民進党代表選は、果たして保守系(前原氏)とリベラル系(枝野氏)の対決なのか、前原氏の地元、民進党京都支部の動きは複雑だ、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その76)

 8月21日告示の民進党代表選が始まった。各紙の報道では「前原・枝野一騎打ち」との見出しが躍り、民進党内の保守系とリベラル系が真正面から対決しているかのような構図が描かれている。全国的に見ればそうかもしれないが、前原氏の地元京都では必ずしもそうとは言えない複雑な動きが渦巻いている。

 最も張り切っているのは、根っからの改憲論者の北神圭郎衆院議員で、前原氏の推薦人にも名を連ねている。北神氏は、前原氏を民進党代表に当選させることで民進党を一気に保守系純化させ、共産党とは手を切って日本ファーストとの連携を目論んでいるとされる。前原氏の公約を絵に描いたように体現している人物だ。

 北神氏の行動には誰も驚かないが、福山哲郎氏や山井和則氏などの動きには注目が集まっている。福山氏は菅内閣時代の官房副長官であり、主義主張からすればむしろ枝野氏に近い。菅直人氏は枝野氏の推薦人だ。山井氏はかっての代表選で長妻昭氏の推薦人になったこともあり、蓮舫代表のもとでは衆院国対委員長に抜擢された。長妻昭も枝野氏の推薦人だ。しかし京都では、両氏とも前原氏側について民進党員や支持者の票集めに動いている。

 民進党はこれまで「選挙互助会」といわれるように、主義主張を異にするグループがただ選挙に当選するために集まっただけの政治集団だと言われてきた。京都での民進党の動きを目の当たりにすると、このことはあながち的外れな指摘とは思われない。非自民・反共産の中間ゾーンに位置する曖昧集団が取りあえず政党の名を名乗り、政党補助金を得て選挙資金を確保し、連合など御用組合の支援を受けて選挙活動をする...。これが民進党の実態だと言われても仕方がない。

 そんなことで、私は今回の民進党代表選それ自体にはほとんど期待していないのだが、それでも日本の政局に与える影響は無視できず、場合によっては安倍首相が衆院解散に踏み切る可能性もあるので、幾ばくかの感想を述べてみたい。まずは、前原氏か枝野氏かの勝敗の行方が及ぼす影響についてである。

 勝敗が一方的なものであり、どちらかが大敗するような場合、党の分裂はまず起こらないだろう。惨敗組はどこに行っても相手にされず、党から抜け出ても行先が見つからないからだ。しかし、今度の代表選では両氏の勢力は拮抗しているので(前原氏が議員票では優勢だと言われている)、このようなケースは想定できない。とすれば、小差で勝敗が決まった場合のことを考えておかなければならない。

 世上では、前原氏が勝利した場合には党の分裂は起こらないが、枝野氏が代表になった場合は、前原支持勢力の一部あるいは相当部分が民進党から抜けるのではないかといわれている。すでに長島昭久氏や細野豪志氏らが先行して日本ファーストとの連携を模索しているので、その可能性はかなり高いと言わなければならない。そうなれば、民進党の分裂騒ぎが続いているうちに衆院補選と併せて総選挙が行われる公算が大になる。民進党が分裂すれば野党側は選挙戦どころではなくなり、市民共同や野党共闘の政治基盤が一挙に崩れるからだ。

 問題はその時、東京都議選のような地殻変動が起こるかどうかだろう。だが、自民党が惨敗して日本ファースト連携組が大躍進する――そんな構図は描きにくい。第一、小池都知事に代わるような新しい党首がいない。前原氏が新党党首になっても民進党の二番煎じで人気党首にはなれない。加えて、東京都議選と国政選挙は政治構造がまったく違う。地方に行けば行くほど自民党の地盤は強くなり、しかも公明党自民党を支えている。都議選のように公明党自民党から離れればまだしも、自公与党の連携は固いのだから、にわか作りの新党が大躍進できるほど選挙は甘くないのである。

 ついでに言えば、日本ファース連携組がたとえ一定の議席を獲得したとしても、ポピュリズム政党の賞味期限はそれほど長くないことを頭にとどめておく必要がある。小池新党をフランスのマクロン政権に例えてその躍進を期待する論調もあったが、マクロン政権のその後を見れば、日本ファースト連携組の寿命は目に見えている。政党支持率が瞬間風速的には上昇しても、新鮮味が薄れ、賞味期限が切れれば、「ダウンバースト」(凄まじい下降気流)よろしく地べたに叩きつけられるだけだ。

 そう考えると、民進党京都支部面々の複雑な動きも何だかわかるような気がする。前原氏を小差で勝たせて党の分裂を避け、総選挙を回避しながら党内改革を進めるという福山氏や山井氏の路線がそうだ。しかし、この路線も幾つかの爆弾を抱えている。最大のリスクは、前原氏自身の思い上がりと党路線の転換だろう。

党代表に返り咲いた前原氏は、一挙に右カーブを切って民進党の保守化を進めるに違いない。真っ先に手を着けるのは共産党などとの野党共闘路線の破棄であり、次に憲法改正、防衛力増強、消費税増税原発存続などこれまであいまいにしてきた重要政策の明確化だ。自民党とほとんど変わらない政策を遂行することで党内体制を固め、将来は民進党の単独政権ではなく自民党との連合政権で権力を掌握する――、これが前原氏の描く政権構想だ。さて、福山氏や山井氏はこれからどうする。(つづく)