鳩山兄弟の言動が政界の注目を集めている。「2羽の鳩が麻生首相を襲っている」とは、先日の兄の方の発言だった。かたや民主党の代表、もう一方は自民党麻生内閣の現職閣僚だというのに、与野党間の違いなどまるで気にしていない発言だ。兄弟といえども思想・信条が違えば別個の人格であり、まして異なる政党に所属する議員であれば「政敵」ともいえる存在であるはずなのに、兄弟ともにその「公私の混同」ぶりに全く気付いていないらしい。
しかしよく考えてみると、鳩山兄の発言は案外現在の事態の真相を物語っているのかもしれない。「究極の世襲議員」ともいうべき鳩山兄弟にとっては、日本のエスタブリッシュメントを代表する家系として国家体制を維持することが至上命題であり、現在の所属政党など末梢的な事柄なのである。いわば「本籍地」(出自)を同じくする兄弟が、「現住地」(政党)にこだわることなどさらさらなく、必要があればいつでも「引っ越せばよい」と考えているのであろう。
鳩山兄弟が相呼応して麻生政権を揺さぶっているのは、やはりそれなりに理由がある。兄の方は、次の総選挙に勝利すれば、政界再編に乗り出さざるを得ない事情があるからだ。彼の器量からして、「猛獣」といわれる小沢副代表を調教することなど到底不可能なので、鳩山政権を維持するためには小沢氏を切り離すことが不可欠の条件になる。そのときには自民・民主の「党派を超えて」新しい政権をつくらなければならない。弟はその際のかけがいのないパートナーとなるのである。
鳩山弟の方は、麻生政権の次を狙うためには「自民党の枠」など構っておられない。麻生内閣の後が自公政権になるとの保証はどこにもないからである。だから自民党内からはどれぐらい「閣内不一致」として非難されても、彼にとっては「政変劇の序曲」ぐらいにしか聞こえないだろう。騒いでくれた方が彼の株が上がるのであり、「国民の支持」を背景にして政界再編を有利に進められるからである。
可哀そうなのは自民党だ。もともと早期解散を前提にして漫画チックな麻生氏を首相に担いだにもかかわらず、その後は失点続きでいっこうに支持率が上がらない。毎日麻生首相をぶら下がり取材している記者たちも呆れてものが言えないと聞く。「こんなのが首相になったら世も末だ!」というような事態が現実のものになっているからである。
おそらくここ1〜2週間のうちに、鳩山弟の処分が出されて閣僚の更迭が行われるだろう。そしてそのことを契機にして、また一段と内閣支持率が低下するだろう。そして総選挙が間近に迫っていることもあって、内閣支持率は自民党支持率の低下に連動し、麻生降ろしがはじまるのではないか。総選挙を直前にした総裁選挙で誰が首班に選ばれるのかは知らないが、おそらくは「ドタバタ劇」に嫌気をさした有権者が自民党をそっぽ向くのは避けられないだろう。
といって、麻生首相が鳩山弟をクビにしなければ、閣内を去る閣僚が続出することも予測される。ちょうど議員歳費の無駄遣いで窮地に追い込まれているイギリスのブラウン内閣から、閣僚の辞任が相次いでいるのと同じ現象が我が国でも起こるというわけだ。そんな惨めな立場に追い込まれるよりは、「打って出よう」と思うのが自然だろう。
思えば、麻生首相に人を見る目がなかった。総裁選挙の論功行賞で選んだ「盟友たち」の多くは閣外に去った。暴言・失言常習犯の中山元国土交通相、アル中の中川元財務相、無類の女好きの鴻池元官房副長官などなどである。しかし麻生首相本人は他人事のようにそれを眺めていた。そして今回は鳩山総務相の番である。しかし今度はどう転んでも麻生政権の命取りになることはまず間違いない。
かって革新自治体が全盛のころ、保守自治体がその手法を学んで政権交代を回避したことがあった。「政権交代なき政策転換」といわれたのもこの頃である。しかし現在は、自民・民主両党の間にほとんど政策の違いがなく、それでいて「政権交代」が叫ばれている。そして「政策転換なき政権交代」の現代を象徴するのが、鳩山兄弟の演出する政局再編劇である。