口紅つけても豚は豚、ニューヨークタイムス、(福田辞任解散劇、その4)

 筋書き通り麻生世襲議員自民党総裁に選出され、麻生内閣が発足した。閣僚18人のうち実に3分の2近い11人が世襲議員というのだから、世襲議員でなければ、もはや閣僚にも首相にもなれない政党が自民党だ。世襲になればなるほど遺伝子は劣化するというが、自民党の人材難の根源はおそらくここから来ているのだろう。

 自民党世襲議員化がどれほど体質化しているかということを図らずも証明したのが、昨夜、突然引退表明をした元小泉首相の次男後継者指名だろう。「自民党をぶっ壊す」はずだった小泉氏が、その手先として使った「小泉チルドレン」を容赦なく見捨てる一方、自分の議席だけは「次男に譲る」のだという。選挙民を二重三重に愚弄する筋金入りの自民党体質ではないか。

 それにしても自民党の体質は古い。財界の指示通り国民生活や自民党の政治基盤を目茶苦茶に壊した小泉構造改革の後が、古色蒼然とした麻生内閣の登場だ。イギリスの「タイムズ」は、麻生氏のことを「不快な失言癖のある派手な国粋主義者」と評し、アメリカの「ニューヨークタイムス」は、オバマ氏がマケイン氏の政策を評して言った「口紅つけても豚は豚」と言ったフレーズを借りて、麻生氏の言動を批判的に紹介する始末だ。これではいくらブッシュ大統領にお世辞を言ってもらっても、麻生氏の国際的評価は「決まり」だろう。

 小泉、安倍、福田、麻生とこの間目まぐるしく交代した首班指名を振り返ってみると、政策的には利益誘導政治から新自由主義へ、そしてふたたび国粋主義へと大きく揺れたが、それを担う人物像はいっこうに変わらなかったのが特徴だ。小泉氏の言動がマスメディアによって「脱自民党」的なイメージで描かれ、多くの国民が「純ちゃん!」と叫んだことは記憶に新しいが、結局、彼の体質も「自民党世襲議員」の域を出るものではなかったのである。

 日本国民の不幸は、このような小泉氏と麻生氏に代表される自民党政治の軛(くびき)からいまだ抜けられないことだ。自民党の利益誘導政治に愛想を尽かして小泉構造改革に期待をかけたが見事に裏切られる。それでいて、今度は復古国粋主義の麻生氏に期待するというわけだ。テレビの街頭インタビューをみていても、辛口の発言者は外してあるのだろうが、その反応の大甘ぶりは見ていても辛い。これでは当面の政治変革などとても望める状況ではなさそうだ。

 しかし、遅々としてはいるが変化の兆しもあることはある。今朝の各紙における最初の麻生内閣支持率の結果は、興味深い数字が出ている。朝日は支持48%、不支持36%、毎日は支持45%、不支持26%、読売は支持49.5%、不支持33%、日経は支持53%、不支持40%というものだ。御祝儀相場にしては随分低い支持率だといわなければならない。この間の歴代内閣の最初の支持率は、小泉内閣70%台、安倍内閣60%台、福田内閣50%台だったのに対して、麻生内閣はほぼ40%台だからやはり確実に低下してきているのである。国民の眼もだんだん厳しくはなってきているのだろう。

 それにしても麻生内閣による国会の解散時期が支持率の動向によって決められようとしていることは、政策で勝負するという政党政治の基本からも大きく逸脱しているといわなければならない。政策を世に問うことで総選挙に打って出るのではなく、その時々の内閣支持率で判断するというのはまさに「風任せ」、「風頼み」の政治手法以外の何物でもないからだ。今朝の最初の支持率を見て麻生首相がどのように判断するかわからないが、結果的には補正予算の審議もしないで即解散に踏み切ることが出来なくなったことは確実だろう。このまま「景気対策」の実績もないうちに解散すれば、支持率40%台は、直ちに「不時着ライン」まで急降下することは目に見えているからである。

 加えて、昨夜の小泉氏の引退表明と次男への議席世襲発言が、麻生内閣への直接的な波及はともかく自民党支持率に否定的な影響を与えることは避け難いだろう。今回の支持率調査は内閣支持率政党支持率の両方を調査しており、内閣支持率はそれほど高くないものの、自民党支持率は30%台を維持して民主党を上回っているので、選対関係者は一様に安堵していると伝えられていた。そこに降って湧いたのが小泉氏の引退表明である。

 この「サプライズ引退劇」は、小泉氏の人気がまだ落ちていないときには「潔い」とか「カッコいい」とかの称賛を浴びたであろうが、小泉神話が完全に崩壊した現時点においては、「無責任な議席の投げ出し」としか映らないだろう。安倍、福田内閣の崩壊と政権投げ出しに引き続く「元首相の議席投げ出し」であり、かつ「議席の私物化」、「議員の世襲化」の象徴として国民の鋭い批判を受けることは目に見えている。そしてそれが今度は一転して自民党の支持率低下に連動していくことは間違いない。(続く)