橋下・維新大阪組の正体と役割は、安保法制議案の成立を助ける「安倍・菅側近グループ」として公然と行動することにある、大阪都構想住民投票の意義と課題について(9)、橋下維新の策略と手法を考える(その37)

すでに拙ブログでも述べたように、マスメディア各紙の論壇に登場する政治学者たちの論調は、都構想住民投票をもっぱら「大阪マター」に矮小化し、しかも投票結果に関する評価を曖昧にして「どっちもどっち論」に持ち込み、橋下専制政治を覆い隠す点で共通している。これは橋下氏にとっては大変都合のいい論評であり、悪いのは橋下市長ではなく「大阪をどうするか」を語らなかった各政党にあるということになる。しかし都構想住民投票が終わってから約1ヶ月の現在、明らかになってきた事態は彼らが住民投票否決の政治的意義を語らなかったことが結果として橋下市長を免罪し、橋下・維新大阪組が「安倍・菅側近グループ」として安保法制国会で活躍する場を作り出しているということだ。

最近の国会情勢をみるとき、安保法制議案の審議過程において集団的自衛権を容認する憲法解釈が悉く破綻し、参考人の3憲法学者がこれら法案を「違憲」と表明してから風向きが変わったにもかかわらず、安倍政権は法案成立を(絶対に)諦めていない。アメリカ上下両院総会で「夏までに成立」を約束した以上、あくまでも強硬路線を貫き与党単独採決も辞さない構えだと言われている。

しかし、安倍政権にとって与党単独採決が国民世論の大きな反発を呼び、これまで高水準で維持して来た内閣支持率が一挙に崩れるような状態は避けなければならない以上、改憲容認の野党を巻き込んで強行採決の印象を薄めることが不可欠となる。その格好の標的とされているのが維新の党であり、とりわけ橋下氏の影響下にある「維新大阪組」なのである。彼らは安倍首相と菅官房長官の指揮下にある事実上の「側近グループ」だと見てよく、労働者派遣法改正案の審議に維新が協力の姿勢に転じたのも全て菅氏の指示によるものだ。

朝日新聞の解説記事(6月11日)はその事情を次のように言う。「維新の党が労働者派遣法改正案の採決に応じる形で安倍政権に協力した背景には、『大阪都構想』の住民投票にエールを送った安倍晋三首相らに対する大阪選出議員の『恩返し』があった。松野頼久代表は野党連携を掲げるが、『大阪組』との分裂を避けようと政権への協力を追認せざるを得なかった。(略)維新幹部は『大阪の議員にとって首相官邸に義理を果たす意味があった』と語り、5月17日の『大阪都構想』の住民投票で、橋下氏にエールを送った首相と菅義偉官房長官への『義理』だと説明する」と言った具合だ。

しかし私は、それに続く次の一節に注目したい。それは「大阪組が忠実に『義理』を果たすのは、『親政権』路線を維持しておく狙いもある。大阪組は『橋下氏を引退させない』(馬場伸幸国対委員長)と明言しており、橋下氏が国政進出を果たした暁には、政権との協力も視野に入れる。大阪組は憲法改正による統治機構改革にもこだわりが強く、改憲を目指す首相に期待している」との一節だ。

つまり、大阪都構想住民投票は「大阪のかたち」を変えるといった単なる一地方レベルの話ではなく、「国のかたち」を変える改憲策動の前哨戦としての性格が濃厚だったということである。そして都構想は否決されたものの、安倍政権は都構想支援と引き換えに、国会での維新大阪組の協力を得るという大きな見返りを得たのである。大阪市民は強大な国家権力そのもの(安倍政権)と真正面から対峙して戦ったのであり、それゆえにこそ苦戦を強いられたのである。だからこそ、その勝利は僅差であったといえいくら評価してもし切れるものではない。

 加えて6月13日の朝日新聞は、維新の党が今国会で安保法制議案の対案を提出し自公両党との修正協議に応じる可能性を伝えた。「維新の党は12日、国会で審議中の安全保障関連法案への対案を今国会に提出することを決めた。自民、公明両党との修正協議に発展する可能性がある。維新では安倍政権と協調するか、民主党と連携するかで対立が表面化しており、仮に修正で合意し、法案に賛成することになれば、野党共闘に大きな影響が出そうだ」というものである。

 また今日14日の朝日記事には、安倍首相が菅官房長官とともに橋下・松井両氏と会談することも報じられており、「維新内では労働者派遣法改正案の国会対応を巡り、橋下氏に近い大阪選出議員とそれ以外の議員で『親政権』か『野党路線』かの対立構図が表面化。会談内容によっては、こうした状況に影響を与える可能性もある」と伝えている。まさに橋下・維新大阪組の「安倍・菅側近グループ」としての面目躍如と言うところだろう。

 6月13日の毎日新聞社説も同様の観測をしている。「安保法制審議で与野党の対立が強まる中、野党第2党の維新の党の対応が国会に与える影響は決して小さくない。不可解な与党への接近を繰り返せば結局、取り込まれて補完勢力の道を歩む。野党の立場である以上は安倍内閣と対峙していく責任をしっかりと自覚してほしい」との警告だ。だが、この警告が空しくしか聞こえないところに今日の事態の深刻さがある。

 私は、もはや「橋下・維新大阪組」の正体は明らかだと思う。これまで散々彼らを持ち上げてきたマスメディア各紙、そしてその紙面上で活躍する論壇学者諸氏も彼らに対する認識を根本から改めるべきではないか。そしてこれまでの誤りを率直に認め、自己批判を表明すべきではないか。(つづく)

 ●本日14日午後1時から5時まで、大阪市大法学部教室(杉本キャンパス)で都構想住民投票に対して意見表明した研究者の集まりがあります。会の内容は「シンポジウム『豊かな大阪をつくる』〜『大阪市存続』の住民決断を踏まえて〜(第1回)」というもので、誰でも参加できます。また後日、議論されたことを拙ブログで報告します。