消費税再増税が「地方の首」と「安倍首相の首」を絞める、「地方創生」を掲げて「地方消滅」を推進する安倍政権の究極の矛盾、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その5)

 消費税が今年4月5%から8%に引き上げられてから、この10月で半年を迎えた。安倍政権は来年10月に10%への再増税を予定しているが、その後の景気動向が思わしくないため、目下のところは「中立」との態度を装っている。だが、その本音が再増税にあることは内閣改造の「サプライズ人事」を見れば一目瞭然というものだろう。民主党野田政権時代に消費増税をリードした谷垣(元)自民党総裁を幹事長に据え、自らは「慎重姿勢」を演出しながら、谷垣氏を先頭に走らせて再増税を決定するという作戦だ。

 財務省の長年の子飼いである谷垣氏も、幹事長という重要ポストをあてがわれて張り切っているようだ。慎重居士といわれる谷垣氏が安倍首相の期待に応えて「積極(突出)発言」を繰り返し、9月19日の記者会見では「消費税再増税は法律上からも自明のこと」、「再増税は予定通りに実施すべき」と明言する有様だ(日経新聞毎日新聞、2014年9月20日)。第2次安倍内閣法務相時代には集団的自衛権の行使容認に関しては一切発言せず、「ダンマリ」を決め込んでいた時とは打って変わったハシャギぶりではないか。

 一方、連立与党の公明党山口代表も負けてはいない。山口代表は、野田政権時代に消費増税方針を決めた民主・自民・公明の3党会談の立役者であり、安倍政権誕生後は与党の一員として消費増税を推進してきたキーパーソンでもある。中でも有名なのは、消費税増税に向かって安倍首相の背中を押した「今でしょ発言」だ。安倍政権が世論の反発を恐れて消費増税を躊躇していたとき、山口代表は「アベノミクスで日本経済は少しずつ良くなっている。このチャンスを逃すと消費税増税の決断をいつするのか。今でしょ」と秋田県大館市の講演で力説した(共同通信、2013年8月31日)。

 その山口代表が今度の再増税方針でも再び前面に出てきている。山口代表は党の重要方針を記者会見で発表することなく、地方の講演会で喋る癖があることで有名だが(公式会見では記者たちに追求されると回答に窮するからだろう)、その山口代表が今年8月、札幌市で行われた講演会でもまたもや「2015年10月に予定されている消費税10%の引き上げは実施すべき」(フジテレビニュース、2014年8月26日)との考えを重ねて強調した。これも(慎重姿勢の)安倍首相が「やむなく」消費税再増税に踏み切るための露払い発言であり、脇役としての前口上なのだろう。

 ただ、山口代表が安倍首相の「地方創生国会」における所信表明演説に対して、「極めて前向きで、肯定的で、楽観的で、意欲的な所信表明演説だった。是非この勢いを政府・与党として国民に伝わるように取り組んでいきたいと思いました」(日本テレビニュース、2014年9月29日)と臆面もなく語ったことは、「ここまでゴマをするのか!」と多くの国民をシラケさせた。これはこの脇役の素性と役割を余すところなく暴露した「お粗末発言」と言うべきであり、政党代表者としての見識を疑わせるものだ。

 こうして与党内部では消費税再増税に向かって着々と準備が進められているが、再増税を取り巻く景気動向は最近になってますます厳しさを増している。9月下旬から10月上旬にかけての各種経済指標は、甘利経済財政再生相の「若干(消費増税による)反動減の収束に手間取っている。景気回復基調に入っていくことを期待したい」(日経新聞、2014年9月30日)という強気発言にもかかわらずいっこうに好転しない。以下は最近のデータである。

(1)鉱工業生産指数(2014年8月鉱工業生産指数速報値、経済産業省9月30日発表)
 2010年を100とする鉱工業生産指数が95.5と前月に比べて1.8%低下し大幅なマイナスになった。7〜9月期も前期比で2四半期連続の減産になる公算が大きい(日経、2014年9月30日)。
(2)消費支出(2014年8月家計調査、総務省9月30日発表)
 2人以上の1世帯あたりの実質消費支出(物価変動を除いた正味の消費支出)が前年同月比で4.7%減少し、4月の消費増税以降5ヶ月連続のマイナスになった(同上)。
(3)実質賃金(2014年8月毎月勤労統計報告、厚生労働省9月30日発表)
 基本賃金と残業代、ボーナスなどを含めた現金給与総額は(安倍首相の言うとおり)6ヶ月連続で増加しているものの、物価変動(物価上昇分)を差し引いた実質賃金は前年同月比で2.6%低下し、14ヶ月連続の前年割れとなった。これは物価上昇に賃金が追いつかず、実質的な賃金切り下げが続いていることを示している(しんぶん赤旗、2014年10月1日)。
(4)完全失業率、正規・非正規雇用者数(2014年8月労働力調査総務省9月30日発表)
 全国の完全失業率は3.5%と3ヶ月ぶりに改善されたが、その中身である形態別の雇用者数は、正規の職員・従業員数が前年同月比で4万人減少し、非正規が42万人増加するなど依然として不安定就業者数が増加している(同上)。
(5)企業短期経済観測(2014年9月企業短期経済観測調査、日銀10月1日発表)
 企業の景況感を示す代表的な指標である業況判断指数(DI)は、前回6月調査に比べて大企業製造業(自動車など輸出産業)は1ポイント上昇のプラス13とほぼ横ばいを保ったが、大企業でも非製造業は6ポイント大幅低下してプラス13となった。一方、中小企業では製造業、非製造業とも2ポイントずつ低下して、製造業はマイナス1、非製造業はプラマイゼロとなり、景況感は極めて暗い。これは消費増税の影響で内需型産業及び中小企業野の業績が落ち込んでおり、今後も回復が難しいと考えているためだ(毎日新聞、10月2日)。

 今更こんな数字を並べなくても、各紙の経済面の見出しを見れば景気動向は一目で分かる。「都市復調、地方低迷、消費の格差鮮明」(日経、9月23日)、「増税半年、消費が二極化、賃上げ、物価に追いつかず」(同、10月1日)、「税率8%半年、個人消費 鈍い回復、『二極化』目立つ地方不振」「非製造業総崩れ、日銀短観、消費増税影響響く」(毎日、10月2日)、「弱い景気 再増税難題、戻らぬ消費、増税6ヶ月 節約を志向」「伸びぬ輸出、円安の恩恵 裾野は狭く」「消費税10%、政権に試練」(朝日、10月2日)などなどである。

 私は、消費税再増税は「地方の首」を絞めるだけでなく「安倍首相の首を絞める」と考えている。世論調査はもとより政権内部でも公然と異論が出ていることを見れば、安倍政権をめぐる政治情勢は極めて厳しいものがある。それでも「安倍さんはやりますか?」、国民はこう問いかけている。(つづく)