迷走する前原民進党を直撃するか、解散風が強まっている、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(8)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その80)

 この9月28日、野党各派が要求してきた臨時国会が漸く召集されるのだという。憲法違反もいいところだが、安倍政権がここまで引き延ばしたのはそれなりの理由があってのことだ。言うまでもなく、解散時期とセットで臨時国会の召集を考えてきたからだ。メディア各紙は冒頭解散を予測しているが、私もそうなる可能性が大きいと思う。

 そう考える理由はいくつかある。各紙はもっぱら前原民進党の迷走ぶりに焦点を当て、その間隙を突いての国会解散の構図を描いている。10月22日の衆院3補選が目の前に迫っているというのに、前原民進党はいっこうに野党共闘の話し合いに応じようとしない。「地域のことは地域の事情に任せる」と逃げを打っているが、これまで積み上げてきた野党4党首会談の申し合わせを反故にするのであれば、野党候補の一本化などはとうてい望み薄だ。

また、地域の事情で「選挙に勝つため」に仮に野党候補の一本化が実現したとしても、「名ばかり野党共闘」では有権者の信頼は得られない。そんなことをすれば政党の体面に傷がつき、本選挙での惨敗が待っているだけだ。政党の本体が揺れているときに地方組織の末端で共闘することになれば、国民の目には「野合共闘=野合」と映り、「本物の野党共闘」に傷がつく。本来の野党共闘の意義や精神を守るためにもあいまいな妥協はしてはならないと思う。

安倍政権が冒頭解散に打って出るもう一つの理由は、小池新党が出来そうで出来ない政治事情も関係している。たしかに「都民ファーストの会」は都議選で圧勝したが、それが全国版として通用するとは思えない。目下、小池氏側近の若狭衆院議員が盛んに動いているが、この政治経験の浅い人物が新党結成の核になるなどとは誰も思っていない。政策もあいまいなら人物も未熟、この程度の人間しか側近にいないとしたら、もうそれだけで小池新党の行く末は見えている(この点で、大阪維新を立ち上げた橋下氏のキャラは際立っていた)。

 安倍政権が冒頭解散に踏み切る本当の理由は実は別にある。それは、安倍政権の喉元に刺さった森友疑惑と加計疑惑の骨をどうしても抜くことができないからだ。私は、加計学園獣医学部の新設をチャラにしてまでも安倍政権が総選挙に打って出るのではないかと予想していたが、これは外れた。「腹心の友」を切るだけの勇気と決断力が安倍首相になかったのだろう。それとも加計氏との関係がすでに「刎頚之友」レベルにまで達していて、加計氏の頸を斬れば自らの頸にも撥ね返ることを恐れたからであろうか。

 しかし安倍首相の決定的な誤算は、籠池夫妻という類まれなカップルを昭恵夫人が不用意に近付けたことだった。この夫妻は(関西では)知る人ぞ知る人物で、一度食いついたら死んでも離さない種類の人間として知られている。でもその人並み以上の執念は、安倍首相や昭恵夫人の思惑を遥かに超えるものだった。安倍首相夫妻だけではない。安倍首相の意向を忖度して動いた財務省国土交通省の役人たちの思惑も遥かに上回っていたのである。

 このところ各紙(大阪本社版)では、森友疑惑が大きくクローズアップしてきている。大阪地検特捜部は9月11日、籠池夫妻が大阪府大阪市補助金を詐取したとして追起訴した。すでに起訴した国の補助金詐取や未遂分を含めた立憲総額は2億150万円に上り、これで補助金不正操作は一応終了した。だが、これで捜査が一段落したわけではない。財務省近畿財務局の役人たちが国土交通省近畿地方整備局と結託して国有地をタダ同然で森友学園に売却した背任容疑や、学園との交渉記録を廃棄した証拠隠滅容疑の捜査はこれから本格化するのである(毎日、9月12日)。

籠池夫妻の人並みでないところは、財務省国土交通省との交渉経過をすべて音声データとして記録していたことだ。籠池夫妻はこの音声データを昵懇のジャーナリストに託し、捜査が進展するにつれて少しずつマスメディアにリークするように指示していたのだからタダ者ではない。音声データはまずテレビ局のトークショーで流され、次に各紙が入手してその裏を取り、最終的には大阪地検特捜部も入手して捜査資料に加えているとされる。

おそらく交渉に当たった近畿財務局や近畿地方整備局の役人たちは、籠池夫妻がこれほどの周到な準備をして交渉に臨んでいたなどとは夢にも思わなかったことだろう。役人たちの前で籠池夫妻が恫喝まがいの大声で喚きたてたのは、夫妻の品性もさることながら、録音を隠蔽するために準備された巧妙なパフォーマンスだったことが推察される。目の前で大声で喚かれれば役人たちはそのことに気を取られ、それ以外のことは目に入らなくなるからだ。まさに絵に描いたような田舎芝居ではないか。

 安倍政権は、前原民進党の迷走や小池新党の停滞に乗じて冒頭解散に踏み切るだろう。国会での疑惑追及が行われないこともあって、内閣支持率はこのところ少し回復してきている。だが、国民を甘く見てはいけない。たとえ総選挙で勝利しようとも、森友疑惑と加計疑惑の骨は抜けない。この骨を抜き取るには、安倍政権が退場する以外に道がないことを安倍首相は早晩思い知るだろう。(つづく)