広域連合に反対する市町村の声を無視する一方的報道、河北新報はいかに復興を提言したか(5)、(震災1周年の東北地方を訪ねて、その31)

 震災を契機に東北各県に「東北再生共同体」(広域連合)の創設を提言する河北新報は、関西広域連合の他、2010年10月に「九州広域行政機構(仮称)」の設立に合意した九州地方知事会、2012年2月に「四国広域連合(仮称)」の発足を目指すことで合意した四国知事会などの動きを精力的に伝え、「東北は広域連合のバスに乗り遅れるな」とばかりの論陣を張っている(四国の備え/産業政策軸に連携を加速、6月6日)。

 だがその一方、この提言シリーズのなかでは、地元の東北各県市町村の声はもとより、全国各地での広域連合に反対する市町村の動きは全く取り上げられていない。しかし広域連合の目玉に予定されている「国の出先機関の地方移管」に対しては、この半年余りの間に驚くべき全国情勢の変化が見られる。インターネット検索で主なものを拾ってみるだけでも、次のような市町村のダイナミックな動きが浮かび上がってくる。

(1)2011年11月:28日に東北圏広域地方協議会が開いたシンポジウムにおいて、福島県相馬市の立谷市長は、政府が検討を進めている国土交通省地方整備局など国の出先機関の原則廃止に対して「時期尚早」と明言し、来年通常国会への法案提出に事実上反対の考えを表明した。立谷市長は「国の出先機関はいらないとの声があるが」と前置きした上で、「農林水産業、地元企業の再生に(国出先機関の)農政局、経産局は大きな役割を果たしている。支援は県だけでは無理だ。われわれの要望をどう実現させるか。地域主権議論は大事だが地に足がついた議論が必要だ」と加速する出先機関廃止の動きに強い懸念を示した。

(2)同11月:同じく29日に開かれた「安全・安心の道づくりを求める全国大会」でも、参加した四国、九州、関西各地区の基礎自治体の首長から、「県内市町村会は出先機関存続を決議した」(高知県内首長)、「九州知事会が(丸ごと移譲を)決めても、(市長会や町村長会、関連議会長会含め)6団体が決議したわけではない」(九州管内首長)、「大規模震災には国の役割が必要であり、道路などインフラ整備は国防。国防の役割は国が担うべき」(大阪府奈良県内首長)など、出先機関存続を求める声一色に染まった。(建設通信新聞、2011年11月30日)

(3)同12月:宮城県南三陸町の佐藤町長は6日、民主党地域主権調査会(海江田万里会長)において、被災後の東北地方整備局対応を踏まえ国の出先機関の必要性を訴えた。佐藤町長は関西の自治体含め多くの支援に感謝の意を示した上で、道路、鉄道、電気、通信などすべてが遮断され庁舎も被災した中、「東北地方整備局自衛隊が活動を行うための道路啓開だけでなく、衛星電話は関東地整、資機材を北陸地整から調達してもらい、仮設庁舎も早期に建設してもらった」と今回震災での地方整備局の役割を評価した。
その上で「大規模災害に対しては強力な組織が必要。国交省については災害のプロだと改めて痛感した」と述べ、大規模・広域災害が発生した場合、「権限を移譲された地域が被災した場合に災害対応が可能かどうか疑問」と疑問を投げかけ、政府が検討を進める『出先機関の廃止に伴う事務・権限のブロック単位での移譲』に事実上反対を表明した。出先機関廃止撤回を求める市町村長は数多く存在しており、同党にとって難しい議論が続くことは確実だ。(建設通信新聞、2011年12月8日)

(4)同12月:全国の市町村長が12月上旬に国の出先機関の維持・拡充を求める「地方を守る会」(代表世話人新潟県三条市国定市長)を結成し、会員は1ヶ月足らずで約120人に達した。同会は27日経済産業省国土交通省などに対して、「東日本大震災や台風災害などで地方整備局や地方経済産業局が市町村と一体となって救援活動やインフラ・産業復旧などを行い、地域における国の出先機関の役割が改めて認識された」「国が現在進めている出先機関の廃止や地方移管は、地域や住民の安全を軽視するものと言わざるを得ない」などの要望書を提出した。三条市には、福島県南相馬市浪江町富岡町大熊町原発災害避難者の仮設住宅がある。(伊勢新聞、2011年12月28日)。

