赤旗が人民的ジャーナリズムの〝中核的役割〟を担う存在から、党中央と地方党機関を維持するための〝財源〟に変質しようとしている、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その20)、岸田内閣と野党共闘(85)

 党勢拡大運動の絶頂期にあった1970年代後半から80年代前半にかけて、共産党の機関紙「赤旗」は、人民的ジャーナリズムの〝中核〟を担う存在として位置付けられていた。そこには「機関紙中心の党活動の全面的な定着を」をスローガンに大衆的前衛党としてその影響力を国民生活のあらゆる分野に広げ、「『百万の党』は80年代の現実的目標」との展望が語られていた。

 ――党と大衆を切り離そうとする反共攻撃が激しければ激しいほど、党と大衆を結ぶ生きた絆である機関紙「赤旗」の読者拡大活動はいっそう重要になってくる。とくに日本は、発達した資本主義諸国のなかでもマスコミがとりわけ高度に発達した国の一つであるだけに、「赤旗」は国の進路を正しく見定め、政治、経済の仕組みをわかりやすく解明し、日本共産党とともにたたかう思想と生き方をひろめ、党と大衆を結んでいく、もっとも強力な宣伝と組織の武器である。「赤旗」はまた、党中央と全党員を結ぶ血管であり、党の路線にもとづいて党活動全体を統一的に結びつける動脈である。機関紙中心の活動でわが党がたえず前進をかちとり、真の革新の陣地を拡大することは、選挙戦や大衆運動を含めて党活動の発展のための不可欠の条件となっている(第14回党大会決議、読者拡大と機関紙活動、1977年10月)。

 ――資本主義国のなかでもマスコミの高度な発達を特徴とするわが国で、人民的ジャーナリズムの中核となっている「赤旗」の果たす役割は、80年代の内外の情勢の進行とともにますます大きい。機関紙読者の拡大を成功させ、この人民的ジャーナリズムの陣地を、基本的に独占資本・支配勢力の統括下にある巨大なマスコミに対抗しうるだけの規模に発展させることが重要である(第15回党大会決議、党勢拡大の規模と速さは国政革新の展望を左右する、1980年2月)。

 

機関紙「赤旗」はこのように、党と大衆を結ぶ絆であり、党の思想を広げるもっとも強力な宣伝・組織の武器であり、党中央と全党員を結ぶ血管であり、党の路線にもとづいて党活動全体を統一的に結びつける動脈である――と、国政変革(民主主義革命)を実現するための戦略的役割を与えられていた。不破書記局長は、「第14回大会決定は『百万の党』の建設を展望しつつ、当面『五十万の党、四百万の読者』の実現という課題を提起しました」「80年代には、わが党が戦後、党の再建以来目標としてきた『百万の党』の建設を必ずやりとげなければなりません」「『百万の党』とは決して手の届かない遠い目標ではありません。日本の人口は1億1千万、『百万の党』といえば人口比で1%弱の党員であります。私たちは、大都市はもちろん遅れたといわれる農村でも少なくとも人口の1%を超える党組織をもち、こうして全国に『百万の党』をつくりあげることは必ずできる目標だということに深い確信をもつわけであります」と高らかに宣言していたのである(第15回党大会、不破書記局長結語、1980年2月)。

 

 それから半世紀近くを経た21世紀前半の現在、党勢は「長期にわたる党勢後退」によって〝どん底〟ともいうべき深刻な状態に陥り、党員と赤旗読者は崖から転げるような勢いで減少の一途をたどっている。その実情を訴えたのが、機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の訴え(赤旗3月19日)だった。これまで党財政の窮状を伝えるメッセージは財務・業務委員会責任者から出されていたが、しかし今回の機関紙活動局長との連名の訴えは、それがいよいよ機関紙発行の危機にまで及んできたことを示している。「現状のままでは赤旗は日刊紙、日曜版とも今月大幅後退の危険、発行の維持さえ危ぶまれる事態に直面する」「日刊紙の赤字は拡大、日曜版の黒字は減少、日曜版は日刊紙の発行を支え、中央機構を支える最大の力」「日刊紙、日曜版の大きな後退を許せば、中央機構の維持も地方党機関の財政もさらに困難を増す」「しんぶん赤旗の発行はどんなことがあっても守らなければならない」――との悲痛な訴えがそれである。

 

 志位委員長が、90年代に党員拡大数が極端に落ち込み、新入党者の「空白の期間」がつくられた背景を「党員拡大と機関紙拡大が党勢拡大の二つの根幹」とした方針が党員拡大を後景に追いやることになった――といった(理由にならない)理由で説明したのはつい最近のことである。そして「『二つの根幹』は正確でなかった」との反省を明確にし、「党建設・党勢拡大の根幹は、党員拡大である。根幹とは、党のあらゆる活動――国民の要求にこたえる活動、政策宣伝活動、選挙活動、議会活動、機関紙活動などを担う根本の力が、党に自覚的に結集した党員であるということである」と定式化された(第29回党大会、志位委員長開会のあいさつ、赤旗2024年1月16日)。

