2014年衆院選でダントツ1位だった維新得票率が都構想賛成率と連動しなくなってきた、共同通信・毎日・産経の共同世論調査を分析する(2)、橋下維新の策略と手法を考える(その17)

2014年衆院選と言えば、12月14日が投開票日だから今から僅か4カ月足らずの前のことだ。このときの大阪市内の政党別比例投票率は、維新33%、自民23%、公明18%、共産14%、民主7%で維新がダントツ1位だった。その後、今年3月の共同通信・毎日・産経の共同世論調査における統一地方選での大阪市議選の政党別投票意向率は、維新36%、自民16%、公明7%、共産8%、民主4%となってこれも維新がダントツ1位だった。この時の橋下市長支持率は52%だから、「橋下支持率52%>都構想賛成率43%>市議選維新投票意向率38%」という順序で並んでいたことになる。

それが4月世論調査になると、「橋下支持率45%>都構想賛成率37%>市議選維新投票意向率29%」となって、それぞれが6〜9%程度低下した。つまり橋下市長の支持率が下降すると、ほぼ並行して都構想賛成率と維新投票意向率が下がるという興味深い関係が認められるのである。前回の拙ブログでは、その要因を橋下支持層が都構想について(少し)疑問を持ち始めたこと、および「橋下チルドレン」(女性)の不祥事疑惑の広がりが橋下市長のイメージダウンにつながり、都構想賛成率と維新投票意向率の低下をもたらしたと分析した。

しかし、上記の世論調査ではもうひとつ面白い結果が出ている。それは都構想賛成率を特別区(北、中央、東、湾岸、南の5区)別にみると、区によって都構想賛成率に大きな差が現れていることだ。賛成が反対を上回ったのは北区(北、都島、福島、淀川、東淀川:賛成44%、反対36%)だけで、残りの特別区では全て反対の方が多かった。反対の多い方から並べてみると次のようになる。

東区(東成、生野、旭、城東、鶴見)、反対55%、賛成28%
南区(阿倍野、住吉、東住吉、平野、住之江の一部)、反対52%、賛成35%
中央区(中央、西、天王寺、浪速、西成)、反対48%、賛成40%
湾岸区(此花、港、大正、西淀川、住之江の一部)、反対43%、賛成42%

 4カ月前の2014年衆院選の政党別比例得票率をもう一度思い出してみよう。市内24選挙区の維新得票率を5特別区別に再集計すると、北区35%、中央区35%、東区33%、南区32%、湾岸区31%となって、維新は5特別区全区で軒並み30%を超える高得票率を達成していた。また間近に迫った市議選でも維新は依然として投票意向率で29%を維持しているのだから、都構想賛成率も特別区によってこれほどの差が出るとは考えられない。この4カ月の間にいったい何が起こったのか。

 私の分析では、昨年の衆院選までは維新の「改革イメージ」がまだ有効に機能しており、それが全体として維新の得票率を押し上げていた。しかし、公明の寝返りで都構想協定書が府市両議会で可決されて住民投票の実施が決まり、その前哨戦としての府議選・市議選が目前で戦われるに及んで、大阪市民は初めて自分のこととして都構想の中身を考えなければならない状況に直面した。そのシンボル的存在が5特別区の「区割り」なのだ。

 都構想の全容を一般市民が理解することは難しい。しかし、現在の24行政区が5特別区に変わることぐらいのことは誰でもわかる。5特別区に変わると市民生活はどうなるーー、との疑問や不安が市民から出てくるのは当然だろう。だが、橋下市長や維新はその疑問に答えられない。財政調整をして市民サービスの質は落とさない、公選制の区長や区会議員が身近にいるので心配は要らないなどと口先では言うものの、市民を安心させるだけの材料を具体的に示すことができないのだ。そしてその「綻び目」(ほころびめ)が5特別区別の都構想賛成率の差になってあらわれているのである。

 府議選、市議選はすでに終盤戦に差し掛かっている。この段階では、都構想を一般的に批判するだけの戦術だけでは反対派の声は市民に届かない。都構想すなわち大阪市の解体が日常生活にどれほどのマイナス(不便)を与えるかを、「区割り」との関係でもっと具体的に訴えなければ駄目だと思う。有体に言えば、「24区の方がいいか」「5特別区の方がいいか」という単純な損得勘定を示すことだ。さらに言えば、「大阪市を解体してしまってよいのか」と市民に迫ることだ。

 堺市長選では「堺はひとつ」が市民を束ねるスローガンになった。堺市が無くなることの不安を解消することが市長選の勝利に結びついた。大阪市の場合も例外ではない。大阪市が解体されて5特別区に再編されれば、「大阪市が消える」「大阪市民がいなくなる」「大阪市民が誇りを失う」など、もっと市民感情に訴えるべきだ。大阪市民の市民感情を呼び覚まし、大阪市を愛する市民の心に訴えること、そして「区割り」の問題点を具体的に示すこと、ここに都構想を乗り越える勝利の道がある。(つづく)