大阪ダブル選は「党派選挙」ではない、「党派を超えた選挙」なのだ、地方自治・議会制民主主義「擁護」か、地方自治・議会制民主主義「破壊」かの戦いなのだ、大阪ダブル選挙の行方を考える(その6)

今回の大阪ダブル選を取り巻く情勢と政治構図はきわめて複雑だ。何しろ国政では与野党として対立しているはずの自民と民主・共産が「反大阪維新」で事実上手を組み、自民とは与党関係にある公明が「どちらにもつかない」立場を表明しているからだ。その一方で、首相官邸はいっこうに「大阪維新」に塩を送る姿勢を隠す気配はないのだから、政党関係からみればとにかく説明のつかない事態が展開しているのである。

橋下氏ら大阪維新側はこの状況を「(理念や政策が全く異なる)自民、民主、共産連合で改革ができるわけがない」と非維新の“共闘”を攻撃材料にしている(日経新聞、2015年11月5日)。産経新聞社説もまた、「共産党は独自候補を立てず、自民推薦候補を自主的に応援するという。国政では、安全保障関連法を廃止する『国民連合政府』を掲げ、他の野党に共闘を呼びかけている。有権者は戸惑うしかあるまい。そうした支援を受けることの是非をよく考えてはどうか」と疑問を呈している(11月4日)。

首相官邸の態度ははっきりしている。日経新聞はこのことを「首相官邸は自民推薦の候補を民主、共産両党が支援する構造に不快感も示している。首相は『民主と一緒にやる必要はない』と執行部に伝達。菅氏も『自共共闘』を厳しく批判してきた」とその様子を明確に伝えている(11月6日)。要するに、安倍首相(自民党総裁)は栗原・柳本氏を表向き府知事・大阪市長の自民推薦候補にしたものの、「他党の支持は受けるな」と牽制することで、事実上大阪維新の松井・吉村候補に塩を送っているのである。これは栗原・柳本両氏への政治的な「裏切り」だと言ってよい。道義的にも許されないことだ。

大阪維新と分裂したことで、大阪自民が弱体化していることは周知の事実だ。橋下人気の高い大阪で、自民単独では大阪維新に到底太刀打ちできないことを百も承知した上で「他党の支持を受けるな」と牽制することは、首相官邸と橋下氏らが「グル」になって大阪ダブル選に臨んでいることを意味する。これだけ露骨な干渉に抗議一つできない大阪自民も情けないが、それにも増して官邸に何も言えない自民党本部は見苦しい限りだ。谷垣幹事長が安倍首相の「ポチ」になってから久しいが、これほどにまで骨のない人物だとは思わなかった(谷垣氏を選出している京都府民として恥ずかしい)。

こうして11月5日から府知事選がはじまり、8日から大阪市長選がスタートするが、早くも両陣営の間には「争点が少ない」とか「政策が似ている」とかの「争点ぼかし」の解説記事が各所に出てきている。たとえば、「大阪維新の会自民党推薦の両陣営は、経済政策などで公約に同じような政策が並ぶため、街頭演説や討論会で『違い』を鮮明に打ち出そうと躍起だ」(日経、11月6日)といった類の記事である。

具体的に言うと、大阪維新と自民との間では「東京との二極化」「交通インフラ」「観光政策」などの成長戦略はほぼ同じであり、違うのは成長戦略決定の手段としての「大阪都構想再設計」(大阪維新)か「大阪会議で議論」(自民)か、府咲州庁舎の「活用」か「撤退」か、敬老パスの50円負担の「継続」か「廃止」か―、その程度の違いだというのである。以下はその記事の一節だ(日経、同上)。