 

 ここで注目されるのは、機関紙活動が党活動の「根幹」から外され、党活動の「その他」に格下げされたことだ。党勢拡大絶頂期には「機関紙中心の党活動の全面的な定着を」が党活動のメインスローガンであり、党員拡大と機関紙読者拡大は相互補完関係にあって相乗効果(正のスパイラル)を挙げていた。それがなぜ「二者択一」になり、党員拡大が「根幹」になったのだろうか。一言で言えば、それほど党組織が存続の危機に直面しており、党活動のすべてを党員拡大に集中しなければ党組織を維持できないほどの深刻な事態に直面しているからであろう。志位議長が最近ことある度に「開拓と苦悩の百年」を強調し、迫害と弾圧によって若くして命を落とした戦前の共産党員(女性)の話を持ち出すのは、このことを意識してのことであり、党組織に奮起を促すためだ(戦前の共産党員、田中サガヨさんについて、赤旗3月31日)。

 

 ところが、党勢拡大とともに急成長してきた党中央機構と地方党機関をこのまま維持することは容易でない。党財政は一定の縮減が図られてきたものの、その規模を党勢に応じた状態に縮減することは極めて困難な作業であり、いったん膨れ上がった組織と財政の規模を縮小することは、「人」の問題が絡む以上そう簡単なことではないからだ。だから、志位議長がいくら「根幹」の党員拡大を叫んでも、財務担当者や機関紙担当者はそれだけに集中するわけにはいかない。機関紙活動がストップすれば、党財政が直ちに崩壊することが分かり切っているからであり、志位議長が党員拡大を言っている傍から、「しんぶん赤旗の発行はどんなことがあっても守らなければならない」と訴えるのは、そのためである。

 

 今回の機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の訴えの最大の特徴は、機関紙読者拡大の目的が、これまでのように国政革新を推進するため人民的ジャーナリズムを発展させるといった「大義名分」には言及せず、党中央と地方党機関を支えるための「財源確保」にあることを(なりふり構わず)打ち出した点にある。このことは機関紙担当者や財務担当者の立場からすれば当然のことであり、職務を果たす上で必要な行為であることは間違いない。都道府県委員長をはじめ党機関専従者の側からすれば、自分たちの仕事を支える財政基盤の確立が死活問題である以上、訴えに賛同するのは当然のことだと言えるが、問題は一般党員や支持者がそれをどう受け止めるかということだ。

 

 党員拡大と機関紙読者拡大が「正のスパイラル」を描いていた頃は、赤旗の普及と拡大は国政変革のためという「大義」に裏打ちされていて大きな勢いがあった。しかし、党員が高齢化して党員拡大と機関紙読者拡大が「負のスパイラル」に陥っている現在、党中央と地方党機関を支えるために赤旗を広げるということがどれだけの説得力を持ち、またどれだけの党員のモチベーションになり得るだろうか。それを実現するには党機関への忠誠心と献身性がなければ不可能であるが、それがすでに崩れていることは、田村副委員長の第29回党大会中央委員会報告においても明らかにされているからである(赤旗1月17日)。

 

 田村副委員長は、党建設・党勢拡大が一部の支部と党員によって担われているという深刻な実態について、(1)入党の働きかけを行っている支部は毎月2割弱、読者を増やしている支部は毎月3割前後にとどまる、(2)大会決定・中央委員会総会報告の決定を読了する党員が3~4割、党費の納入が6割台、日刊紙を購読する党員が6割という実態を明らかにした。これまで党生活の原則とされてきた党費納入と日刊紙購読が6割台に落ち込み、党勢拡大の支部活動が3割程度しか実行されていないという現実は、党活動が相当部分で機能停止の状態に陥っていることを示している。だが不思議なことに、田村副委員長はこの問題を素通りして、「志位委員長のあいさつでは、客観的条件という点でも、主体的条件という点でも、いま私たちが『党勢を長期の後退から前進に転じる歴史的チャンスの時期を迎えている』ことが全面的に明らかにされました」と述べるにとどまり、それ以上のことは何一つ語っていない。

 

 それでは、志位委員長が開会のあいさつで全面的に明らかにしたとされる「党勢を長期の後退から前進に転じる歴史的チャンスの時期」とはいったいいかなるものなのか。志位氏が挙げる客観的条件とは、(1)自民党政治の行き詰まりが内政・外交ともに極限に達しており、多くの国民が自民党に代わる新しい政治を求めており、それにこたえられるのは日本共産党である、(2)貧富の格差の地球的規模での拡大、機構危機の深刻化などのもとで、「資本主義というシステムをこのまま続けていいのか」という問いかけが起こり、社会主義に対する新たな期待と注目が生まれている。日本はいま新しい政治を生み出す〝夜明け前〟とも言える歴史的時期を迎えている、というもの。主体的条件とは、(1)日本共産党は世界にもまれな理論的・路線的発展をかちとってきた。その上に立って「人間の自由」という角度から未来社会論――社会主義・共産主義論をさらに発展させてきた、(2)党建設でも党員拡大の「空白の期間」を克服するため、世代的継承を緊急かつ切実な大問題・戦略的事業として位置づけ、全党を挙げて新たな取り組みを進めてきたと、いうものである。

