都知事選では「原発ゼロ」の細川候補を支援しながら、衆院代表質問では「脱原発」の質問を見送った松野氏(日本維新の会)の不思議、「責任野党=補完政党=翼賛政党」なのか、東京都知事選を考える(その6)

 東京都知事選と並行して通常国会が開催され、2014年1月28日から衆参両院で安倍首相の施政方針演説に対する各党の代表質問が始まった。都知事選では各党が分裂状態さながらに入り乱れて戦い(安倍政権に対する小泉元首相の反乱、民主党における脱原発派と原発維持派の分裂、日本維新の会の東西の対立、みんなの党の分裂など)、誰が味方で誰か敵かわからないような混乱状態が続いている。そんななかでの代表質問だから、誰がどんなことを言うかに注目が集まったのだ。

 驚いたのは(それとも「果たせるかな」というべきか)、安倍首相が1月24日の施政方針演説で表明した「責任野党とは柔軟かつ真摯(しんし)に政策協議を行っていく」との誘いに応えて、野党第2党の日本維新の会国会議員団幹事長の松野氏が真っ先に手を挙げ、衆院代表質問で改憲集団的自衛権の行使など外交・安全保障政策で全面的に協力を約束したことだ。

 松野氏は、冒頭で「維新は責任野党として、外交安保、憲法改正は協力する」との態度表明を行い、その後は「責任野党」の立場から一貫した質問を展開した。質問者の名前を伏せてその発言を読むと、誰もが与党代表質問だと錯覚するぐらいの「翼賛質問」だ。松野氏は、安倍首相が強い意欲を示す集団的自衛権の行使容認については「安全保障の常識だ」と同調し、「法律によって行使の要件を明確にし、国民的理解を得るべきだ」と具体的な法整備を煽った。さらに「国と地方の仕組みを抜本的に改革するため、憲法改正が必要だ」と強調し、改憲手続きを定めた国民投票法改正案を今国会で成立させるべきだと提案した。まるで“改憲の水先案内人”のような言い草ではないか。

 また、外交安保、憲法改正に協力するのが「責任野党」の役割だと言いながら、それ以外の重要な内政問題についても安倍政権の新自由主義的(反動)政策を後押しする「ごますり質問」を連発している。いわく「農協の見直しを含む抜本的な農政改革が必要だ」、「教育委員会制度を思い切って廃止し、地方教育行政の責任体制を確立すべきだ」、「統治機構改革の第一歩である道州制基本法を早急に制定すべきだ」などなど。これでは“安倍首相のプードル”だと言われても仕方がない。

 その一方、松野氏は安倍首相が答弁に困るような質問は一切しないと決意しているかのようだ。NHKの籾井会長の従軍慰安婦に関する発言問題、中韓両国はもとより欧米諸国からも激しい反発を招いた安倍首相の靖国参拝問題、そして目下の都知事選の最大の焦点になっている脱原発問題など、首相が答弁を嫌がるような質問は全てパスしている。「何でも反対、何でも抵抗ではなく、建設的な提案をしてくれる野党は全て責任野党だ」との安倍首相の定義通り、松野氏は忠実に「責任野党」の姿を演じて見せたというわけだ。

 だが、都知事選では「原発ゼロ」を掲げる細川候補を支援しながら、国会質問では「脱原発」に一切触れない松野氏の言動は不思議としか言いようがない(矛盾に満ちている)。なぜなら、原発問題は日米安保体制の基盤にかかわる最重要の政治課題であり、「原発維持」か「原発ゼロ」かは日米外交安保同盟の基本路線にかかわる重大政策であるからだ。維新が「責任野党」として安倍政権の外交安保政策、憲法改正に協力するのであれば、口が裂けても「原発ゼロ」など言えるはずがないのである。

 このことは、民主党野田政権が「2030年代に原発稼働ゼロ」を政府のエネルギー・環境戦略として閣議決定しようとした際、アメリカ政府や財界からの激しい反対と恫喝に屈して、あっけなく閣議決定を見送ったことにも象徴されている。2012年9月25日の朝日新聞は、このときの模様を「原発同盟、維持迫る米」、「30年代ゼロ、閣議決定への「ノー」」との見出しで伝え、また1カ月後の10月24日の同紙オピニオン欄では、ジョン・ハレム氏(米戦略国際問題研究所長、元国防副長官、国防政策委員会委員長)の大型インタビュー「原発ゼロ、米が危ぶむ理由」を掲載し、同氏から「日本には原子力発電を放棄する選択肢はない」とのアメリカの本音を引き出している。

 このインタビューを終えた記者の感想はさらに深刻だ。「次期国防長官候補とも取りざたされるワシントンの超本流インサイダー。温和な人格者だが、「原発ゼロ」批判は一切の妥協を許さない厳しさだった。世界の核秩序(引用者注:アメリカの核支配)が崩壊するという強烈な危機感があるからだ。一方、米側では閣議決定先送りを受け、「どうせ日本は実行できない」というゆがんだ安堵も広がる」。

 この大型インタビュー記事は、いまの日米両国の力関係(対米従属)とアメリカ支配層の意図を余すところなく伝えるものであり、安倍政権とその同調者にとって「原発維持」は“アメリカの至上命令”であることを意味している。したがって、日本維新の会の松野国会議員団幹事長が衆院代表質問で「維新は責任野党として、外交安保、憲法改正は協力する」との態度表明を行い、かつ「原発ゼロ」に関して一切発言しなかったことは事実上の政策転換だといってよく、今後の与野党再編にも大きな影響を与えずにはおかないだろう。(つづく)