憲法96条改正を前面に出した作戦は誤算だった、「憲法改正」に関する世論が激動している(その1)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(5)

 ここしばらくは、東日本大震災の「3年目の復興の現実」をまとめるため、原稿書きに没頭していた。近く発刊が予定されている共著で私だけが遅れに遅れていたので、5月連休もうわの空だった。「脱稿」という言葉があるが、状況はまさにそれにふさわしい。明けても暮れてもその事ばかり考えているのだから、ブログの方へはなかなか手が回らない。この状態から抜け出す(脱出する)ためには、とにかく原稿を仕上げる他はない。これが「脱稿」の意味だ。

 でも今日の未明に何とかけりを付けたので、これからは久し振りでブログの世界に戻れる。そんなことで、この間、積み貯めていた各紙のスクラップを改めて読み返してみた。だが驚いたことには、4月末から5月上旬にかけて憲法改正に関する世論動向がガラリと変わっているではないか。そのターニング・ポイントが5月3日の「憲法の日」だった。

 私も寄稿者のひとりである『リベラル21』(東京在住のジャーナリスト集団の同人ブログ)に、デスクの岩垂弘氏が「新聞各紙の八割近くが憲法96条の改定に反対、憲法記念日の社説を点検する」という注目すべきブログ(5月13日)を書いておられる。氏は、国立国会図書館で閲覧できる北海道から沖縄までの全国53紙(うち社説欄のあるのは46紙)に悉く目を通して、以下のような分析をされた。

 (1)社説欄のある46紙がすべて96条改定問題を論じていた。その論調を大まかに分類すると、「改定賛成」が6紙、「論議を深めよ」といった中立的な立場が5紙、「改定反対」が35紙であった。つまり、「改定賛成」13%、「中立」10%、「改定反対」76%という色分けだった。

 (2)改定賛成は、全国紙3紙(読売、産経、日経)、地方紙3紙(北国、中部経済、富山)であり、その論旨は全体として「9条も96条も改定」というものであり、その入り口として96条の改定を支持するというものだった。

 (3)96条改訂反対の主な理由は3つである。第1は、96条改定は日本国憲法が立脚している「立憲主義」を根底から破壊するという主張。第2は、憲法改定の本当の狙いが9条改定にあるのに、それを前面に出さずに96条改定を出してきたのは「なんとも姑息だ」というもの。第3は、「96条改定より先にやることがあるではないか」という主張である。

 (4)第3の主張は、東日本大震災で未曾有の被害を受けた東北各紙の社説や米軍基地移転問題に直面する沖縄各紙で目立った。福島民報は「東日本大震災と東電第1原発事故の発生以来、住民の自由や権利が脅かされる状況が依然として続く。25条で掲げられた<健康で文化的な最低限度の生活>をまず回復し、しっかり保証していくのが国や政治家の役目ではないか。自民党憲法改正案を昨春決めた。参院選の争点にするという。被災者の苦しみをそっちのけにした論議では困る」と書いた。

 また琉球新報は「改憲派は『押し付け憲法』を批判するが、それなら占領軍の権利を事実上残した日米地位協定を抜本改定するのが先であろう。沖縄は全首長が反対してもオスプレイを押し付けられた。平和主義はもちろん『国民主権』も『基本的人権の尊重』も適用されていない。まずは現憲法の3原則を沖縄にもきちんと適用してもらいたい」と書いた。

 これまで、憲法改定問題は主として憲法9条をめぐる攻防を中心に展開されてきた。「9条の会」が全国に広がり、その影響で9条改憲の動きが一時止まったのは画期的だった。しかし中国や韓国との間で領土問題が持ち上がり、くわえて北朝鮮のミサイル発射や核実験の危険が現実のものになってくると、国民の護憲意識に大きな変化が生じたことは否定できない。それが4月8日発表のNHK世論調査ではっきりとあらわれていた。

 このNHK世論調査の質問設計はなかなか巧妙だった。憲法9条に関する具体的な質問は避けて、「今の憲法を改正する必要があると思いますか」との一般的な質問に換えて「必要あり」39%、「なし」21%との回答を引き出し、また96条の改憲要件2/3を1/2に緩和することに関しては「賛成」28%、「反対」24%、夏の参院選憲法改正を目指す勢力が改正に必要な2/3以上を占めることについては「肯定」57%、「否定」32%との結果も出ていた。

 だが、改憲勢力憲法9条を避けて96条に狙いを定めたことは、却って裏目に出た。憲法は国民を縛るためのものではなく、国家権力を縛るためのものだという憲法の本質が、96条を選挙争点に乗せることによって始めても国民的議論になったのである。これは2004年に「9条の会」が発足したことに引き続く“護憲運動の第2の画期”になるかもしれない。(つづく)