「消滅可能性自治体」の広がりは、党地方議員の「消滅可能性」につながらないか、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その23)、岸田内閣と野党共闘(88)

  経済界などの民間有識者でつくる「人口戦略会議」は4月24日、全国1729自治体のうち744自治体が「いずれ消滅する可能性がある」との報告書を発表した。報告書は国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計を基に、子どもを産む中心世代である20〜39歳の若年女性人口が2020年から30年間で半減する市区町村を「消滅可能性自治体」と定義し、4割超がそれに該当するとした。翌日の各紙は1面トップあるいはそれに近い扱いでこの報告を大々的に報じた。

 

 人口戦略会議は、今年1月にも2100年に人口を8000万人台で安定させるとする提言を発表している。人口が減っても2050〜2100年に年率0.9%程度の実質国内総生産(GDP)成長率を維持するためには、生産性の低い産業や地域の構造改革を進め、合計特殊出生率(1人の女性が産む生涯子ども数)を2040年ごろまでに1.6、50年ごろまでに1.8へ引き上げ、60年までに人口置き換え水準の2.07にする必要があるというのである。だが、この目標の達成は「限りなく不可能に近い」との見方が支配的だ(人口学者の共通意見)。

 

 日本戦略会議の副議長である増田寛也元総務相は、10年前にも同じような報告書(日本創生会議、増田レポート、2014年5月)を発表している。2010年から40年までの30年間で若年女性人口の減少率が50%以上減少する自治体を「最終的に消滅する可能性が高い」とし、そのリストを公表して大反響を巻き起こした。安倍政権はそれを受けて「地方創生」政策を打ち出し、「希望出生率1.8」を実現するための「人口ビジョン」を各自治体に提出させた。だが、(無責任にも)それを実現するための裏付けがなかったために「地方創生」と称する政策は僅か数年で雲散霧消し、現在は影も形もない。安倍政権にはそれに類する思い付きの政策が山ほどある。厚生労働省によると、合計特殊出生率は翌2015年の1.45からそれ以降7年連続で低下し、2022年には過去最低の1.26を記録している。

 

 全国町村会長は2日後「日本戦略会議の消滅可能性自治体に関するコメント」を発表して厳しく反論した(全国町村会ホームページ、4月26日)。

 ――総人口が減少する中にあって、現在、町村をはじめ全国の自治体は人口減少への対応や独自の地域づくりに懸命に取り組んでいる。こうした中で20歳~39歳の女性人口が半減するという一面的な指標をもって線引きし、消滅可能性があるとして自治体リストを公表することは、これまでの地域の努力や取組に水を差すものである。今回の推計に示されるような事態となった大きな要因は東京圏への一極集中と少子化であり、一自治体の努力だけで抜本的な改善を図れるものではなく、リストの公表によって一部の地方の問題であるかのように矮小化されてはならない。まずは国全体としてこれまでの政策対応を検証し、抜本的な対策を講じていく必要がある。その上でいま我々自治体が取り組むべきことは、一定の人口減少が進む中でもそれぞれの地域で安心して暮らすことのできる持続可能な社会を実現することである(以下略)。

 

 朝日新聞の「天声人語」(4月29日)も「またか」と痛烈な批判をしている。

 ――また女性に押しつけるのか。民間研究機関「人口戦略会議」が公表した分析結果に正直げんなりした。指標としたのは20~39歳の若年女性人口の減少率だけ。(略)子どもは女性だけでは生まれない。少子化の最大の原因は男女の晩婚化と非婚化にある。(略)人口減を語る指標は他にもある。家事や子育てを平等に分担できる働き方や男女の賃金格差の解消など政策で変えるべきものは多い。そもそも女性は子どもを産むためだけに存在しているのではない。「個人」の幸せのために生きたいように生きたいのだ。

 

 イギリスの著名な人口学者ポール・モーランドは、著書『人口は未来を語る』(橘明美訳、NHK出版、2024年1月)の中で世界各国の少子化の動向と原因を分析し、人口減少に対する根本的な方策は「個人の自由な選択と多産奨励主義が両立するような文化を作る」ことしかないと述べている。個々人が多様な生き方の選択肢の中から自由意思によってその道を選択し、結果として社会全体の平均出生率が今より高くなるような状況を生み出さなければならない――というのである。また最悪の少子化対策は、時代に逆行する多産奨励主義の強要であるとも言っている(訳者あとがき)。

 

