「安全保障関連法案に反対する創価大学・創価女子短期大学関係者有志の会」の署名運動が始まった、安保法案を推進する公明党に内部崩壊の兆しが見える、安倍首相の「おわび談話」程度のゴマカシでこの危機を乗り切ることはできない、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(15)、橋下維新の策略と手法を考える(その53)

 創価学会公明党幹部の養成機関である創価大学創価女子短期大学で8月11日、教員や卒業生たちが「安全保障関連法案に反対する創価大学創価女子短期大学関係者有志の会」(以下、有志の会という)を設立した。「有志の会」のサイトにアップされた声明文では、「現在、9割の憲法学者が『違憲』と判断している安全保障関連法案が安倍政権により採決されようしています。私たちはガンジー、キングの人権闘争の流れに連なる創立者池田大作先生の人間主義思想を社会に実現すべく学び続けてきました。そこで培った人権意識を持つ者なら、声を上げるべき時は、今です」と呼びかけ、「私たち関係者有志は、創立者池田大作先生の理念を我が人生の根幹に据え、安全保障関連法案への『反対』を表明します」とアピールしている。

 創価大学出身者といえば、その多くが創価学会公明党組織の中枢幹部と活躍しており、国会議員や地方議員のなかにも数多くの卒業生がいる。公明党の衆参国会議員は合わせて55名であるが、ホームページで経歴が公表されていない4名を除くと51名のうち創価大学出身者は21名であり、一大勢力を占める。また、北側公明党副代表や大口衆院国対委員長をはじめ党の要職に就いている卒業生も多く、彼らの存在なくして公明党の政治路線を決めることはできない。そのお膝元で「安保法案反対」の声が上がったのだから、事態は只事ではないというべきだろう。安倍政権と一心同体で安保法案を成立させようと必死になっている党幹部にとっては、まるで「背中から鉄砲を撃たれた」ような状況に陥ったのではないか。

 「有志の会」の当面の行動としては、8月26日に予定されている「安保法案に反対する100大学共同行動」までに賛同署名を集約し、創価大学関係者有志の声を糾合して安保関連法案廃案へ圧力をかけようと目下精力的に署名活動を展開している。8月16日現在、署名数はすでに1126名(うち410名が氏名非公開)に達しており、その勢いは今後も続くと見られているから目を離せない。

 拙ブログでもこれまで折に触れて創価学会公明党支持者の動きを伝えてきたが、いずれも個別散発的な動きに止まっており、それらが組織的な動きに発展することはなかった。ところが今回の動きは初めての組織的な反対運動であり、しかもそれが青年部や婦人部に大きな影響力を持つ創価大学や同女子短期大学で起ったことに注目する必要がある。おそらく公明党幹部は多大の衝撃を受けているであろうし、学会組織や公明党に与える影響も少なくないと思われる。そう言えば、8月14日に発表された安倍首相談話について公明党幹部が恥も外聞もなく首相官邸に泣きついた事情がよくわかる。もし安倍首相がかねてから広言していたように「村山談話」(1995年)の本格的見直しに着手していれば、「有志の会」をはじめ創価学会公明党内部の反発はさらに大きかっただろう。

 読売新聞(2015年8月15日)が首相談話に至るこの間の経緯を詳しく解説しているように、もともと安倍首相は「安倍内閣としては村山談話をそのまま継承しているわけではない」(2013年4月22日、参院予算委)、「先の大戦への反省、戦後の平和国家としての歩みなど世界に発信できるものを書き込んでいく」(2015年1月5日、伊勢市での年頭記者会見)、「村山談話、小泉談話と同じことを言うなら談話を出す必要がない。歴史認識を引き継ぐと言っている以上、もう一度(おわびや侵略を)書く必要がない」(同4月20日、BSフジ番組)などと談話に対する基本的態度を何度も繰り返してきた。それが一転して「安倍カラー」を抑えたのはなぜか。

 談話の4点セット、「侵略」「植民地支配」「反省」「おわび」の全てが少なくとも言葉の上で盛り込まれた(一般論として述べ、首相自身の言葉として語らなかった)のは、そうでもしなければもはや公明党の内部崩壊が避けられず、延いては安保法案の成立にとって重大な懸念が生じたからであろう。首相談話に歴史認識に関するキーワードが盛り込まれたことを知った公明党幹部は、「事前に談話内容を知らされると手放しで喜んだという」(読売、8月15日)。こうして首相談話の強行回避によって公明党の内部崩壊と、さらなる内閣支持率の低下による自民党内部の動揺と分裂の芽がいったんは摘まれた。

 首相談話は一定の効果を挙げたかに見える。共同通信が8月14、15両日に実施した世論調査の結果(京都新聞2015年8月16日)は、首相談話を「評価する」44%、「評価しない」37%で「評価する」が「評価しない」を上回った。とりわけ公明支持層の57%が「評価する」と回答しており、首相官邸公明党幹部の目論見が一応成功したかに見える。内閣支持率も前回7月の38%から43%へ若干回復し、不支持率は52%から46%へと過半数を割った。こうして政府・与党には「談話に一定の支持を得た」との安堵感が広がったという(京都、同)。

 だが国際的には、首相談話は必ずしも功を奏していない。毎日新聞(8月16日)によれば、米メディアの中には「首相が自らの言葉で謝罪しなかった」ことへの批判的論調が目立っているのだという。ワシントンポスト紙は日本専門家の見方を引用し、安倍談話が近隣諸国や米国、安倍氏の支持層である保守派などさまざまな聴衆を満足させようと試みた結果として、「結果的には誰も完全に満足させられずに終わった」との分析を示している。

 また国内的にも共同通信世論調査が行われた8月14、15両日は、安保法案の国会審議が行われていない「空白期間」であり、NHK番組(ニュース9など)に安倍首相自らが40分にわたって「丁寧に」説明するなど、首相談話一色となった時期でもある。今後、国会審議が始まり、首相談話と安倍答弁のギャップや矛盾が広がるなかで内閣支持率の行方は予断を許さない。また公明党自身も「有志の会」の動きに対して「無視」するのか、それとも「鎮圧」するのか、その動向が注目される。(つづく)