赤旗(日刊紙)を読まない党員が4割を超える現実をどうみるか(追伸5)、党員拡大と赤旗読者拡大が「負のスパイラル」に陥っている、機関紙活動局長、財務・業務委員会責任者連名による赤旗発行の危機訴えについて

 「追伸」をもう止めようと思いながら、今回もまた書くことになってしまった。読者諸氏からのコメントが(内容は一々紹介しないが)相次ぎ、そこでの問題意識に応えることが拙ブログに課せられた役割の一つと思ったからだ。コメントの多くは、機関紙活動局長と財務・業務委員会責任者連名の赤旗日刊紙・日曜版の発行危機(赤旗3月19日)に集中している。「3月大幅後退の危険。日刊・日曜版の発行守るため大奮闘を心から訴えます」との見出しが、党活動欄のトップに掲げられていたからだろう。文面には「長期にわたる党勢後退」がいよいよ〝赤旗発行の危機〟に及んできたことが悲痛な声で訴えられている(抜粋)。

 ――3月後半に入り全党の奮闘は広がっていますが、率直にいって現状のままでは「しんぶん赤旗」は日刊紙、日曜版とも今月、大幅後退の危険にあり、発行の維持さえ危ぶまれる事態に直面しています。3月は転勤、転居、異動などで通常よりも多くの減紙が出る月です。昨年3月は日刊紙、日曜版とも大後退でした。大会後の後退から前進に転じる新たな出発の月とすべきこの3月、3カ月の連続後退は絶対に許されません。根幹である党員拡大で必ず前進させるとともに、都道府県・地区委員会が日刊紙、日曜版読者拡大の独自追及を思い切って進め、拡大のための手だてをとりつくし、必ず前進をかちとりましょう。

 ――日刊紙、日曜版の発行維持は絶対的課題です。昨年の新聞用紙急騰には日刊紙、日曜版の減ページで対応することへのご理解をお願いしました。しかし、その後の発行経費の値上がり、大会後の後退によって、日刊紙、日曜版の発行の危機が現実のものとなりつつあるのが率直な現状です。日刊紙の赤字は拡大し、日曜版の黒字は減少しています。日曜版は日刊紙の発行を支え、中央機構を支える最大の力です。日刊紙、日曜版の大きな後退を許せば、中央機構の維持も地方党機関の財政もさらに困難をまします。「しんぶん赤旗」の発行はどんなことがあっても守らなければなりません。この3月、日刊紙、日曜版の前進をなんとしてもかちとるために、全党のみなさんの奮闘を心から訴えます。

 

 党の財務状況について、ホームページに掲載されている「政治資金収支報告」(1995~2022年)に基づき、1995年と2022年を比較してみよう。第20回党大会(1994年7月)が開かれときの党員36万人、赤旗読者250万人を1995年の党勢とした。2022年は第28回党大会(2000年1月、党員27万人、赤旗読者100万人)と第29回党大会(2024年1月、党員25万人、赤旗読者85万人)の中間年なので、党員26万人、赤旗読者90万人を党勢とした。1995年と2022年の党勢を比較すると、この四半世紀余りの間に党員が3割、赤旗読者が6割減少している。それが財務状況にどのような変化を与えているかを検討してみたいのである。

 

 (1)中央委員会の収入総額は、311億447万円から190億9543万円へ120億904万円減(▲38.6%)、支出総額は306億4150万円から194億2345万円へ112億1805万円減(▲36.6%)となり、収支差引は4億6297万円の黒字から3億2802万円の赤字になった。党中央の財政規模は、四半世紀余りの間に6割に縮小し、収支差引は「赤字」に転落した。

(2)収入・支出総額の太宗を占める機関紙誌事業費は、収入が277億9563万円(収入総額の89.4%)から166億5329万円(同87.2%)へ111億4234万円減(▲40.0%)、支出が222億6469万円(支出総額の72.7%)から122億8259万円(同63.2%)へ99億8210万円減(▲44.8%)となり、収支差引は55億3094万円から43億6070万円(▲21.2%)に縮小した。2023年政治資金収支報告(2024年11月予定)が出てこないとわからないが、2023年以降の機関誌紙収入が急減しているとの度重なる訴えからも、党の経常経費を支えてきた財源が急速に縮小していることは間違いない。

(3)中央委員会の経常経費は45億1145万円(支出総額の14.7%)から33億8067万円(同17.4%)へ11億8800万円減(▲26.3%)、地方党機関交付金は38億6536万円(支出総額の12.6%)から37億6019万円(同19.4%)へ1億517万円減(▲2.7%)となった。ここからは、党中央の支出を抑えて地方党機関への支出を維持している状況が読み取れる。

(4)党勢と財務状況の関係を見ると、この間、党員拡大と赤旗読者拡大がすでに構造的な「負のスパイラル=悪循環」に陥っていることがわかる。「数の拡大」を至上目的とする拡大運動が追及されてきた結果、党組織が疲弊して離党者が増え、党員の減少が拡大運動を減速させるという悪循環が構造化している。しかも残り少なくなった党員の4割以上(11万人)が日刊紙を購読していないというのだから、このままでは今後党員が増えても日刊紙は増えないことになる。この四半世紀余りで赤旗読者が250万人から90万人へ6割減少したことが、機関誌紙収入が4割減少した最大の原因になっていることは明らかだろう。今後は、これまでにも増して「負のスパイラル」が拡大していくことが懸念される。

 

