(疑似)地域新党は統一地方選で躍進する、しかし統一地方選後には失速する、(名古屋トリプル選挙の衝撃、その5)

 3月4日、注目の名古屋市議会「出直し選挙」がいよいよスタートした。選管発表によると、立候補届け出数は、前回2007年4月の98人を大幅に上回る138人になった。党派別の内訳は、民主27(解散前議席27)、自民24(23)、公明12(14)、共産16(8)、減税日本41(1)、みんなの党8(0)、無所属10(0)というものだ。また新旧別の内訳は、前職59、新人76、元職3というから、前元職62人をはるかに上回る新人76人が大量立候補したことになる。これからは、市内16区・定数75の議席をめぐって大激戦となることは必至だろう。

いうまでもなくこれら新人の大量立候補は、地域新党・減税日本の新人40人の“なだれ込み立候補”によるものだ。これにみんなの党8人、無所属10人の新人が加わったのだから、事態は「乱立状態」を通り越してもはや「大混乱状態」にあるといわなければならない。いわば減税日本が仕掛けた「出直し選挙」という嵐のなかに既成政党のいずれもが巻き込まれ、名古屋地方に“天変地異”が起こっているのである。

こうした新人の大量立候補が、従来の政治争点だった「保革対立」を「新旧対立」に塗り替えつつあることもこれまでには見られなかった新しい政治現象だといえる。減税日本・河村代表は告示にあたっての談話で、「しがらみの現職(前職)ではなく減税日本の候補をぜひ応援下さい。日本の政治の閉塞(へいそく)感を打ち破ろうと名古屋市民が日本で初めて立ち上がりました。政権交代の時代から庶民のための議員交代の時代へ。議員報酬半減、減税継続。現職へ投票では何も変わりません」と述べた(朝日3月4日)。

もし 河村代表が新人の大量立候補によって「保革対立」に代わる「新旧対立」を意識的に打ち出しているとするなら、彼の政治戦略はなかなかのものだといわなければならない。なぜなら、減税日本が比較的少数の候補者擁立に終わっていたなら、このような「新旧対立」「新旧交代」のイメージを有権者に印象付けることはできなかったからだ。

だが河村代表は、新人の大量立候補によって長年オール与党体制のもとで甘い汁を吸ってきた民主・自民・公明などの保守与党はもとより、野党だった共産党までを「旧勢力」の位置に追いやることに成功した。そしてこれら「既成政党=旧勢力」を刷新するのが「地域新党=新勢力=減税日本」だという選挙構図をつくりあげたのである。

しかし、全ての「新勢力」に勢いがあるわけではない。この大混乱状態のなかで「旧勢力」以上に泡を喰っているのが、この統一地方選をバネにして次の国政選挙での躍進をもくろんでいる「みんなの党」だ。みんなの党は生れたばかりの「新勢力」であるにもかかわらず、なぜか名古屋では「旧勢力」並みの扱いをされているらしい。場合によっては、みんなの党減税日本という名の「トンビに油げをさらわれる」ことになりかねない。

全国(世論調査)での政党支持率が比較的高いにもかかわらず、みんなの党が名古屋ではあまり人気がパッとしないのはなぜか。それは、みんなの党民主党自民党と同じく「中央政党=既成政党」とみなされていて、次第にその新味を失ってきているからだ。言い換えれば、「中央政党=既成政党」に対する庶民(有権者)の不信感や反感がそれほど強いということだろう。

既成政党に対する不信感は、自民党政権末期の醜態と政権交代後の民主党政権の混迷ぶりによってこの間決定的なものになった。支配層の推進する「保守2大政党制」のヴェールがはがされ、「民主党自民党=中央政党・既成政党=同じ穴のムジナ」という素顔が国民の前にくっきりとあぶり出されたからだ。

みんなの党は、目下のところマスメディアで持ち上げられることで一定の支持率を維持しているものの、保守2大政党制に代わる改革イメージをなかなか打ち出せないでいる。地方選挙でも、民主党自民党と大同小異の政策しか掲げられないのはこのためだ。これでは「みんなの党もみんなと一緒だ」ということになってしまう。

この点で内容はともかく、減税日本は“外形”だけでも「地域新党」という新しい政党体制のイメージアップに成功した。そして地域新党の賞味期限の切れない今回の名古屋市議会「出直し選挙」では、過半数を制するかどうかは別にしておそらく躍進することは間違いない。またそのあおりを受けて、既成政党が保革を問わず押し並べて議席後退を強いられるのは確実な情勢だ。

だが問題はその先にある。河村代表は名古屋トリプル選挙の勢いを駆って、目下、東京都議選や区議選、三重県知事選、次期衆院選などへも減税日本の推薦候補擁立に乗り出している。苦境に立たされている小沢氏や小沢派議員との接触など、地域新党をベースにした中央政党・全国政党の結成も視野のうちに入れている。

また一方では、小沢派の原口前総務相が「佐賀維新の会」を立ち上げ、同時に「日本維新の会」を結成して各地域の地域新党との連携を目指して動いていることもある。こんな情勢をみると、全国各地に地域新党がそのうち続々と誕生し、やがては次の選挙で落選確実の民主党議員の「受け皿」ともなって、短期間のうちに政界再編の一翼を担う全国政党が結成されるとの推測も成り立つ。

でも私は、減税日本が全国政党になった瞬間から(疑似)地域新党の正体が明らかとなり、既成政党視されることによって急速に失速すると考えている。橋下大阪府知事は地域新党の全国政党化には慎重だと伝えられるが、ひょっとすると同じようなことを考えているのかもしれない。(つづく)