前原民進党代表の表明する1対1は、「与党 vs 野党共闘」ではなくて「与党 vs 小池新党(民進解体)」の1対1だった、国民世論は安倍内閣を拒否し始めた(9)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その81)

  今日9月28日、臨時国会が開かれ冒頭解散が行われる。首相の所信表明演説もなければ、与野党の代表質問もないという前代未聞の暴挙だ。国権の最高機関である国会(衆院)が国政案件の審議ではなく、安倍政権の国政私物化(森友・加計疑惑など)の責任追及を免れるため(だけ)に開かれるなど、これほど議会制民主主義の精神を踏みにじり民意を冒涜するものはない。これで安倍与党が勝利するようなことになれば、日本の政治はもはや死んだのも同然だ。

 ところが、狙いすましたはずの安倍解散が野党再編という「パンドラの箱」の蓋を一挙に開けることになろうとは、さすがの首相官邸も予想できなかったらしい。前原代表が野党第1党の民進党を電撃的に解党し、旗揚げしたばかりの小池新党に「抱きつき合流」するという奇想天外な方針まで想定できなかったのだ。

だがこのことは、前原氏が民進党代表に選出されたときから遅かれ早かれ予想されていたことだった。民進党の最大の支持団体である連合は、東京都議選での都民ファースト支援選挙運動を通して実質的に民進党東京都連を解体させた。前原氏と神津連合会長はその延長線上に野党再編の構図を描き、民進党を小池新党と合流させて強力な「自民補完勢力=改革保守政党」をつくる政治シナリオをすでに共有していたのである。

安倍政権が選挙情勢を見誤ったとすれば、それは民進党と小池新党による野党再編劇が与党の思惑を超えて「一挙」に進んだことだろう。自公与党は、民進党の混迷と小池新党の準備不足を見越して衆院冒頭解散という奇策に打って出たが、前原・小池両氏がこの奇策に便乗して野党再編に乗り出すとまでは予想していなかった。前原・小池両氏にとっては時間をかけるほど民進党内の議論が紛糾し、野党再編がスムーズに進まないことを十分に見越した上で、安倍解散を「千載一遇の機会」として利用したのである。

総選挙が始まれば、もはや民進党内には多くの選択オプションが残されていない。今日28日の両院議員総会では議論は紛糾するだろうが、候補者活動を始めなければ当選がおぼつかないので長々と議論をしている暇はない。執行部の方針を覆すだけの勢力が党内にない以上、結局は前原・小池シナリオに従うほかはなく、大勢は小池新党に合流して「希望の党」公認候補として選挙活動をする羽目に追い込まれるだろう。

しかし、前原・小池シナリオにはもう一つの仕掛けがある。それは小池新党への合流に幾つかの条件を課していることだ。第1は小池新党に合流するメンバーを「希望する者」に限定していること、第2は改憲と安全保障政策に関する基本姿勢をチエックして「個別選別」を行うとしていることだ。これは民進党内のリベラル派をこの際一挙に整理し(排除し)、小池新党を「改革保守=自民補完政党」に純化するためのスクリーニング条項に他ならない。

これら「スクリーニング条項」に引っかかって排除されたリベラル系メンバーには「無所属」として立候補するか、急きょ新党を結成して戦うか、それほど多くの選択肢があるわけではない。考えうる唯一の方法は、これまで構築してきた「野党共闘候補」として生き残ることしかないだろう。民進党が事実上解党されるいま、もはや民進党内に残って戦うという道はない。リベラル派としての思想信条を貫き、革新勢力の一員として行動を共にする意思と決意が確かであれば、この際思い切って新しい方向に踏み出すべきであろう。

共産党社民党の陣営にも提案したい。民進党内のリベラル派を受け入れ、この際統一名簿を作って市民と共同して選挙戦に臨んではどうか。そうすれば、「安倍か小池か」といった不毛の二者択一選挙は避けられ、「リベラル第3極」としての存在意義を打ち出せると思う。そしてこの方向が有権者の支持を得れば、これまで遅々として進まなかった「野党共闘+市民共同」戦線を一挙に構築できる弾みにもなる。安倍解散は野党共闘側にとっても「千載一遇の機会」なのだ。

恐らく総選挙公示日直前まで流言飛語が飛び交い、小池氏本人の立候補可能性も含めて、マスメディア空間は「小池一色」に染められる可能性が大きい。それが小池新党の狙いであり、組織基盤を持たない「希望の党」の選挙戦略でもある。マスメディアが小池新党に焦点を当てれば当てるほど(たとえ瞬間風速的であっても)支持率は高まり、思いもかけない政局が出現する可能性もある。

すでに各紙の世論調査では、比例区投票先として小池新党が自民党に次ぐ存在として2桁台の支持率に上っている。このままヒートアップしていけば、東京都議選のようなフィーバーが全国的に起こらないとも限らない。「リベラル第3極」を一刻も早く立ち上げ、情報戦においても後れを取らない陣地構築が望まれる。(つづく)