(5)2012年1月:全国市長会地方分権改革検討会議(座長・石垣新見市長)が24日都内で開催され、内閣府地域主権戦略室次長の望月達史氏が『地域主権改革の動向』について説明したが、これに対して各地方の市長から国の出先事務所廃止などを掲げる民主党政権地域主権改革に対して不満が噴出した。とりわけ被災した東北地方の市長からは、「地域主権の『地域』とは県ではない。基礎自治体である。それを踏まえて議論してほしい。市町村の意見を聞いてほしい。震災後は、東北の地方整備局や経済産業局、農政局にお世話になった。県と話をしても進まない。地方整備局の廃止には東北の市長全員が反対している」との強い意見が出された。意見を受けた内閣府の望月氏は、「市町村長との意見交換の場を設けようと思っている」との考えを明らかにした。(日本工業経済新聞、1月25日)

(6)同3月:全国約450市町村長(基礎自治体の1/4)の参加する「地方を守る会」(代表世話人・国定新潟県三条市長、代表幹事・立谷福島県相馬市長)は3日、都内で総会を開き、野田政権が進める国の出先機関改革について「市町村の意見を十分に聞き、拙速に廃止論を進めないよう要望する」と決議した。
 総会では、山本岩手県宮古市長が東日本大震災の被災自治体を代表して「災害復旧や物資の輸送など業務の枠を超え被災自治体を支援してくれた。出先機関は欠かせない存在だ」との意見を述べた。さらに更谷奈良県十津川村長も昨夏の台風12号の経験を踏まえて、「村に災害対策本部を設置しても役場に登庁できたのは職員の6割程度。何をやれば良いか分からない中、国土交通省の職員が的確に対応してくれた。現段階の議論では、(出先機関廃止に)断固反対である」と続けた。
ほかの出席者からも「東日本大震災では出先機関の役割が大きく、速やかな復興に欠かせない」「国土形成には国が責任を持つべきだ」といった声が相次ぎ、最後に司会の立谷南相馬市長が共通する意見として、「東日本大震災や台風災害にあたって.職員や機材を全国動員して不眠不休で市町村をバックアップしてくれた地方整備局の果たしてきた役割には安心感がある」「関西広域連合や九州広域行政機構への移管ということになると、市町村・県・広域行政・国という4重行政になってしまう懸念がある」「そもそも地方分権地域主権)はわれわれ基礎自治体が中心になるべきだ」「国の出先機関の地方移管は基礎自治体の首長の意見も聞いておらず拙速である」といった4点にまとめられるとした。(朝日新聞他、2012年3月4日)

(7)同年5月:東北地方の75市107町30村で組織する東北国道協議会(会長・谷藤盛岡市長)は9日、12年度総会を開き、国土交通省の地方整備局を廃止しないよう国に要望することを決議した。同協議会は、東日本大震災東北地方整備局など出先機関が果たした役割を十分に検証した上で慎重に対応することが必要だとしている。決議では、東日本大震災のような大規模災害に対し、全国規模で広域的かつ機動的に対応できる体制を確保するためにも、地方整備局を廃止するのではなく逆に機能を充実・強化していくことが求められるとした。このほか震災の被災地の復興が長期間にわたることを踏まえ、復興に必要な予算を国が責任を持って長期的・継続的に確保するよう要望した。(建設工業新聞 2012年5月10日)

このような東北地方の市町村の動きをみる限り、「震災を経験し復興を進める中であらためて道州制の必要性を痛感した」と述べた村井知事の発言がいったい如何なる根拠に基づいているのか疑わざるを得ないが、皮肉なことに「東北再生共同体」の虚像を打ち砕く決め手になったのは、河北新報のシリーズが終わった直後の「出先機関移管不透明に」「広域連合手詰まり感」「市町村の反対誤算」との見出しを掲げた日本経済新聞記事だった(2012年6月16日)。(つづく)