安倍首相はなぜ衆参ダブル選を回避したのか、舛添東京都知事は辞任するのかしないのか、2016年6月1日には安倍首相の記者会見、舛添都知事の所信表明(都議会)が行われる、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その29)

 このところ安倍内閣の支持率が好調に推移している。マスメディア各社が伊勢志摩サミット後(5月28,29日)に実施した世論調査によれば、共同通信55%(4月調査から7ポイント増、以下同じ)、日経新聞56%(3ポイント増)、産経新聞55%(6ポイント増)、毎日新聞49%(5ポイント増)と軒並み上昇している。サミット前に行われた調査でも朝日新聞43%(2ポイント減)を除いては、読売新聞53%(3ポイント増)、NHK45%(3ポイント増)とほぼ同様の傾向を示している。

 伊勢志摩サミットで(結果はどうあれ)安倍首相が議長として会議を取り仕切ったこと、オバマ大統領が広島訪問したことなどが連日テレビで大きく報道され、首相の露出度が格段に上がったことがその背景にあるのだろう。世論調査でも「サミットは成功した」、「オバマ大統領の広島訪問はよかった」とする評価が高く、一連の「外交成果」が内閣支持率の増加に寄与していると思われる。

 内閣支持率の上昇と並行して自民党支持率も上昇している。産経、読売は40%台、朝日、毎日、NHKは30%台と若干差はあるが、いずれも上昇傾向にあることは間違いない。これらの数字を見る限り参院選での自民勝利は確実で、「1強多弱」の政治構造は当分変わりそうにない。自公両党は、すでに第47回衆院選挙で法案の再可決や憲法改正の発議に必要な全体の3分の2の317議席を上回る326議席を確保しており、夏の参院選で「自公+おおさか維新」で3分の2議席以上を獲得すれば、安倍首相が念願とする憲法改正が具体的な政治日程に上ることになる。

 だがこの間、安倍首相を一番悩ませてきたのは、「消費税増税反対」の世論がいっこうに収まらないことだ。どんな調査をみても、この質問になると必ず「反対」が「賛成」を上回り、しかもその傾向が一貫しているのである。加えて最近では、「消費税増税延期(中止)」の世論がますます高まってきており、この問題をどう処理するかが安倍政権の最大の政治課題に浮上してきている。

 安倍首相の本音としては、財界や財務省の意向を受けて、この際思い切って消費税増税を「強行突破」したいのが山々だろう(朝日新聞もこの点では社説などで大々的に応援の旗を振っているではないか)。ならば、これだけの内閣支持率と与党支持率があれば「怖いものなし」の心境になってもおかしくない。なのに、なぜ安倍首相は伊勢志摩サミットを舞台に、「リーマン・ショック以来の世界経済危機」との大茶番劇を演じてまで消費税増税の延期に踏み切ったのか。

 私はその背景に、この間一見好調に推移している内閣支持率が実は「砂上の楼閣」だということに首相自身が気付き始めたからではないのかと推測している。伊勢志摩サミットもオバマ大統領の広島訪問も、所詮は「一過性の現象」にすぎない。気が付けば、「そんなこともあったよね」と世間話に上がる程度の存在でしかない。しかし、消費税増税問題となるとそうはいかない。日々の生活に直結する「恒常的な現象」であり、忘れることも避けることもできない大問題だからである。

 おそらく安倍首相が「消費税増税」を決断表明した瞬間、これまでの「追い風」(微風)は「アゲインスト」(突風)に変わるに違いない。頼みの綱の「アベノミクス」はもはや国民の信頼を失っており、第3次安倍内閣が発足してから今日現在に至るまでのこの1年半、世論調査で「評価する」が「評価しない」を上回ったことがないのである。それでいて消費税をまだ上げるというのでは、国民の誰もが「やらずぶったくり」の感情を抱くのは当然ではないか。だから、安倍首相は心ならずも消費税増税を見送り、選挙争点から外すという政治選択をせざるを得なかったのだ。

 第2次安倍政権発足後のこの3年半、安倍首相は国政選挙で常に「経済」「景気」を前面にして戦い、有権者も「アベノミクス」に過大な期待を寄せてきた。「アベノミクスに期待するか、評価するか」に関する世論調査でも、第2次内閣までの間は、国民の気分はまだ「期待側、肯定側」に傾いていたのである。目の前にぶら下げられた人参に手が届くような錯覚が、国民の間に相当広がっていたからだ。ところが、第3次内閣に入ってからも経済情勢は一向に好転しないし、景気も良くならない。こうして、辛抱強い国民の間でも「アベノミクス」への期待も評価もほとんど(完全に)消えた。これが現時点での国民の世論状況だ。

 夏の参院選を目前にして、国民の関心(世論)はいまや「アベノミクス」から「社会保障」に大きく変わったように思える。景気がよくならず賃金所得が上がらないのであれば、年金を拡充し、子育てや介護支援にもっと力点を置くべきだとのまっとうな意見が急浮上してきたのである。それが「保育園落ちた、日本死ね!!」のママの悲痛な叫びになって安倍政権を震撼させた背景だろう。安倍政権はもはや「経済」や「景気」を前面に出して選挙戦を戦えなくなったのであり、「アベノミクス」の看板だけで有権者を騙せ(だませ)なくなったのである。

 こうして「消費税増税先送り」の大英断を振りかざして衆参ダブル選に突入するというシナリオは消えた。一昔前であれば、国民はその「英断」を称えて「アベノミクス」の新たな展開に期待を寄せたであろう。だがいまは、それが「アベノミクス破綻の結果」という形で安倍政権にブーメランのように撥ね返ってきている。安倍首相が今日6月1日、どんな記者会見をするが見物である。と同時に、都議会では定例議会が始まり、舛添知事が所信表明を行う。国政と都政は別物という意見もあるが、私はそうは思わない。次回は、その相関図について考えたい。(つづく)