気になる次期衆院選での野党共闘の行方、世論調査では「共闘すべきでない」が「共闘すべきだ」を大きく上回っている、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その15)

第192臨時国会が9月26日に召集された。安倍首相は同日午後、衆参各院の本会議で所信表明演説を行い、参院選ではまったく触れなかった憲法改正を取り上げ、国会の憲法審査会で与野党の立場を超えて議論を深めるよう求めた。予想通りの展開だ。だが、テレビニュースでは首相の所信表明演説与野党の代表質問もトップニュースにはならない。東京都議会での小池知事の一挙一動が注目されて、国民の関心は国会よりも都議会に集中しているのである。

豊洲市場の土壌汚染問題に絡む建築構造の虚偽説明が大問題であることは否定しないが、それはそれ、これはこれだ。今回の臨時国会参院選後の初めての国会であり、同時に民進党代表選が行われて執行部が総入れ替えになった後の国会なのである。もっと注目されて然るべきだし、また注目しなければならない。

「国会軽視」ともいうべきこんな状況をマスメディア(だけ)の所為にはしたくない、と思う。都議会の方に国民の目を釘付けにしておいて、国会論戦から国民の関心をそらせる作戦ではないか――などといったケチな勘繰りはしたくない。国民の関心が国会に向けられないのは、すでに次期衆院選に向けての準備が本格化しており、国会議員はもとより政党関係者の関心が国会論戦に集中していないからだ。

すでに来年1月の通常国会冒頭で衆院解散があるかも知れないという噂が飛び交っており、それが公明党の山口代表の口から確認されることで一挙に現実味を帯び始めた。「常在戦場」の状況下では、衆院議員の心が地元選挙区に飛んでいてもおかしくない。これでは国会での議論も深まらずに「上の空」国会となり、国民の関心を引き付けられないのも当然だろう。

そうなると、参院選では一定の成果を出した「野党共闘」が衆院選でいったいどうなるかが気になる。この点に関して私が注目したのは、民進党代表選が行われた以降に実施された2つの世論調査の結果だ。1つは、共同通信社が9月17、18両日実施した全国世論調査、もう1つは日本経済新聞社テレビ東京と共同で9月23〜25日に実施した全国世論調査である。いずれの調査も蓮舫民進党新代表に対する期待感を探るのがメインテーマになっているが、その中で私が注目したのは野党共闘に関する回答だ。

共同通信社の方は、「あなたは、民進党が今後の国政選挙で、共産党などとの共闘関係を続けた方がよいと思いますか」との質問に対して、回答は「続けた方がいいと思う」32.9%、「続けた方がいいと思わない」51.3%となって、否定が肯定を大きく上回った(京都新聞9月19日)。支持政党別のクロス集計が掲載されていないので詳細は分からないが、おそらく与党支持層では否定回答が多く、共産支持層や無党派層では肯定回答が多かったものと推察される。だが、肝心の民進党支持層の回答がどんな結果になっているか、皆目見当がつかない。

日本経済新聞社の方は、次期衆院選での共産党との共闘については「共闘すべきだ」23%、「共闘すべきでない」54%とダブルスコア以上の大差がついた。同紙は「民進党支持層では『共闘すべきだ』が46%で『共闘すべきでない』が42%、内閣不支持層ではそれぞれ39%と43%で評価が分かれた。民進党に協力を呼びかける共産党の支持層は半数超が共闘を求めた。党内や支持者に両論を抱え、蓮舫執行部は難しい判断に迫られそうだ」と解説している(日経新聞9月26日)。

これらの世論調査結果から分かることは、(1)国民世論全体としては野党共闘に関する評価が低く、否定的見解が多数を占めている、(2)安倍内閣を支持しない層においても野党共闘への肯定的意見がまだ多数派になっていない、(3)民進党支持層の中でも評価が二分している――、というものだ。リベラル陣営ではあれほど「市民共同+野党共闘」の声が高いにもかかわらず、国民世論とのギャップが予想以上に大きく、衆院選への大きな波にはなっていないのである。

私が思うにその原因は、(1)安倍内閣の高支持率が野党共闘を何となく拒否する大きな「心理的な壁」になっている、(2)野党第1党の民進党内において前原氏のような「野党共闘リセット派」が依然として影響力を維持しており、その反映が支持層にもあらわれている、(3)無党派層にも野党共闘路線がそれほど浸透しておらず、それが内閣府支持層(過半数)の否定的態度に結び付いている――などを挙げることができる。要するに、参院選で一定の成果をあげた野党共闘路線は、まだまだ国民世論として定着してはいないことが明らかになったのである。

過日の野党党首会談では、次期衆院選での「できる限りの協力」が確認された。だが、それが国民世論の底辺まで降りていくのはまだまだ時間がかかりそうだ。参院選でもそうであったように、これからの国政選挙では「部分共闘」を積み重ね、結果として「一定の成果」を出しながら国民世論に訴えていくことが「急がば回れ」の道なのではないか。

その意味では、明日にでも「野党共闘」が全国レベルで実現するような機運を煽り、それが駄目になった時は一挙に落ち込むような政治的キャンペーンは抑制した方がよさそうだ。「ローマは一日にして成らず」との格言があるが、「ローマへの道も一日して成らず」なのである。(続く)

●9月29日から10月3日まで東北で開かれる学会に参加し、被災地各地の復興状況を視察する予定です。申し訳ありませんが、この間はコメント諸氏のご意見を掲載できません。お詫びします。広原 拝