 

 しかしこの文章を読んでみて、長期にわたる党勢後退を前進に転じる〝歴史的チャンス〟が到来したなどと思う人はおそらく誰一人いないだろう。志位氏のいう客観的条件とは、いずれも現代の時代潮流の一端を述べただけのことであり、主体的条件に関しては党勢拡大方針を羅列しただけのことであって、そこには〝歴史的チャンス〟と言えるエビデンス(根拠)は何一つ示されていない。たとえば「自民党政治に代わる新しい政治に応えるのは日本共産党」ということ一つをとってみても、それは単に志位氏の願望を述べただけの「夢物語」であって、現在の共産党支持率のレベルや野党共闘の有様から見れば、まったくリアリティのない言葉の羅列にすぎない。

 

 状況は「厳しい」の一言に尽きる。機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の悲痛な訴えにもかかわらず、3月の拡大実績はプラスに転じることはできなかった(赤旗4月2日)。第29回党大会以降の3カ月の実績は以下の通りである。

〇1月、入党447人、日刊紙1605人減、日曜版5380人減、電子版94人増

〇2月、入党421人、日刊紙1486人減、日曜版5029人減、電子版74人増

〇3月、入党488人、日刊紙947人減、日曜版6388人減、電子版28人増

 

 党員数の増減は、入党だけでなく死亡と離党の数字が明らかにならないとわからない。死亡数を赤旗党員訃報欄に掲載された547人から推計(過去4年間の掲載率38%)すると1439人(547人×100/38)になり、この間の入党1356人を83人上回ることになる。人口学の用語で言えば、出生と死亡の差を「自然増(減)」、転入と転出の差を「社会増(減)」というが、共産党の場合はすでに恒常的な「自然減」状態にあり、これに離党という「社会減」を加えると、党勢(人口動態)は大きく減少方向に傾いていることがわかる。つまり、第29回党大会以降の3カ月は、党員、日刊紙、日曜版ともに増加に転じることができず、「長期にわたる党勢後退」が依然として続いているのである。

 

 2022年の「党創立百周年」を迎えてのキャンペーンが、志位委員長肝いりの『共産党の百年』の刊行(2023年7月)を機に大々的に行われ、また遅れていた第29回党大会(2024年1月)も開催された。だが、その後の3カ月は大会目標を早くも裏切るものとなり、大会決議自体の正統性が大きく揺らいでいる。共産党が向き合うべきは、『百年史』の作成もさることながら、実は「長期にわたる党勢後退」すなわち「共産党の2024年問題」の解明こそが本命ではなかったか。また『百年史』を作成するのであれば、「長期にわたる党勢後退」の解明を軸にして組み立てなければならなかった。「共産党の2024年問題」を素通りして百年の歴史を誇ることは、「砂上の楼閣」を誇ることと余り変わらない。

 

 物流業界の2024年問題は、日本が直面している少子高齢化による労働人口減少が、物流業界の構造問題(低賃金、長時間労働、健康障害など)と相まって「ドライバー不足」という形で一挙に顕在化した社会課題である。物流業界はこれらの問題を以前から熟知しながら、労働者(ドライバー)に長時間労働を強いることで売上を拡大してきた。これに加えてバブル崩壊後は、立場の強い荷主による運賃の買いたたきや過剰な付帯サービス要求(ドライバーによる荷役など)が横行し、ドライバーの長時間労働はそのままに収入だけが下がっていった。そして、このまま「ドライバー不足」を放置すれば、遠からず日本の輸送能力が崩壊するというところまできて、やっと腰を上げたのである。

 

 この構図は共産党にもそのまま当てはまる。共産党は早くから「長期にわたる党勢後退」問題の発生に気付いていたが、党員と党組織に「過大な拡大要求」を強いることで解決できると(安易に)考えていた。党中央が絶対的な権限を持つ「民主集中制」の党原則の下で、「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大方針が党員を疲弊させ、党組織が高齢化の一途をたどってきたにもかかわらず、それを真正面から取り上げようとしなかった。それが人口減少時代の少子高齢化と相まって恒常的な「党員減少問題」となってあらわれても、これまでの方針を見直そうとしなかった。そしてこの状態を放置すれば、遠からず党組織が崩壊するというところまで来ているにもかかわらず、まだ腰を上げようとしていない(物流業界にも劣る)。

 

 4月6日に第2回中央委員会総会(2中総)が開かれるという。ここでこの3カ月の拡大実績がどのように総括されるかが注目される。第28回党大会の130%目標(党員35万人、赤旗読者130万人)を5年間で達成することをあくまでも追及するのか、それとも思い切った方針転換を示すのか、共産党はいま存亡の岐路に立っている。(つづく)