 共産党の党勢は、これまで「正のスパイラル=好循環」の軌跡を描いてきた。1960年代から70年代にかけて、党員は60年代初頭9万人、70年代初頭28万人、80年代初頭48万人と急増した。赤旗読者も60年代初頭10万人、70年代初頭180万人、80年代初頭355万人と飛躍的な増加を記録している。高度経済成長の波に乗った労働運動と革新自治体運動の広がりが党勢拡大の源泉となり、60年代前半から70年代後半まで毎年100万人を超える人口増加が続いた日本の「人口ボーナス期」がこれを支えてきた。いわば〝成長型モデル〟の党勢拡大運動が、20年間にわたって大成功を収めてきたのである。

 

 しかし、80年代から90年代にかけて経済成長が失速して経済不況が広がり、労働運動や革新自治体運動も後退し、さらに東欧・ソ連の崩壊や中国の天安門事件などによって社会主義体制への期待が消滅すると、党勢拡大運動は一転して逆風に曝されるようになった。また、この頃から日本人口の構造的な「少子高齢化」が始まり、21世紀に入ってからは本格的な「人口減少時代=人口オーナス(重荷)期」が訪れるようになった。赤旗読者も80年代は300万人台を維持したものの、90年代に入ると300万人を割り、2000年代には200万人割れ、2010年代には150万人割れ、2020年代には100万人割れと雪崩のように後退が止まらなくなった。このような情勢につれて党活動から離れる「実態のない党員=未結集党員」問題が党全体を覆うようになり、第20回党大会(1994年7月)と第26回党大会(2014年1月)では各々12万人、計24万人が「離党者」として整理された。党が「長期にわたる党勢後退」の局面に入ってからは従来の拡大運動では対処しきれなくなり、「数の拡大」にとらわれない〝持続可能型モデル〟の党勢発展が求められるようになってきたのである。

 

 ところが不思議なことに『百年史』や第29回党大会決議では、党員拡大と機関紙読者拡大を「党勢拡大の二つの根幹」として党勢拡大を推進してきたことが、あたかも誤りであるかのような記述がされている。60年代から70年代にかけて党員拡大と機関紙読者拡大の相乗効果をもたらした「正のスパイラル」がなぜ90年代に入って機能不全に陥ったのか、なぜ党員拡大がストップしたのか、その本当の理由すなわち大量の離党者の発生原因が書かれていないからである。

 ――80年代から90年代にかけての時期は、国内での反動攻勢、東欧・ソ連の崩壊という世界的激動のもとで、反共の逆風が吹くという客観的条件が党勢拡大に重大な困難をもたらし、「赤旗」読者数も80年代をピークに漸減傾向をたどりました。またこの時期には、党勢拡大と機関紙読者拡大を「党勢拡大の二つの根幹」と位置づけることによって、党員拡大を事実上後景におしやる弱点も生まれました(『百年史』215ページ)。

 ――過去の一時期、党員拡大が事実上後景においやられたことが重大な一因となり、90年代に党員拡大数が極端に落ち込み、新入党者の「空白の時期」がつくられたことは、党建設に大きな傷痕を残している。それは現在の党歴構成で党歴30年から39年の党員が大きく落ち込み、年齢構成でも50代以下の世代が大きく落ち込んでいることにあらわれている。(略)いついかなるときでも党員拡大を揺るがず党勢拡大の根幹にすえ、自覚的なとりくみを継続的に発展させることを、今後の党建設の最大の教訓にしなければならない(第29回党大会決議、②党建設の歴史的教訓と大局的展望)。

 

 党員拡大と機関紙読者拡大を「党勢拡大の二つの根幹」に位置づけて拡大運動を推進してきたことが党員拡大を事実上後景におしやることになった――といった意味不明の記述は、90年代に起こった事態の本質を正しく伝えていない(歪曲している)。ことの真相は「数の拡大」を至上目的とする党勢拡大運動が「実態のない党員」を大量に生み出し、上意下達の官僚的組織運営とも相まって党活動の著しい停滞をもたらした結果、「離党」という形で党員の大量整理が行われたことが最大の原因だったのである。党中央が「実態のない党員」問題を生み出した原因を解明せず、「民主集中制」に基づく組織原則や組織運営を改めず、この離党処分を「前衛党らしい党の質的水準を高める上で重要な前進」(当時の志位書記局長発言)と正当化したことが党内の反発を呼び、その後の党員拡大が事実上ストップしたのである。

 

 しかし、「いついかなるときでも党員拡大を揺るがず党勢拡大の根幹にすえ、自覚的なとりくみを継続的に発展させることを、今後の党建設の最大の教訓にしなければならない」という第29回党大会決議は、今度は赤旗読者拡大のエネルギーを弱めることになり、機関紙発行が危ぶまれる危機的状況を招いている。党員拡大を党勢拡大の根幹にすえ、とりわけ若い世代の入党を重視する方針は、党組織の超高齢化による存続危機を反映したものであろうが、もはや「成長型モデル」が成立しなくなった人口減少時代においては、「数の拡大」に固執する党勢拡大方針は、結果として党員と赤旗読者をともに失うことになりかねない。

 

 4月初めには、3月の党勢拡大運動の成果が赤旗に公表されるだろう。すでに1月と2月は党員・赤旗読者ともにマイナスとなっており、3月も同様の結果になれば前途は危うい。2年後の「党員27万人、赤旗読者100万人」回復、5年後の「党員35万人、赤旗読者130万人」達成――の目標は極めて厳しくなるからである。臨時党大会でも開いて志位議長が辞任し、〝解党的出直し〟を図る以外に党再生の選択肢はないと思うがどうだろうか。(つづく)