3代世襲体制を利用する中国の北朝鮮支配の構図、(近くて遠い国、北朝鮮への訪問、番外編、その3)

 これまで中国は、「社会主義世襲体制は両立しない」といって、北朝鮮体制を厳しく批判してきたはずだ。したがって、今回の朝鮮労働党代表会に対しても、私はこの態度が基本的に踏集されるものだと思っていた。ところがどうだろう。胡錦濤国家主席は代表会に祝電を送り、また閉会直後に北京に参上した北朝鮮代表団に対しては、自ら親しく接見したというではないか。

 しかも、接見の仕方がふるっている。一介の党政治局員でしかない程度の人物にわざわざ人民大会堂を場所に選んで会談し、「代表者会が勝利のうちに挙行された」と述べたうえで、「金正日総書記をトップとする朝鮮労働党の新たな中央指導集団の導きの下、強盛国家を建設する事業で新たな成果を収めることができると信じている」と褒め称え、「地域や国際的な事柄でも意思の疎通と協調を強化し、平和と安定の維持にともに努力したい」と約束したという。(朝日、10月3日)

 このことは、中国が北朝鮮に対する従来の態度を覆し、「社会主義と両立しない世襲体制」しかも異例きわまる「3代世襲体制」を公然と認めたことを意味する。北朝鮮がもはや社会主義国家ではないから、世襲体制でも構わないというのがその理由なのか。それとも中国が北朝鮮を実効支配するうえで、世襲体制の方がかえって好都合だと判断するようになったからなのか。あるいはその両方なのか。その背景を厳しく考えてみなければならないと思うのである。

 私は以前から国連をはじめとして世界各国が批判しているにもかかわらず、中国がミヤンマー軍事政権を一貫して支持してきたことに強い違和感と疑問を抱いてきた。中国がいやしくも「社会主義国家」としての看板を掲げているのであれば、国民の人権を弾圧し、民主主義を蹂躙している軍事独裁政権を支援することなど「あってはならないこと」、「もってのほか」だと思うからだ。しかしアフリカの腐敗した独裁政権に対しても同様の態度で臨んでいるところを見ると、これが中国の「実体」であり、かつ「本質」だと思わざるを得ない。

 私も参加している「社会主義の未来を考える研究会」(仮称)において、先日興味深い議論があった。テーマの一つは、「現在の中国は果たして社会主義国家といえるか」というもので、報告者は、「中華人民共和国は、ソ連と同様、「党・国家官僚国家資本主義」の独裁国家として存在している。中国の支配階級は、現在では「社会主義」の擬制をほとんど放棄している」と問題提起した。「中国はソ連と同様」というのだから、「ソ連はどのような国だったのか」ということが問題になる。少し長い引用になるが、現在の中国を理解するうえで参考になる内容なので、必要な部分を紹介したい。

 「1930年代に出来上がった「ソ連型資本主義(ソヴェト的生産様式)」は、近代的大工業を一国資本主義的に築き上げることによって、他の帝国主義諸国との緊張関係、国際的孤立のなかで半植民地状態に陥ることなく独立を維持した。さらに新種の資本主義的帝国主義国としてのナチスドイツと連携してポーランドを分割併合し、第2次大戦後は、帝国主義連合諸国と協議、競争しながら、軍事的力で東欧、アジアに「社会主義体制」という事実上の勢力圏を成立させ、おもに東欧衛星諸国を搾取対象とする国際関係を築いた。しかし「社会主義」という擬制をまとい、資本としての運動の全面的な展開を阻害する「党・官僚国家資本主義」の限界から、国内経済の破綻、同時に他の資本主義諸国との経済競争に太刀打ちできない局面で、ソ連内部から資本主義経済体制の抜本的改革としてのソ連国家、党の崩壊を迎えた」。

 従来のソ連に関する公式見解からすれば、随分思い切った問題提起だ。「ソ連は、社会主義擬制した党・国家官僚が独裁する国家資本主義だった」という歴史的規定も新鮮で面白いし、そして「タテマエの社会主義」(擬制した社会主義)を掲げていたことが資本主義発展の制約となり、その制約を取り払うために「内部崩壊」せざるを得なかったという解釈も目のうろこを落としてくれる。だとすれば、現在の中国が「社会主義擬制」すら放棄しようとしているのは、「ソ連の二の轍を踏まない」ためだというわけだろうか。

 日本の革新政党のなかには、中国に対する根強い親近感がある。毛沢東による中国革命を目前にして育った世代の幹部が多いせいか、現在の中国がかっての中国からどのように変貌しているかという現実を理解できない(理解しようとしない)空気が支配している。そこでは中国は依然として「社会主義国」、あるいはそこまではいえなくても「社会主義をめざす国」との位置づけが一般的だ。だから、今回の一連の北朝鮮労働党の代表者会の結果についても、またそれに対する中国の態度についても的確な論評ができない状況に陥っている。論評しようにも、中国の態度はどこからみても「社会主義大義」から外れていることがあまりにも明白なので、「社会主義をめざす国」との規定と根本的に矛盾するからだ。

 私は、「タテマエの社会主義」を掲げた中国が、もはや党・国家官僚が指導する強大な国家資本主義国家として私たちの前に立ち現れていることを率直に認識すべきだと思う。そういうリアルな認識に立つことによってこそ、中国が平然と北朝鮮の3代世襲を是認し、ソ連が東欧諸国を搾取したのと同様に、中国が北朝鮮を自らの勢力圏に組み入れて支配下に置こうとする意図を読み解くこともできる。また尖閣諸島をめぐる理不尽このうえもない行動を理解することもできるのである。(つづく)