橋下維新の存亡が懸かる堺市長選、『リベラル21』の再録(その1)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(23)

 「京都96条の会」の結成に向けての準備が一応軌道に乗ったので、8月と9月の2ヶ月間は改憲策動の先頭を切る橋下維新について書きたい。というのは、9月15日告示、29日投開票の堺市長選において、維新は「大阪都構想反対」の態度を明確にした現職の竹山市長と一騎打ちとなり、維新がこの選挙に敗北すれば堺市の参加が前提となる「大阪都構想」が破綻し、延いては維新の政治基盤そのものが崩壊する可能性があるからだ。

 私はこの間、本ブログと並行して『リベラル21』に何回か堺市長選に関するコメントを寄稿してきたが、『リベラル21』は十数人が交代で執筆する同人ブログなので、短期間に情勢が展開する市長選のようなテーマは掲載が難しい。そこでこれまでの寄稿分を本ブログに再録し、引き続いて新たなコメントを書き加えていきたい。

【再録】
浮遊する野党再編の表裏、橋下維新は果たして堺市長選に勝利できるか、左派はすべからく「中道リベラル」にウイングを広げるべきだ(その2)〜関西から(110)〜

 参院選後の政治動向のなかで、各紙の紙面をもっぱら賑わしているのは野党再編をめぐる動きだろう。その主たる発信源が細野(民主)・松野(維新)・江田(みんな)3氏による「話し合い」であり、それをめぐって各党内部で複雑な綱引きが始まっている。その動向が新聞記事になるぐらいだから、すでに水面下では各党とも相当生臭い動きが進行しているのだろう。

 しかし、野党再編と言っても単なる政党の数合わせにすぎない「野合」もあれば、政治理念や政策目的のすり合わせにもとづく「結集」もある。目下のところ、政治理念や政策コンセプトのはっきりしない「中道もどき」の民主を中心に「極右」(維新)と「新保守」(みんな)が絡み合って事態が進行しているので「訳がわからない」様相を呈しているが、これら野党再編の裏側にある政治的背景を関西を中心に分析してみたい。

 まず最も華々しい動きを見せているのが、みんなの渡辺代表と江田幹事長の対立だ。だが、みんなはすでに参院選前から橋下発言を機に維新と袂を分かった渡辺代表と維新との協力関係を維持したい江田幹事長との間には抜き差しならない対立が生じており、それが選挙後に再燃したまでのことだ。渡辺氏は維新との合流によって橋下・江田氏に主導権を奪われることを恐れているというが、このままでいくとみんなが分裂し、江田氏が相当数の議員を引き連れて維新と合流することさえが囁かれている。

 維新は、共同代表の石原・橋下両氏が犬猿の仲であることは周知の事実だが、両氏が(それぞれ)意図する「次の再編」への目途がまだ立っていないので、目下休戦中というところだ。しかし明白なことは、橋下氏がみんなや民主党の一部(改憲派)との再編を目論んでいるのに対して、石原氏は自民党への復帰を画策しており、旧太陽系の平沼氏(維新国会議員団長)や片山氏(同参議員団長)がその地均しを進めているのだという。

 関西のマスメディア関係筋から聞いた話によると、今回の参院選では岡山選挙区に維新候補の姿はなかった。岡山選挙区といえば平沼氏と片山氏の盤石の地盤であり、維新の幹部である両氏が候補を立てようとすれば「当選間違いなし」と言われた選挙区だ。しかし両氏は維新候補の擁立を見送り、自民党候補(前知事)を実質的に応援して「貸し」をつくった。これは、いずれ旧太陽系(立ち上がれ日本)議員が自民党へ復帰するための「手土産」だといわれている。

 一方、橋下氏は、都議選と参院選が終わったことで石原氏の利用価値はもはやなくなった(次期選挙まで石原氏の体力が持たないので引退する)とみなしている。しかし、みんなや民主党一部との再編見通しがつかないので、当分は「模様眺め」のスタンスのようだ。形式的には代表辞任を表明したものの辞任はせず、「大阪に集中したい」という名目で石原氏との距離を置く姿勢を明確にした。しかし、橋下氏が「大阪に集中=国政に関与しない(できない)」裏側の理由は別のところにある。それは、間近に迫った堺市長選(9月15日告示、29日投開票)のことだ。

 この堺市長選は、橋下氏にとっては負けられない戦いになる。もし「橋下を裏切った」現職の竹山市長の再選を許すとなると、堺市の参加が前提となる大阪都構想を実現できず挫折する恐れが出てくるためだ。そうなると、全国的な維新の落ち目が大阪にも波及することになり、大阪都構想を基盤に次期総選挙(あるいは衆参同時選挙)に国政に打って出ようとする橋下氏の戦略が大きく狂うことになりかねない。

 だが、橋下氏にとって堺市長選は決して楽観を許さない。現職の竹山市長が自民・民主に推薦を依頼し、公明にまで手を伸ばそうとしているからだ。まず2013年参院選(選挙区)の堺市内の政党別得票数・得票率をみよう。これによると、維新・公明で17万4千票(50%)、自民・民主・共産で14万9千票(43%)となって、維新側の勢力が大きい。

 ・維新 10万1000票(29.1%)、公明 7万3100票(21.2%)
 ・自民  7万3400票(21.2%)、民主 3万1200票(9.0%)
 ・共産  4万3900票(12.6%)、その他2万4500票(7.1%)
 ・計  34万7000票(100%)

 周知のごとく公明は、維新が進める大阪都構想の制度設計を行う法定協議会設置に賛成した見返りに、昨年12月の総選挙において維新と選挙協力を結び、大阪府内4選挙区すべてで議席を得た。大阪市議会においても維新提案の「市政改革」案にほとんど賛成し、橋下与党としての役割を果たしてきた。したがって、参院選の結果をそのまま堺市長選に当てはめると、維新・公明の得票は過半数(50.3%)に達し、維新側が市長選を制することになる。

 だが首長選とは面白いもので、支持政党の得票率がそのまま首長選の勝利に結びつくとは限らない。多数の議員を選ぶ政党選挙とは違って、たったひとりの首長を選ぶ選挙には独特の政治力学が働き、場合によっては政党選挙とは全く異なる結果を生むことも多いからだ。しかも堺市長選の場合は、大阪都構想の是非すなわち「堺市の消滅の是非」が最大の選挙争点になる首長選挙だから、全く予断を許さないというべきだろう。

 すでに現職の竹山市長は、「大阪都構想で堺が消滅し、分割された場合のデメリットと、政令市ならではのメリットをしっかりと市民に訴えていきたい」と明確に大阪都構想反対の態度を表明しており、「大阪都構想政令堺市の消滅」が最大の選挙争点に浮上することは確実だ。選挙予想するには少し早いかもしれないが、私はこの堺市長選で橋下維新が敗北し、それを契機に大阪でも一挙に維新の崩壊が始まるものと確信している。そして維新の敗北は、民主・維新・みんなを軸とする野党再編の行方にも大きな影響を与えるだろう。次回はその根拠を説明したい(つづく)。