いまこそ、地方公務員を増やすべきだ、(福田辞任解散劇、その16)

 日銀が12月15日に発表した「企業短期経済観測調査」(日銀短観)を受けて、昨16日は日本中でさながら「日本株式会社」の“不況大合唱デー”の様相を呈した日だった。新聞各紙は1973年第1次石油ショック以来の「34年ぶりの景況感の悪化」を大々的に伝え、夜のNHKテレビは「派遣切り問題」の特集番組を報道してその惨状をリアルに映し出した。

 このような記事や報道を見て、国民はいったいどう考えるのだろう。かくまで経済情勢を悪化させ、国民生活を貧困と不安のなかに陥れた小泉内閣以来の自公政治に激しい怒りを覚えるのだろうか。それともあまりの情勢の厳しさにただ不安と絶望に慄き(おののき)、行き場とやり場のない迷路のなかにさ迷うのだろうか。私はNHK番組のホームレスになった元派遣労働者の声を聞いて、彼らのなかの政府や企業への怒りがあまりにも弱いことに強い衝撃を受けた。

 僅か3ヶ月前の9月17日のことだ。アメリカのリーマン・ブラザース証券の破綻直後に、与謝野経済財政担当相は、「日本経済にとってはハチの刺した程度の影響。日本の金融機関が傷むことは絶対にない」と大見えを切っていた。それがどうだろう。その後の日本経済は、金融機関どころか、ものづくりの中核である大手製造業までが未曽有(「みぞう」と読む)の不況に陥っているというではないか。

 「この程度の首相にしてこの程度の大臣」というが、「政策通」といわれる与謝野氏がこの程度の浅薄な経済認識なのだから、日本国民はたまったものではない。その全てのシワ寄せが、派遣労働者をはじめ社会的・経済的弱者に容赦なく押し寄せているのである。年の瀬に仕事と家を同時に失って、文字通り「路上」に放り出されるなんて、どこが「世界の先進国」といえるのか。

 麻生首相は、過日「23億円の緊急経済対策」と銘打って、年の瀬の雇用不安や経済不況への対策を打ち出した。だがその中身をよく読んでみると、今回の雇用不安、社会不安の根源である「労働者の首切り」への対策がない。現在荒れ狂っている「派遣切り」を止めさせる対策を打たないで、「首切り」を前提にした後始末対策をあれこれと並べ立てているだけだ。

 「猫を追うなら皿を引け」という古いことわざがある。私も小さい時に祖母からよく言われたものだ。原因(皿の食べ物)を取り除かないで、うわべの対策を講じても(猫を追っても)、効果がない(また猫がやってくる)ということだ。こんな易しいことが首相にも大臣にもわからないはずがない。でも彼らは、トヨタやキャノン、ソニーパナソニックに対しては、「派遣切りを止めよ」とは口が裂けても言えないのである。召使が主人に命令ができるわけがないからだ。

 一方、民主党はどうか。雇用安定対策の緊急法案を何本も提出したというが、これもなぜか大企業の首切りを止めさせるための肝心かなめの内容が欠落している。そもそも派遣労働者を野放しにした労働法の改悪に手を貸したのは民主党だ。民主党を支持する「連合」も「俺達には関係ない」とばかり法案の成立を傍観していた。だから現在の雇用不安、社会不安を作り出した共犯関係にある彼らが、自らの犯した誤りを棚上げにして自公政治への批判をいくら並べ立てても、国民の信頼は得られない。「麻生と小沢のどちらも首相にふさわしくない」との世論調査が6割を超えているのも、そのあらわれだろう。

 こんな事態の中で大分県杵築市(きつきし)は、キャノン大分工場から首を切られた派遣労働者をわずか1ヶ月間ではあるが臨時職員として順次雇用する方針を打ち出した。キャノンは大分工場の建設に当たっては県民の税金である県の誘致補助金を30億円も受け取りながら、少し不況になると容赦なく派遣切りをする「血も涙もない企業」だ。その一方で地元自治体の杵築市は、人口3万人余、年間予算31億円ばかりの小さな自治体にもかかわらず、派遣労働者を救おうとする。企業の社会的責任がこれほど乱暴に踏みにじられる一方で、地元自治体が必死になって労働者の窮状に対応しようとしているのである。

 この間、小泉構造改革の「規制緩和」と「民営化」の嵐のなかで、地方自治体は容赦のない大合併に追い込まれ、町役場や村役場は無くなり、地方公務員は削減に継ぐ削減のターゲットにされてきた。民間企業では従業員のリストラを断行する社長が優秀な経営者と讃えられてきたように、地方自治体では公務員を減らし、行政サービスを民営化する管理者がすぐれた首長だと評価されてきた。

 しかし国際的に見ても、日本の人口当たりの公務員数は先進国の中で群を抜いて少なく、行政サービスの水準も高くない。それにもかかわらず「乾いた雑巾を絞る」ような公務員の削減を強行したのが、小泉改革の下での平成大合併とそれにともなう行政サービスの大リストラだった。地方公務員の削減によって地域の雇用は失われ、国民生活の維持に不可欠な医療、介護、福祉、保育、教育などの行政サービスが切り捨てられてきた。

 いま地方は、雇用と行政サービスの決定的不足に直面している。民間大企業が雇用責任と社会的責任を果たさないのであれば、地方公務員を増やして雇用と行政サービスを回復させることが必要だ。無理な広域合併を強要された自治体は、元の町村区域を復活して地方経済と地域社会の安定を取り戻すことが急務の課題だといえる。全国の自治体労働者は、派遣切りされた労働者の窮状を救うためにも、また地域経済と地域福祉の安定のためにも、地域住民の先頭に立って公務員の増員運動に取り組んでほしい。(続く)