消費税再増税を契機に安倍内閣支持率は急低下するだろう、「地方創生」を掲げて「地方消滅」を推進する安倍政権の究極の矛盾(2)、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その6)

 集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定を契機に安倍内閣支持率が一時急低下した。その後の内閣改造人事の女性閣僚の起用で若干持ち直したものの、それ以降は支持率を持ち上げる要素が見当たらない。おまけに鳴り物入りで起用した女性閣僚陣が(一部を除いて)揃いも揃って「極右印」だから、そのうち彼女らが安倍内閣の「喉に刺さった骨」になることは間違いない。すでに数々のスキャンダル事件が発生しているからだ。

たとえば、ヘイトスピーチで知られる「在日特権を許さない市民の会」(在特会)幹部とこれを取り締まる(べき)国家公安員会の親玉が一緒に写真に納まっていたとか(おまけに政治献金まで受けていた)、これまで「月1回の問題発言」を繰り返してきた某女性閣僚があのニコニコ顔で日本の「ネオナチ団体」幹部とツーショット写真を撮っていたとか、とかく話題に欠かないのである。

しかし、これとは比較にならないくらい大きな影響を与えると考えられるのが消費税再増税問題だろう。前回のブログでも述べたように再増税が可能な経済情勢が皆無であるにもかかわらず、安倍政権は再増税の構えをいっこうに崩していない。それどころか谷垣自民党幹事長や山口公明党代表が率先して先導役を買って出て、各地で「再増税必至」との宣伝を振りまいている有様だ。

最も熱心なのが公明党の山口代表だろう。秋田、北海道に続いて、10月4日には名古屋市で「消費税の役割をしっかりと認識し、社会保障の充実を着実に進めることが連立政権の柱だ。大局を忘れないように判断しなければならない」と消費税10%引き上げについての大演説をぶった(産経新聞、2014年10月5日)。安倍政権の「下駄の鼻緒」にふさわしい活躍ぶりと言えば言えるが、ここまで熱心なのは創価学会など組織内部で反対の声が相当大きいからに違いない。それを抑えることができなければ、山口代表も「安倍と共に去りぬ」ということになりかねないからだ。

しかしこんな政治的発言は別にして、安倍政権内部や財界からも消費税再増税の延期を求める声が出ていることが注目される。大蔵省出身で内閣官房参与の本田悦郎氏は、「2017年4月まで1年半、再増税を延期するべきだ。4月の8%への税率引き上げは、予想以上に日本経済に打撃を与えてしまった。再増税すれば、アベノミクスによるデフレ脱却をぶちこわしかねない。同じ過ちを二度繰り返してはいけない」と、10%再増税はもとより4月の消費税8%引き上げそのものが政治的な「誤り」だったと認めている(朝日新聞、10月2日)。

鈴木敏文セブン&アイHD会長の場合はもっと明快だ。「過去2度の消費増税(1989年、97年)時の反動減とは消費行動が大きく違う。これまでは商品の価格を下げれば売り上げは確保できたが、今回は価格を下げても手にしてもくれない」、「過去のいろんな経済環境下では百貨店、スーパー、コンビにエントストアなどの業種ごとに好不調の方向感があったが、最近では同じ業種でも差がつき(大都市と地方の格差など)、方向感すら違うようになってきた。長くこの世界にいるが、ここまで明確になるのは初めてだろう」と、これまでとは異なる情勢の厳しさを指摘している(日経新聞、9月21日)。

そのうえで、「なぜ、国も企業も増税後の消費の姿を見誤ったと思いますか」という記者の質問に答えて、「今回の3%の消費増税分や物価高による価格上昇に消費者の抵抗感が相当ある。そして、来年10月に控える税率の引き上げを消費者は意識している。『今年の春に続いて、また痛税感を味わうのか』という気持ちだ。消費増税の在り方については『上げるなら一度で』と増税前から言っていた。国は消費者心理をわかっていなかった。今のような消費環境では再引き上げの時期を、多少ずらしたほうがいい」(同上)と答えた。

私が注目するのは、質問側の日経記者も回答側の鈴木氏も共に「国も企業も増税後の消費の姿を見誤った」ことを前提に話をしている点だ。日経新聞はいうまでもなく消費増税の旗振り役だったはずだが、ここでは明らかにそれが誤りだったことを記者自身が認めているのである。また鈴木氏は、消費増税は「上げるなら一度で」と言っていたというが、まさか5%から10%へ一挙に引き上げることを主張していたわけではあるまい。そんなことをすれば「消費恐慌」が起こり、増税後の小売業界が壊滅的な打撃を受けることになっただろう。

この点に関しては生命保険系のエコノミスト、長浜利広氏の指摘が興味深い。同じエコノミストでも証券・金融系アナリストの場合は露骨に再増税を主張するが(たとえば、パリバ証券の某エコノミストなど)、長浜氏は「消費税率が4月に5%から8%に上がり、日本経済はまだ病み上がりの状態にある。来年10月に税率をさらに10%に上げると家計へのダメージがあまりも大きく、契機の好循環の芽が摘まれてしまうのではないかと非常に懸念している。消費税率を一気に3%幅上げた国は、ОECD諸国でも過去に数えるほどしかない。(略)最も増税のダメージを受ける家計対策が手薄だったために、消費が大きく落ち込んでしまった」と消費増税による家計の窮状を率直に指摘している(朝日新聞、10月4日)。

私の友人の経済学者たちもほぼ同意見だ。安倍政権関係の政治家、グローバル系企業の財界幹部やそれに連なる御用達学者、あるいは「経済専門家」としてテレビに出てくる常連は、「消費税再増税を先送りすれば、財政赤字は深刻」、「財政再建国際公約、すでに法律で決まっている10%引き上げを国会で修正するのは大変」など、「上げないリスクはあまりも大きい」と強調する(たとえば、元政府税制調査会長の石弘光氏など、朝日、10月2日)。

だがこれらの「経済専門家」の発言は、国内経済や消費動向の分析を棚に上げての政治的発言であって、もし彼・彼女らに肩書きをつけるのなら「経済専門家」としてではなく「政治アナリスト」あるいは「政治評論家」と言う方がふさわしいというべきだろう。安倍首相が消費税再増税を判断するに当たっては、「政治アナリスト」ではなく「経済アナリスト」の分析を基にすることが求められる。「政治アナリスト」の分析にもとづいて「政治的決断」を重ねれば、次のステージには「内閣支持率急落」の場面が待ち受けている。「それでも安倍さんはやりますか?」、国民はいま冷静に事態の推移を見守っているのである。(つづく)