛り上がった高市首相の期待感は一気に失望・落胆に変わり、化粧が剝がれることになる(世俗的な言い方をすれば「化けの皮が剥がれる」)。
高市人気が「賞味期限切れ」を迎えていることは、専門家の次のようなコメントでも確認できる。問題は「何時になるか」ということであり、それが〝正念場〟という言葉で語られているだけのことである。
・「この1年間で、高市氏は女性初の首相として登場し、保守層の支持を集めて選挙に勝ったというだけで、果たすべき役割を終えてしまったのではないか。私は『政策インプットなき政権にサステナビリティ(持続可能性)はない』と考えており、長期政権にはならないだろう」(牧原出(いづる)東大教授、行政学、毎日新聞10月14日)。
・「参院ではいまだに自維は過半数に届きません。2年後の参院選の結果次第では状況はもっと悪くなる可能性があります。(高市政権は)全速力を出していますから、走り抜ける可能性もありますが、転べば一気にクラッシュします」(中北浩爾中大教授、日本政治史、現代日本政治論、朝日新聞10月21日)。