公明党は安倍政権と「抱き合い心中」するのだろうか、それともずる賢くどこかで「手を切る」のだろうか、NHK8月世論調査で「抱き合い心中」の可能性が高まった、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(14)、橋下維新の策略と手法を考える(その52)

 最近出会った報道関係者の話しによると、安倍内閣が目下最も恐れているのは、お盆前後に各社から発表される8月の内閣支持率の動向だそうだ。すでに7月世論調査では各社揃って支持率と不支持率が逆転しているので、再逆転までを望んでいるわけではない。しかし、支持率と不支持率の差がこのまま広がっていくようだと今後の政権運営にとっては容易ならぬ事態が予測されるので、その動向に一喜一憂しているのである。

 確かに最近の安倍内閣をめぐるニュースには、支持率に悪影響を及ぼす不安材料にこと欠かない。首相側近の加藤副官房長官や萩生田党総裁特別補佐が企画し、木原党青年局長をはじめ安倍チルドレンが総決起した6月25日の自民党勉強会・「文化芸術懇話会」では、首相のオトモダチ・百田氏が火付け役になって「マスコミを懲らしめろ」「沖縄の新聞はつぶさなあかん」などの発言が飛び交い、参加者一同大いに気炎を上げたという。若手中心の「首相応援団」の初会合だったので盛り上がりに盛り上がり、日頃の鬱憤を心ゆくまで晴らしたというところだろう。

 ところが、それが「報道圧力(弾圧)」とか「言論統制」とかのニュースになって国中を駆けめぐると、今度は一転して火消しに追われる破目になり、谷垣幹事長が加藤青年局長を「トカゲの尻尾切り」して沈静化を図るという醜態を曝すことになった。しかもその騒動が収まらないうちに、今度は「文化芸術懇話会」メンバーの1員だった武藤衆院議員(36歳、滋賀4区選出)が7月30日、ツイッターで「SEALDsという学生団体が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説しているが、彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自己中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延した戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」と投稿したのである。

 私はこの発言を読んで自民党議員の政治的劣化に驚くとともに、このような人物が国会議員になり、自民党若手議員として活躍していることに心底恐怖感を覚えた。「戦争に行きたくない」との声を「ジコチュー」だと非難することは、国家のためには喜んで命を投げ出せという戦前軍国主義の「忠君愛国」「滅私奉公」思想そのものであり(私は教育勅語を暗記させられて育った世代)、そんな考えを持つ若手議員が自民党の中で大手を振って歩いていることに驚愕したのである。

 しかし「文化芸術懇話会」のメンバーなど所詮小物に過ぎない。首相を支える磯崎首相補佐官(安全保障政策担当)が7月26日の地元後援会で、「何を考えなくてはいけないか。法的安定性など関係ない。(集団的自衛権行使が)わが国を守るためのものに必要な措置かどうかを気にしないといけない」などと言い切り、憲法解釈を変更すれば安保法制も自由に運用できるとの暴言を放った。磯崎補佐官はその前日にもテレビ番組で「法的安定性で国が守れますか。そんなもので守れるわけがない」と放言している(朝日・毎日社説、2015年8月4日)。要するに、時の内閣が憲法などに縛られずに自由に安保法制を運用できると言うのが安倍内閣の基本方針なのだ。

 さすがに憲法あって無きが如きの磯崎発言は国会で大問題になり、磯崎氏は参考人に呼ばれて一応形式的な謝罪をしたが、安倍首相は頑として磯崎氏の更迭を拒んでいる。首相自身が磯崎氏と一心同体なので彼の首を切るわけにはいかないのだろう。「刎頚の友」は生きるも死ぬも一緒なのだ。だが不思議なことに、公明党はこれら一連の暴言に対する党としての態度を明確にしていない。磯崎氏らに対しても更迭要求をすることなくダンマリを決め込んでいる。もはや安倍政権と公明党は「刎頚の友」になったのであろうか。

 8月7〜9日実施のNHK世論調査によれば、安倍内閣支持率は7月に引き続いて不支持率が支持率を上回り、しかも「支持」37%、「不支持」46%とさらにその差が開いた。安倍内閣が発足以来の最低レベルである。この傾向が続けば9月調査では30%を切ることも考えられ、安倍内閣はいよいよ危険水域に突入することになる。

 加えて私が興味を持ったのは公明党支持率の推移だ。今年1月4・0%で始まった公明党支持率は8月で3・0%にまで落ち込んだ。もっとも公明党支持率は国政選挙の月には2倍近くに上昇するので、これが党勢をそのまま現すものではないものの、それでも各地での地方議員選挙(たとえば仙台市議選など)ではこれまでの勢いがなかったことは確かである。市民が公明党の訴えを無視して通り過ぎる光景に党幹部が危機感をあらわし、このままでは来年参院選での勝利は覚束ないと焦燥を深めていると聞く。

 結論からいえば、私は公明党自民党から離れられないと思う。両党の議員レベルの関係はもはや「刎頚の友」レベルに達しており、両者の「利益共同体」は強固な政治構造体を形成している。近く発表される各社の世論調査では内閣支持率はNHKよりもはるかにシビアな結果が出るだろうが、それでも公明党は安倍政権に付いていく他ないだろう。そして安倍内閣が退陣に追い込まれるときは「抱き合い心中」する他はないだろう。両党は「一心同体」なのであり、もはや切り離すことができない関係だからである。(つづく)