民主党が抱える“郵政不正爆弾”、(麻生辞任解散劇、その16)

 鳩山総務相の更迭以来、麻生内閣の支持率は再び「危険水域」にまでに急落した。「危険水域」どころではなくて、もはや「浸水水域」に入ったと書いている新聞まである。かっては支持率が30%を割れば「危険水域」だといわれていたのだが、最近はあまりにも不人気内閣が続いたので、それが「20%ライン」にまでディスカウントされていた。「危険水域」のハードルを下げて、不人気内閣の延命を図ろうという魂胆だろう。

 しかし何がなんでも「20%割れ」というのは低すぎる。さすがの各紙も今度ばかりは「墜落寸前」、「沈没寸前」だと書かざるを得ないのではないか。そうなると、「泥船の子ネズミたち」の逃げ足が速くなる。この数日間で「逃げ場」を求めて右往左往する子ネズミ集団があちこちで出現することだろう。

 だがその一方で、無視できない大事件が目下刻々と進行している。それは連日報道されているように、厚生労働省の組織ぐるみの「郵政不正問題」の急展開だ。ニ階経産相の西松スキャンダル事件を不問にした「東京地検」ではなくて、この事件を担当しているのが「大阪地検」だということも意味深長だ。東京から一歩離れたところで、政界の影響を避けて事件解明をしようという検察当局の意向かもしれない。

 障害者団体を偽って格安の郵便料を利用した今回の事件は、大手の広告会社や通販企業が共同で企んだ悪質極まりない企業犯罪だ。それを民主党副代表を務める大物議員が口利きをして、現職の局長までが逮捕されるという「政官財三位一体のスキャンダル事件」に発展しつつある。民主党にとっては、小沢元代表の公設秘書が逮捕起訴された事件に引き続く一大政治危機だといわなければならないだろう。

 にもかかわらず、目下のところ民主党内には郵政不正事件をめぐっての目立った動きがない。「知らないふり」をするにはあまりに大きな事件なので、きっと「息を潜めて」検察の出方をうかがっているのだろう。しかし当該大物議員が事情聴取されたり、逮捕されるようなことになれば、総選挙を直前にした政界大騒動に発展することは間違いない。

 問題はそのときの世論の動向だ。小沢元代表公設秘書事件のときのように、麻生内閣の起死回生につながるのか、それとも「なぜ民主党ばかりに捜査の手が及ぶのか」という反発が広がるのか、まったく予測がつかない。自民党にとっては法相の指揮権を発動してでも民主党にダメージを与えたいところだろうが、そうなると、検察が「公平性」を装う必要から、二階経産相の西松スキャンダル事件の再捜査に飛び火する危険性が出てくる。

 検察当局にとっても、民主党大物議員に手を伸ばすことは「一種の賭け」になりかねない。国民から選ばれた検察審査会が二階経産相政治団体の不起訴は「不当」だとしたことからみても、国民世論はこの間の検察当局の対応を決して認めているわけではない。民主党の郵政不正疑惑は免れないとしても、それ以上に「麻生内閣と検察当局はグルだ」という評価が広がると、検察当局への不信は取り返しのつかないものになる恐れがあるからだ。

 くわえて自民党民主党が何よりも恐れるのは、「自民も民主も一緒だ」という世論が広がることだ。それはまた、「2大政党制」によって保守政権を維持していこうとする財界にとっても好ましいことではない。「疑似2大政党制」を批判している革新第3極の政治進出につながると、彼らの戦略が崩れる「蟻の一穴」になりかねないからだ。

 となると、検察がニ階経産相の西松スキャンダル事件を不問にしたように、郵政不正事件についても民主党までには手を伸ばさいないで、官僚組織の不正操作事件程度でことを収めることが考えられる。あるいは総選挙が終わるまで捜査を長引かせ、結果が出てから逮捕起訴に踏み切ることもありうるだろう。自民党が政権を維持している場合は容赦なく逮捕するだろうし、民主党が比較第1党を獲得した場合でも、小沢氏と親しい大物議員の逮捕は民主党内の小沢人脈を断ち切る政治的契機になるかもしれない。

 しかし現在、考えられる最も過激なシナリオは、自民党麻生首相を降ろして次の新しい顔に変えた時期を見計らって、検察が総選挙前に民主党議員の逮捕起訴に踏み切り、一気に「政権交代」の芽をつぶすというものだ。でもこれは「大バクチ」ともいうべき荒っぽい手法なので、その政治的リアクションがどう起きるかは推測の域を超える。

 いずれにしても、郵政不正事件は国民にわかりやすい事件だけに、検察当局は曖昧な決着をつけることは許されないだろう。「灰色決着」をすれば、国民の政治不信、体制不信はますます広がるだろうし、「白黒」をつければ、「2大政党制」に傷が付く。国家権力としては、悩ましい政治判断を迫られる事態である。