東京都知事選に見る日本政界再編の構図(2)、政党が分裂し政策が交錯する「政党・政策ねじれ」現象が与野党再編を加速化させる、東京都知事選を考える(その5)

 東京都知事選に際して、日本維新の会が事実上の分裂状態にあることはすでに述べた。しかしそれが維新の分裂だけで終わらないところに、今回の都知事選が国政に与える影響力の大きさがあるのではないか。それは、維新のみならず各政党も候補者支援をめぐっては大なり小なり分裂状態に陥っており、政策が政党の枠を超えて交錯していることだ。政策の対立に伴う政党の分裂状態は、それが引き金になって今後、与野党を含む大規模な政界再編を惹き起す有力な原因となる。

 この点に関しては、都知事選の告示にあたって主な候補者に対する与野党の支援構図を鳥瞰した毎日新聞の分析・解説記事が参考になる(2014年1月24日、「与野党支援にねじれ」)。同記事が整理した支援構図をベースにしながら、私なりに各候補者に対する与野党支援構図を分析してみようと思う。

[自民党]
 自民党が野党に転落した時代に「自民党にはもはや未来はない」と見切りをつけて離党し、除名処分(2010年4月)を受けた舛添氏を、自民党東京都連が「他に勝てる候補が見当たらない」との理由にならない理由で推薦したのは選挙直前のことだ。しかし「勝算あり」と見た石破幹事長は、こともあろうに(除名処分を正式に取り消さないまま)徹底した組織戦で全面支援すると表明した。要するに自民党は、勝てそうな候補者なら誰でも支援すると公然と表明したのであり、そこには政党としての矜持や規律のかけらも見られない。あるのは「勝てば官軍」との露骨な党離党略だけだ。

 また舛添氏に関して言えば、都知事選公約として掲げた「脱原発依存」は、「原発を重要なベース電源」だと位置づける自民党のエネルギー基本計画と根本的に内容を異にする。原発を重要な「ベース電源」と位置づけるエネルギー政策は、原発を恒久的かつ基盤的なエネルギー源とする政策であり、そこからは「脱原発依存」の方向は絶対に出てこない。候補者自らが掲げる選挙公約と支援政党の基本政策が異なれば、有権者はいったいどちらの政策を信用していいのかわからなくなる。舛添氏が自民党の支援を受けるのであれば、田母神氏と同じく「原発維持・推進」の旗を掲げなくてはならない。

 本来なら、このような「支援ねじれ」「政策ねじれ」は党内からの批判によって是正されるべきであるが、それが起らないところにいまの自民党の救い難い劣化状況がある。辛うじて小泉元党総裁・元首相が「脱原発でも経済成長は可能」として対立候補の細川元首相の支援に踏み切り、自民党内の政策対立が表面化しただけだ。世間では小泉氏の意図についてのあらぬ憶測が飛び交い、週刊誌の格好のネタになっているが、そんなことはどうでもいいことだ。小泉氏の細川支援の本質は、それが「たった1人」の決起であるとはいえ“自民党分裂”の前兆に他ならないということだ。「自民一強時代」であればこそ自民党を割るには巨大なエネルギーが要る。小泉氏がその歴史的な幕開けの役割を担い、それが都知事選においてあらわれただけのことなのである。

[民主党]
 大畠幹事長が「組織的勝手連」という名目で細川候補の支援を都知事選告示の直前になって表明した。それまでは舛添氏に「相乗り」するしかない(自民党対立候補民主党独自で立てられない)と思っていたところに、思いもかけず細川氏が立候補表明をしたので、「これ幸い」とばかり便乗することになったのだろう。だが、細川氏の掲げる選挙公約の「原発(即時)ゼロ」と民主党の「2030年代に原発稼働ゼロ」の政策の間に矛盾はないのか。また、野田政権が2012年に関電大飯原発の再稼働を強行したことをどのように説明して総括するのか。

 民主党はもともと自民党顔負けの「原発推進」勢力だった(いまも基本的に体質は変わらない)。民主党の支持団体・電力総連は、日本の労働運動の主流派である日本労働組合総連合会(連合)の中核組織であり、組合員数22万人の陣容を誇る。菅内閣の特別顧問を務めた笹森連合会長(2011年死去)は東電労組委員長と電力総連会長を歴任し、労働界きっての「政界フィクサー」と称された。電力総連はこれまで民主党を「票とカネ」で全面的にバックアップし、東電・関電出身の2人の組織内議員を筆頭に同党多数の議員に選挙支援を続けてきたのである。

 電力総連の政治的影響力はそれだけにとどまらない。電力総連の集まりである「明日の環境とエネルギーを考える会」には、目下、野党再編の中心人物である細野衆院議員をはじめ多数の民主党国会議員が参加している。電力総連の政治工作は、電力各社でつくる電気事業連合会と二人三脚で展開され、民主党原発政策を事実上支配してきたといってよい。民主党の新成長戦略では「原発輸出」が柱の一つに位置付けられ、国内でも「原発増設」を目指す方針が打ち出されたのはそのためだ。それが福島第一原発事故に対する国民的批判のなかで、表向きは「2030年代に原発稼働ゼロ」(言い換えれば、2010年代と20年代は原発を依然として稼働し続けるということ)という表現になったにすぎない。

 だからこそ、民主党細川氏を「組織的勝手連」として支援すると表明しても、その運動が一向に組織的にならないことは目に見えている。電力総連や東電労組の意向を受けた連合東京が、「原発(即時)ゼロ」を掲げる細川氏の支援などできるわけがないのであり、それどころか連合は目下「細川潰し」のために舛添陣営の急先鋒として行動している。民主党の「組織的支援」は、細川候補ではなくて舛添候補に向けられているのである。

 この事態は、疑いもなく民主党が政策的にも組織的にも分裂していることを示している。この分裂状態は以前から周知の事実であったが、それが都知事選を契機にして公然化したにすぎない。そして都知事選以降はこの分裂状態がますます露わになり、目下進行中の野党再編を加速化させる方向に働くだろう。民主党内の脱原発派(少数派)と原発推進派(多数派)との対立はもはや修復不可能であり、政策の矛盾を糊塗できる限界をはるかに超えているのである。

 これまでの首長選挙といえば、「オール与党」候補と革新政党候補の間で争われる場合が多かった。だが、オール与党政治のもとでの矛盾が原発政策のように限界に達すると、そこに政策の分裂と政党の分裂が惹き起される。そのプロセスはまず政党内の政策対立が激化し、次にそれが政党の分裂を引き起こし、さらには政党間の再編に発展していくという経路をたどる。すでにその前兆は「野党再編」という形で先行していたが、都知事選という政治舞台でその発展形とも言える自民・民主・維新など主要政党を横断する「与野党再編」の動きが一挙に浮上した。次回は「改憲」と「原発」を軸にした与野党再編の構図を読み解きたい。(つづく)