 要するに、日本戦略会議報告書の最大の特徴は、若年女性人口を「唯一の指標」として少子化動向を論じ、その帰趨が自治体の消長すなわち「消滅可能性」を規定すると一義的に結論づけるところにある。だが、ここには二つの意味で大きな論理的飛躍(欠陥)がある。一つは、女性の生物学的特性(産む性)を直線的に出生力に結びつけ、女性が人間らしく生きたいという社会的文化的ニーズやそれに基づく行動の特性を無視していることである(自分の生活を犠牲にしてまで女性は子どもを産もうとしない)。もう一つは、自治体を取り巻く数多くの要因を無視して、若年女性人口の大小(だけ)が自治体の消長を決定すると決めつけていることである。そこには全国町村会のコメントにもあるように、自治体を構成している多様な地域住民の存在が無視されており、自治体の運命は「メスの数」で決まるといった〝原始的コミュニティ〟の考え方が一貫している。

 

 共産党はこれまで人口減少問題について包括的な見解を示したことがない。第29回党大会決定にも「人口減少」という言葉は見つからない。ところが、今回の日本戦略会議報告書に関しては珍しく批判的な記事を掲載した(出稿は個人名で所属部局は不明、赤旗4月29日)。「時代錯誤の『消滅可能性自治体』」との見出しで「人口減少の責任 女性に転化」「自治体破壊の狙い明らか」と主張している。同報告書の「消滅可能性自治体」リストが地方自治を否定し、自治体を破壊する恐れがあると感じたからであろう。

 ――日本の人口が減少し、地方が衰退しているのは、女性が子どもを産まないからではありません。労働法制の規制緩和による人間らしい雇用の破壊、教育費をはじめ子育てへの重い経済的負担、ジェンダー平等の遅れなど、暮らしや権利を破壊する政治が原因です。結婚するかしないかは個人の生き方の選択であり、政治が介入することではありません。若い女性が減っているから自治体が消滅するなどという設定自体が間違っています。

 ―― 一方、戦後、地方自治法のもとで自治体を大量に「消滅」させたのはだれだったのでしょうか。1999年から自公政権が進めた「平成の大合併」で、市町村数は3232(1999年3月末)から1730(2010年3月末)減りました。合併により新自治体に吞み込まれた旧市町村の活力は喪失し、住民の声が行政に届かなくなり、住民サービスは低下しました。だれが地方の活力を奪い、自治体の破壊・消滅を進めてきたのか明らかです。

 

 しかし、問題はその先にある。人口減少問題は単なる「批判」だけで事足りるような簡単な問題ではなく、これから数十年にわたって取り組まなければならない深刻かつ長期的な社会問題なのである。それほどわが国が直面している人口減少は大きな慣性力を有しており、数十年単位の政策を続けなければ是正できないほどの巨大なエネルギーを擁している。つまり、この先数十年は人口減少が続くことを覚悟しなければならないのであり、それとともに日本の地方自治、地方自治体の変容も免れないと言わなければならないのである。

 

 このことは共産党にとっても他人事ではないはずだ。現実には地方党組織と党議員の高齢化が著しく進んでおり、選挙がある度に地方議員とりわけ町村会議員の数が減少していく事態が続いている。今回リストアップされた「消滅可能性自治体」の多くは平成大合併で大打撃を受けた町村自治体であり、そこでは党議員の減少が着実に進行している。「消滅可能性自治体」は今後、党議員の「消滅可能性」にもつながらないとは限らないからである(というよりは、その可能性が大きい)。

 

 志位議長は最近このところ事ある度に、社会主義・共産主義の「未来論」を語るようになってきている。「長期にわたる党勢後退」から抜け出せず、党内に重苦しい空気が漂っていることから、せめても明るい話題を提供しようと彼なりに努力しているのであろう。だが、志位議長が語るべきは「遠い未来」である社会主義・共産主義への夢ではなく、この数十年の間に必ずやってくる「近い未来」の人口減少問題への対応ではないのか。

 

 国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は昨年末、2つの将来人口推計を発表した。1つは『日本の将来推計人口』(2023年11月)、もう1つは『日本の地域別将来人口推計』(2023年12月)である。いずれも日本の将来を左右する重大な将来予測資料であるが、その後に開かれた党大会や中央委員会総会のいずれにおいても、人口減少問題には一言も触れられていない。「報告」や「決定」に溢れているのは「党勢拡大」の繰り返しであって、その背後に横たわる深刻かつ長期的な人口減少問題はまるで眼中にないようなのである。

 

 この状態を地震災害に例えて比喩的に言えば、目前に迫っている大津波を警戒することなく、目先の家の修繕や補強に明け暮れている小さな集落の姿が目に浮かぶ。このままでは大津波に集落が丸ごと飲み込まれてしまうにもかかわらず、それを警告するリーダーも住民がいないというのでは、この先が思いやられるというものである。前置きが随分長くなってしまったが、次回からは共産党のホームページに掲載されている地方議員の実態分析に入りたい。(つづく)