「大阪ダブル選では自民党大阪維新の会が掲げる公約を比べると、似た内容の政策が目立つ。都市としての大阪の位置づけは大阪維新の『副首都化』に対し、自民も中小企業庁特許庁など中央省庁の移転を掲げ『東京との二極化』を目指す姿勢はほとんど同じ。経済成長戦略でもリニア中央新幹線の大阪までの同時開業や北陸新幹線の大阪までの開通など、同じような政策が並ぶ。このほかイベント誘致も大阪維新が万博の開催、自民がスポーツイベントを挙げるが、イベントを起爆剤にして活性化を図る狙いは同じだ」

この記事は、それ自体としては(表面的には)間違っていない。大阪維新はもともと自民出身なのだから、大阪維新も大阪自民も自分の身体の形に合わせた「殻」(から)を作るのはごく自然なことだ。発想がもともと同じなのだから、政策もよく似たものになるのは当然のことなのである。しかし「殻」だけを見ていてもわからないことがある。それは大阪維新と大阪自民の「身体の中身=体質」の違いであり、その「違い」は大阪都構想再設計か大阪会議か、府咲州庁舎の活用か撤退か、敬老パスの50円負担の継続か廃止か―、という個別施策の違いをよく見なければわからないのである。

上記の日経記事の本質的な欠陥は、(意図的かどうかは別にして)大阪維新の掲げる「大阪都構想再設計」を成長戦略決定の「手段」と見なしていることだ。この記事を書いた記者は、僅か数か月前の「大阪都構想」をめぐる住民投票が一体何を巡って争われたのかをまさか忘れてはいないだろう。忘れているとすれば記者失格だし、忘れていないでそう書いたのなら意図的な「争点ぼかし」といわれても仕方がない。

大阪都構想住民投票は、大阪の成長戦略手段の選択や決定を巡って争われたのではない。「大阪のかたち=統治機構地方自治」の根本を巡って争われたのである。「大阪都構想」は大阪市を潰して大阪府に統合し、関西州の先駆けとなる「大阪都」を実現しようとする「地方自治・議会制民主主義破壊」の突破口だった。それを担ったのが、都道府県制を廃止して道州制導入を目指す安倍政権の「尖兵」としての大阪維新だったのである。

ところが知事選告示翌日の各紙が伝えるように、選挙前は最大の争点と目されていた「大阪都構想」が前面に出てこなかった。毎日新聞が「『大阪会議』『都構想』封印、ダブル選第一声は批判合戦」と見出しを付けたように、「松井氏は大阪市南部や地元の八尾市で街頭演説をしたが、最優先の政策としてきた都構想には触れなかった。(略)松井氏は約22分間の演説のうち約8割で、橋下徹大阪市長(維新代表)と二人三脚で進めてきた公務員制度改革などの行財政改革や府市連携の実績をアピール。相手陣営の批判も16%を占め、自民推薦の栗原氏が共産党民主党の支援を受けていることを非難した」と伝えている(毎日、11月6日)。

大阪市長選が本格的に始まってからでないと詳しくはわからないが、このことは大阪維新側の選挙戦術が当初とは変化したようにも見える。大阪自民とあまり変わらないインフラ整備やイベント中心の成長戦略を前面に出し、「大阪都構想住民投票で明らかになった「大阪市潰し=議会制民主主義破壊」を争点から外して、橋下人気を徹底的に利用して大阪改革の「実績」を語る戦術に切り替えたのかもしれない。

しかし民主・共産両党が勝手連的に栗原・柳本両氏を支援するのは、大阪維新とよく似た大阪自民の成長戦略をそのまま支持してのことではないだろう。それは「大阪都構想再設計」に象徴される橋下氏らの「地方自治・議会制民主主義破壊」に対する「オール大阪」の戦いであり、「地方自治・議会制民主主義擁護」の戦いだからだろう。大阪ダブル選は「党派選挙」ではない。「党派を超えた選挙」なのである。(つづく)

●府咲州庁舎の「活用」か「撤退」か、敬老パスの50円負担の「継続」か「廃止」かは、「個別施策」の違いではなく、地方政治の根幹にかかわる「政治戦略」であることを次回説明します。