東日本大震災復興基本法は“国家・地域有事改造法”だ、(私たちは東日本大震災にいかに向き合うか、その16)

 東日本大震災の発生から3カ月を経て、国会では菅首相の「首約束」と引き換えにようやく東日本大震災復興基本法が6月10日衆院本会議で可決され、参院で17日に成立する運びとなった。自民・公明案を丸呑みした修正案は、復興対策本部を引き継ぐ組織として「復興庁」の設置を明記し、企画立案、総合調整機能のほか実施権限を付与することが骨子となっている。また財源確保のための「復興債」を発行し、金融や財政分野の特例措置を認める「復興特区制度」を設けることも盛り込まれた。(各紙、6月11日)

 6月10日の衆院本会議では、黄川田徹特別委員長が法案の趣旨を次のように説明した。(民主党ホームページ)
 (1)復興の基本理念として、新たな地域社会の構築とともに、21世紀半ばの日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと、被災地域の住民の意向を尊重し、女性・子ども・障がい者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと、原発事故による被災地域の復興については復旧状況等を勘案しつつ行うべきこと――を定める。
 (2)国、地方公共団体は基本理念にのっとり復興に必要な措置を講ずる責務を有する。
 (3)資金の確保に関して、徹底的な歳出削減、財政投融資に係る資金や民間資金を活用するとともに、復興債を発行すること。復興特別区域制度についても速やかに法制上の措置を講じる。
 (4)内閣総理大臣を長とする東日本大震災復興対策本部を内閣に置き、地方機関として関係府省の副大臣を長とする現地対策本部を置く。対策本部に東日本大震災復興構想会議を置く。内閣に復興施策の企画立案、総合調整、実施等を行う復興庁を期限を限って置くこととし、その法制上の措置を講じる。復興対策本部は復興庁の設置の際に廃止する。

 しかし、もともと被災者救済のための法律としては、「災害救助法」(1947年制定)がある。これは災害直後の被災者の応急的な生活救済を定めた法律で、第1条には、「この法律は、災害に際して国が地方公共団体日本赤十字社その他の団体及び国民の協力の下に応急的に必要な救助を行い、災害にかかつた者の保護と社会の秩序の保全を図ることを目的とする」と記されている。
 
また第22条(救助)には、「都道府県知事は、救助の万全を期するため、常に必要な計画の樹立、強力な救助組織の確立並びに労務、施設、設備、物資及び資金の整備に努めなければならない」と知事の責務が規定され、第23条(救助の種類)には、「1.収容施設(応急仮設住宅を含む)の供与、2.炊出しその他による食品の給与及び飲料水の供給、3.被服、寝具その他生活必需品の給与又は貸与、4.医療及び助産、5.災害にかかつた者の救出、6.災害にかかつた住宅の応急修理、7.生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与、8.学用品の給与、9.埋葬、10.前各号に規定するもののほか政令で定めるもの」が列挙されている。

災害救助法の基本的な性格は、「災害直後の被災者の応急的な生活救済」を定めたものであり、長期にわたる被災者の生活再建や被災地の復旧復興を目的とするものではないが、しかし「救助の種類」のなかには、「生業に必要な資金、器具又は資料の給与又は貸与」があるように、農林漁業や商工自営業など生活を支える仕事の再建に必要な救助も含まれており、この条項を積極的に活用すれば被災地の経済復興の有力な手段になることは間違いない。

また「応急的な生活救済」とはいいながら、「収容施設(応急仮設住宅を含む)の供与」は2年以内となっており、「最長2年」という期間はそれほど短いものではない。それに阪神大震災のときは、被災者の仮設住宅での生活が「最長2年」を超えて数年余にも及び、それ以降も引き続いて恒久住宅を用意しなければ被災者を救えなかったという歴史的経験(教訓)もある。

なぜ、冒頭から「災害救助法」の趣旨を長々と説明したかというと、政府が被災者の生活再建や被災地の復旧を第一義に考えるのであれば、被災者の長期にわたる生活再建や被災地の復旧復興に適用できるよう、災害救助法を直ちに改正すればよいのであって、政党間の合意が難しい震災復興基本法などわざわざつくる必要などない―ことを言いたいためだ。

もっとも今回の東日本大震災には、現行法の災害救助法の枠にはまらない特別な性格がある。いうまでもなく、それは福島第1原発事故の象徴される「原子力災害」の発生だ。また地域一帯にわたって壊滅的な被害を与えた「大津波災害」もその範疇にはいるだろう。災害救助法ができた当時の災害と言えば、戦時中の治山治水事業の放置や乱伐された山林の荒廃にもとづく風水害が主なものであって、これに地震災害が加わった「通常の自然災害」が法律制定の前提にあったからだ。

結論的にいえば、大津波災害については災害救助法の抜本的拡充で対応し、原子力災害については、佐藤雄平福島県知事がいうように「福島第1原発の事故による被害に対して、国の責任で速やかな特別法の制定などで柔軟かつ大胆に対応してほしい」(河北新報、3月30日)という緊急要望に応えることが、政府の緊急かつ最大の責任だというべきだ。つまり、「災害救助法の抜本的拡充」と「原子力災害対策特別措置法の制定」が東日本大震災に対する国の基本政策であるべきということである。

理由は明白だ。原子力災害は過去のいかなる災害とも異なり、被害のあらわれかたも対策のあり方も全く違う。政府・自民党地震列島の日本国土に世界でも類のないほど原発を乱立させてきたにもかかわらず、原子力災害については驚くほど無知・無関心・無能だった。チェルノブイリ原発事故に対しても、政府・自民党が自ら調査団を派遣して原子力災害の解明にあたったなどということは寡聞にして知らないし、民間の専門家が調査した被災結果や放射能被曝被害者の治療結果についても関心を払おうとしなかった。

菅首相も「原発事故の収束に全力を挙げる」とことあるごとにいいながら、その基本姿勢はかっての自民党政権と寸分も変わらない。福島県知事の緊急要望である「原発事故被害対策特別法」の制定には一切耳を傾けようとせず、あまつさえ復興構想会議の検討対象から原発事故被災地域をはずそうとさえした。これは原発を前提とした日本のエネルギー政策を維持するため、財界や電力企業の権益に触れるような政策は一切避けたかったからだ。
 
その代わりに菅政権が持ち出したのが、今回の震災復興基本法である。大災害からの復興のためには「復興基本法が必要」だという主張は一見妥当なように映る。だが問題はその中身だろう。東日本大震災の復興費用は、原発事故関係費用を除いても20兆円前後(あるいはそれ以上)に達するといわれる。この膨大な復興予算(復興利権)の采配をだれが握るかによって、次の政権の行方が決まるといっても過言ではない。復興予算の配分に「実施権限」を持つ組織のあり方をめぐって、各党の思惑が紛糾したのはこのためである。

被災者の生活再建や被災地の復旧を復興基本法の第一義に掲げるのであれば、「震災ビジネス」や「復興ビジネス」の入り込む余地はそれほど多くはない。だが、日本の災害復興法や災害復興計画の歴史は、大災害という「有事」を千載一遇の機会と見た「大復興計画」(大風呂敷計画)をめぐって、政党間やその背後の業界の利権が激しく争われてきた歴史だった。

それに加えて、今回の東日本大震災の復興に関しては、有事に乗じて道州制の導入など「国のかたち」を変えようとする「国家・地域改造計画」さえ浮上している。震災復興の基本理念として最初に掲げられた「新たな地域社会の構築とともに、21世紀半ばの日本のあるべき姿を目指して行われるべきこと」というのがそれだ。次回では、この動きとあわせて復興構想会議の動向を分析しよう。(つづく)