北朝鮮情勢緊迫化のなかでも急変しなかった内閣支持率が意味するもの、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(22)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その53)

今回、北朝鮮情勢緊迫化の中で世論調査を実施したのは、朝日、読売、産経の3紙であるが、私は当初、トランプ政権と歩調を合わせて北朝鮮へ強硬姿勢をとる安倍政権への支持率がもっと上がるのではないかと思っていた。各紙とも50%台はおろか、軒並み60%台に乗るのではないかとさえ思っていたのである。しかし、前回(3月)に比べての内閣支持率の変動は、朝日49%→50%、読売56%→60%、産経57%→59%と比較的小幅なレベルに止まった。

この理由として考えられるのは次のようなものだ。第1は、回答者の圧倒的部分が北朝鮮のミサイル発射や核開発に脅威を感じ(朝日91%、読売93%、産経91%)、トランプ政権の北朝鮮に対する軍事的圧力を支持・評価している(朝日59%、読売64%、産経なし)にもかかわらず、それが直ちに安倍首相の政策を支持することに繋がっていないことだ。

安倍内閣を「政策」面から支持・評価している回答者の割合(全体に対する比率)は、2月から3月、4月にかけての推移を見ると、朝日14%→12%→13%、読売9%→7%→8%とほとんど変化していない(読売の数字が低いのは評価する項目が朝日に比べて多いため)。最大の理由は「他よりよさそう」「これまでの内閣よりよい」という相対的(消極的)なものであり、これを上げる回答者(全体に対する比率)は、朝日25%→24%→25%、読売28%→24%→25%とほぼ4分の1を占めていて、それほど変化していないのである。

第2は、今年2月以来発覚した「森友疑惑」の影響がその後も続いていて、支持率上昇のブレーキになったことが考えられる。「森友疑惑」はテレビ番組では一時のような報道は消えたものの、各紙ではその後も継続して関連記事が追及されており、今回の世論調査でも朝日、読売は2問を設けている(産経なし)。結果は「森友疑惑」は解明されていないとする回答が圧倒的で、朝日は「国有地売却をめぐる一連の問題について、政府の説明は不十分」75%、読売は「政府の説明に納得できない」82%、「安倍首相や夫人が関与していないという説明に納得できない」63%となっている。また朝日では「安倍首相夫人が国会で説明する必要あり」53%、「必要なし」39%となっている。

2月から3月、4月にかけての内閣支持率の推移を見ると、朝日52%→49%→50%、読売66%→56%→60%、産経59%→57%→59%と緩やかにV字カーブは描いたものの、全体としてはそれほど大きく変化していないことがわかる。この傾向は「森友疑惑」による内閣支持率の低下と北朝鮮情勢の緊迫化にともなう内閣支持率の上昇が互いに打ち消し合った結果とも考えられ、「森友疑惑」の持つ影響力の大きさを物語るものだ。核戦争に結び付くかもしれないという国際的な大事件と安倍首相夫妻の身辺問題を天秤にかけることはできないが、それでも世間は全てを秤にかけて審判を下すのだから、とかく政治の世界は怖いのである。

今後に予想される事態は、北朝鮮情勢の動向如何によって大きく左右されるだろうが、もし北朝鮮情勢が沈静化に向かうときは、「森友疑惑」は安倍政権を揺るがす政治スキャンダルとして再び浮上してくることになるだろう。「森友疑惑」は安倍政権が望むように一段落もしていなければ、簡単に幕引きできるような軽い事件でもないのである。

昨4月21日、学校法人「森友学園」(大阪市)は負債17億円を抱えて大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。関西では、朝日夕刊が1面トップで伝えるようなビッグニュースとして取り扱われている。しかし、小学校校舎建設工事費の未払いの上に幼稚園では園児数が3分の1までに激減し、保育園では保育士が相次ぎ退職して運営が困難になるなど、森友学園は閉園の危機に直面している。保育園では目下のところ、大阪市が緊急に保育士を派遣して急場を凌いでいるが、保育条件の改善が出来なければ事業中止命令が出されることになり(6月が限度)、民事再生の道は容易でない(絶望視されている)。

森友学園は小学校認可申請をすでに取り下げているが、ほぼ完成している小学校校舎の処分方法については何一つ決まっていない。校舎、校地の処分については近畿財務局の所管であり、大阪地検への財務局職員に対する告発案件も含めて、これから絶えず「森友疑惑」が世間を騒がせることになる。安倍夫妻の関与問題もその度に蒸し返されることになり、「森友疑惑」は安倍政権を取り巻く「黒い霧」としてこれからも消えることはないだろう。

安倍政権を取り巻くもう一つの「黒い霧」は、安倍内閣の閣僚らが発言を問題視され、謝罪・撤回に追い込まれるケースに歯止めがかからないことだ。作4月21日の日経新聞によると、「安倍政権 目立つ緩み」「政務官また辞任 相次ぐ失言・不祥事」との見出しで、閣僚らの一連の「失言・不祥事リスト」が掲載されている。

○2月6日、金田法相、国会の議論に注文を付ける内容の文書を記者に配布したことに関して謝罪、文書撤回。
○3月8日、務台内閣府政務官、長靴を用意せず職員に背負われて台風被害を視察するという醜態を演じながら、「長靴業界は(このことで)大分儲かったらしい」と口を滑らせて辞任。
○3月13日、稲田防衛相、森友学園も訴訟関与を国会答弁で全面否定したにもかかわらず、翌日に「記憶違い」と訂正して謝罪、発言撤回。
○4月4日、今村復興相、記者会見で記者を罵倒。原発事故の自主避難を「本人の責任」と発言して謝罪、発言撤回。
○4月16日、山本地方創生相、観光政策の推進に当たって「一番のがんは文化学芸員」「この連中を一掃しないとダメ」と発言し謝罪、発言撤回。
○4月18日、中川経産政務官、妻とは別の女性トラブル(重婚、ストーカーなど)をめぐる週刊誌報道で辞任、21日自民党離党。

 一連の事態は、第2次安倍内閣発足後(2014年10月)の相次ぐ閣僚不祥事による内閣支持率の大幅低下を想起させる。今後の事態の推移を注視したい。(つづく)