「民進は全体、右向け右!」、芹川洋一・日本経済新聞論説主幹の驚くべき論説(2016年10月3日)を読んで、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その16)

本論に入る前に東北の復興状況について一言記したい。宮城県石巻専修大学で10月1日から開催された災害復興学会の前に、石巻市半島部の漁村の復興状況を現地見学してきた。目立ったのは巨大防潮堤があちこちで着工中なのに対して、高台移転や復興住宅の建設が著しく遅れていることだ。「鉄とコンクリートから人へ」といったスローガンはまるでどこかに消え、「人よりも鉄とコンクリートが第一」ともいうべき光景が半島中に広がっていた。予期した通りの状況だとは言え、息をのむ思いだった。

東日本大震災の被災地・東北地方の復興計画については、拙ブログで「震災1周年の東北地方を訪ねて」と題して、2012年4月3日から2013年2月28日まで約1年間(111回)にわたって連載した。なかでも東日本大震災の最大の被災自治体である石巻市の復興計画については、国土交通省宮城県土木部→石巻市役所の直通ルートで支配された「本邦最悪のケース」として詳細な検討を加えた。今回の現地見学によって(その間の数回に及ぶ現地視察の結果も加えて)、事態は予測した通りの展開になっていた。おそらく巨大防潮堤が完成する頃には、「そして誰もいなくなった」ゴーストタウンがあちこちで残骸をさらしていることだろう。いずれ日を改めて紹介したい。

留守をしていた間に新聞が家中山積みとなり、スクラップして整理するだけでも2日間を要した。この膨大な情報の中から何を取り上げるかはなかなか難しい。国会論戦も始まっているし、一方東京都議会ではいよいよ質疑がスタートした。いずれも重要関心事であることは間違いないが、私にはやはり野党共闘の行方が気にかかる。

目下、野党共闘衆院補選を控えて微妙な段階に入っている。野田民進党幹事長は、共産党との共闘は否定しないものの、「衆院選参院選と違い、政権を担うために戦う。理念や基本政策が違えば政権を組むことはできず、どんな協力が可能かは真摯に対話したい」(毎日新聞2016年10月5日)というだけで、いっこうに態度を明らかにしない。おそらくは具体的な政策協定を結ぶことは極力避け、一方的に共産党に候補を降ろしてもらうことを期待しているのだろう。つまり「棚ボタ式共闘」が民進党のホンネなのだ。

野田幹事長の念頭には、2009年の政権交代選挙の際、共産党が約半数の小選挙区で候補者擁立を一方的に見送り、民主党が「棚ボタ式大勝利」を収めたことがまだ記憶に残っているのだろう。また今年4月の衆院補選京都3区では共産党が候補者擁立を見送り、あまつさえ民進党京都府連が「共闘しない」と大会決議までしているにもかかわらず、民進党候補を勝手連的に応援したという「美味しい話」が忘れられないのだろう。要するに野田幹事長は、他の野党は「黙ってついてくれるだけでいい」といったカラオケを歌いたいのである。

手元にある今日10月6日の各紙朝刊には、目前に迫った東京10区、福岡6区の衆院補欠選挙での野党共闘が成立したことが(朝日を除いて)小さく載っている。政治的にはその程度の値打ちしかないニュースなのだ。その内容をみると、(1)民進党は他の野党の選挙協力は受けるが推薦は受けない、(2)7月の参院選で合意した安全保障関連法の廃止などは踏襲するが新たな政策協定は結ばない、(3)補選では野党共闘をするが、次期衆院選での本格的な野党共闘は未定――という野田流の手法が貫かれている。

とはいえ、政党間の駆け引きは常識の及ばないところだ。これ以上推測するのは無駄なことなので、今回は話題を変えて最近掲載された日経新聞論主幹・芹川洋一氏の(驚くべき)論説を取り上げよう。氏の論説の大意は、以下のような政党支持の動向分析に基づいている。
(1)自民の支持率が上昇すると支持政党なし(無党派)が減少し、逆に自民支持が低下すると無党派が増加するという負の相関(逆相関)がある。
(2)民主・民進の支持率は一貫して10%程度でほとんど変化がなく、自民から離れた無党派を取りこむ受け皿になっていない。
(3)民進が支持を回復するには、無党派に流れては自民支持に戻りまた無党派へとスイングする層を引きつけるしかない。
(4)そこから民進は、左の民共連携ではなく、右に動いて弱い自民支持であるリベラル保守を取りにいくのが正攻法との推論が生まれる。

 また、今年7月の参院選における野党共闘に関しては、次のような分析をしている。
(1)野党候補が勝利した選挙区をみると、もともと自民が分裂しているところであり、保守票の一部が野党と組んだところである。
(2)野党共闘でも民共連携の形がはっきりすると、西日本の1人区で総崩れになったように保守票が逃げる。
(3)民進の進むべき道は「リベラル保守」路線であり、民共は戦術論としては正しかったが、民進の中期戦略としては失敗だ。それは社会党への道である。

 以上から結論は、「民進党が昔の社会党のように拒否政党の道を歩もうとするのなら別だが、もし信頼を回復してふたたび政権を担いたいというのであればどうするか。それには全体、右向け右である」というものだ。この論説をどうみるかは各自それぞれの自由だが、産経や読売に比べてこれまで「ドギツイ表現」を避けてきた日経にしては随分思い切ったことをいうものだと驚いた。次回は、この論説の依って立つ分析手法とその政治的意図を解明したい。いわば「論説の論評」である。(つづく)