“道楽者”の類では政治はできない、(福田辞任解散劇、その15)

 麻生首相の「ダッチロール」(迷走状態)もいよいよ墜落寸前の段階に差し掛かったようだ。昨日今日の各紙が挙ってその窮状を伝えているように、「バラマキ給付金」は日を追うごとに不評の度を深めているし、特定道路財源の一般財源化は道路族の手でひっくり返されたし、年金予算の国庫補助1/2の来年度実施に至っては「日替わり」で発言が変わる始末だ。

 もともと首相としての器はおろか、政治家としての資質さえ不明な人物が、単に祖父や父が首相だったということだけの理由で、総選挙の洗礼も受けず、次々と首相に就任するという異常な事態がこの間続いてきた。そのことの「究極のツケ」がいま回ってきているのである。

 少し前の日記で、阿倍氏は「幼稚」、福田氏は「無責任」、麻生氏は「粗野」と評したことがあったが、前の2人はそれでいいとしても、麻生氏だけはなんとなくしっくりとこなかった。もっと的確なキーワードがあるはずだと、その後ずっと考えていた。それがここにきて、“道楽者”という言葉こそが彼には最もふさわしいキーワードだと思い当たったのである。

 もともと「道楽」は読んで字の如く、「道を解して自ら楽しむ」という洗練された含意だった。しかしそれが高じて「趣味にふけって本職をかまける」となり、遂には「遊蕩」や「放蕩」の水準にまで落ちることになった。華麗な家系に生まれた麻生氏は、政治家としての「本職」を理解することもなく世襲議員になり、またそうであるがゆえに「趣味」の漫画や射撃、グルメやバー通いに日々ふけることができたのであろう。

 本来ならば、そのことが議員としての資質を問われることになって然るべきだったのが、それが逆に「国民的人気のある政治家」として首相に選ばれたのだから、自民党という政党の体質や水準がわかるというものだ。しかし如何せん、担ぎ出された舞台が悪かった。会社の経営者程度なら部下に仕事や責任を「丸投げ」して何とか誤魔化すことはできたが、さすがに首相となるとそうはいかない。日々の一挙一動が国民の注目の的になると、「道楽」レベルの対応では国政を担うことができないことが、白日の下にさらけ出されるようになったのである。

 “道楽者”の本質は「本職」に疎いということだ。政治家という職業にいったいどんな資質や能力が必要なのか、おそらく麻生氏はこれまで一度もそんなことを考えたことがなかったのではないか。だから政治家の言葉の重み、とりわけ一国の首相の言葉がどれほどの大きな意味や責任をともなうものかがからしき理解できないのである。

 例えば、目下の最大の政治課題である雇用問題への対応にしてもそうだ。過日、麻生首相経団連の御手洗会長を呼んで雇用安定への「要請」をしたとされる。御手洗氏は日本経団連の会長であると同時にキャノンの会長だ。その御手洗氏が首相の要請に応えて「わかりました」と言明したのなら、経団連は即刻雇用確保の対策を講じなければならないし、参加の大企業に対して「派遣切り」など直ちにやめさせなければならないはずだ。

 ところがどうだろう。首相から要請された僅か3日後に、御手洗キャノン会長の大分工場は千人を超える派遣社員の首切りを堂々と通告したのである。麻生氏がもし政治家の本分を少しでも理解できる人物であり、首相としての「要請」の重さを自覚していたのであれば、このような御手洗氏の行動を決して許すことはなかったであろう。しかし悲しいことに、彼には「首相としての面子を潰された」ことがわからないらしい。居酒屋に行って自民党青年部の若者と馬鹿話をしたり、駅前のタクシー運転手に景気を尋ねるポーズをすることと、経団連会長を呼んで雇用確保の「要請」をすることの政治的区別がつかないのである。

 こんな状況を前にして、国民は政治家とりわけ一国の首相の資質や能力識見がどれほど大切なものか、また政治が正常に機能しないと国民がどれほど不幸になるかを日々学んでいるのではないか。「純チャン!と叫んだ私がバカだった」(オバサン)という川柳にもあるように、その国の政治は国民の水準を超えることができない。小泉郵政選挙で「純チャン!」と叫んだのは、オバサンだけではなく若者も多かったが、彼・彼女たちはいまどんな思いで政治を眺めているのだろう。

 だが、もうそろそろ私たち国民は政治の実態と本質に目覚めてもいいときだ。「幼稚」「無責任」「道楽者」と3代続いた世襲首相の実態は、国民に対して千載一遇の政治学習の機会を与えている。事実、過日の日経の世論調査で「首相としてふさわしい人物」として麻生氏が2割にも満たなかったことは、国民の政治学習が少しずつ進んでいることを物語るものだ。

 さて、自民党はこの事態をいったいどう打開するのであろうか。政治が経済に従属し、首相の「要請」が御手洗経団連会長によって無視されるような状況が続くときは、次は自民党の支持率が劇的に低下するときでもある。「バラマキ給付金」のような撒き餌で国民が釣られるような状況ではなくなった。遅遅とした歩みではあるが、国民の政治水準は確実に上昇している。この事態を甘く見るか深刻に受け止めるかで、これからの日本の政治情勢は大きく変わってくる。年内の各政党の動きを注目したい。(続く)