公明党は堺市長選でどっちに付くか、『リベラル21』の再録(その2)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(24)

 堺市長選で勝敗の帰趨を握るのが公明党だ。公明票の特徴は幹部の指示でどちらにでも動くことだ。いわば巨大な「投票マシーン」といってもよい。その公明党が橋下維新から総選挙での「借りを返せ」と迫られている。公明党が候補の候補を立てる選挙区には維新が候補を立てないことを約束し、その代わり公明党大阪市議会で橋下市政改革案に賛成するとの政治取引をしたからだ。

 だが堺市民の眼の前で橋下維新と手を結ぶことは、「大阪都構想堺市潰し」に手を貸すことになる。こんなことをすれば、堺市公明党は市民の批判を真っ向から受けることになる。さすがの公明党も今度ばかりは「困った」と言うわけだ(あるいは困った振りをしている)。本稿は公明党の生態に関する分析である。

【再録】堺市長選で橋下維新が勝利できない理由、左派はすべからく「中道リベラル」にウイングを広げるべきだ(その3)〜関西から(111)〜

 「参議院選挙をメディアはどう伝えたか、選挙報道の総括と選挙後の政治の動向を占う」というテーマで、「京都ジャーナリスト9条の会」の講演会が7月30日夜に開かれた。講師は日比野敏陽氏(京都新聞社会部デスク、新聞労連委員長)、政井孝道氏(元朝日新聞論説副主幹)の両氏、飛び入りで柴田徹治氏(元朝日新聞科学部長、論説委員)が参加されるなど、豪華メンバーによる講演会(討論会)となった。詳しい内容はいずれ報告されるので、ここでは本ブログと関係ある政井氏の報告に話を絞りたい。

 政井氏は、朝日大阪本社で長年地方自治編集委員論説委員として活躍してきたベテラン記者で、私も以前からいろんな研究会で議論を交わしてきた間柄だ。また出身高校が同じということもあり、その気さくな人柄にひかれてこれまで親交を結んできた。その政井氏が報告した「(参院選後の)政治地図の変化と維新の会の今後」という内容が、前回の私の堺市長選の分析とドンピシャリ重なったのだから心底から驚いた。

 政井氏は朝日新聞堺支局長を務めた関係から、竹山氏に敗れた木原前堺市長とも交流がある。私のブログにはなかった新しい情報は、前市長が依然として再出馬の意向を捨てていないことだという。もし前市長が出馬するとなると、堺市長選は現職、前職、維新候補の三つ巴となり、維新候補が当選する可能性が高くなる。この指摘には度肝を抜かれたが、問題は前市長の個人的意向はともかく、それを支持する勢力がどれだけ存在するかどうかだろう。この点については、今後注目しなければならない重大なポイントだと思う(この情報はその後の調査で実現性がないことが分かった)。

 前置きはこのぐらいして本題に入ろう。前市長の再出馬問題を一応ペンディングにして考えると、やはり勝敗の帰趨を握るのは公明党だ。公明は橋下市長の当選以来、大阪市議会では恥ずかしいほどの与党ぶりを発揮してきた。常に万年与党の位置を確保して「現世利益」を追求するというのが公明の変わらぬ体質だが、公明が橋下市長にことさらすり寄るのは別の理由がある。それは総選挙で維新との競合を避け、議席を確保するためだ。

 周知のごとく公明は2009年総選挙において歴史的な敗北を喫し、大阪小選挙区では北側幹事長をはじめ4議席全てを失った。大阪は全国で最強を誇る創価学会の一大拠点だ。そうでありながら最高幹部の北側氏(堺市が地盤)を失ったことは最大の恥辱であり、それ以降、大阪における議席回復は学会・公明挙げての至上命題になった。そして、大阪市議会で橋下市長に協力することへの見返りに、国政選挙では競合しないというバーター取引が成立したのである。19小選挙区のうち維新が12議席を占めた2012年総選挙において公明が4議席を回復したのは、維新が公明との競合を避けて候補を立てなかったためである。

 こうした経緯からみれば、堺市長選においても公明が維新に協力するのは当然ということになるが(維新の松井幹事長はそう主張している)、そこは「一寸先が闇」の政治の世界だから必ずしもそうはいかない。すでにその予兆は大阪市議会でもあらわれており、橋下市政改革の「1丁目1番地」である水道事業の統合や地下鉄民営化など重要議案が公明の先延ばし作戦で見送りになるなど、次第にその亀裂が深まってきている。

 しかし橋下維新にとっての最大の問題は、9月15日の目前に迫った堺市長選の候補がいまだ決まらないことだ(8月1日現在)。首長選挙は候補者自身の資質や政策などが選挙に与える影響がきわめて大きい。にもかかわらず維新の候補がいまに至っても決まらない(決められない)ことは、もうそれだけで橋下氏の苦境を物語るものと言ってよい。なぜ決められないのか、理由は簡単だ。当選の見通しが立たないので、意中の候補者が尻ごみしているのである。

 選挙は大義がなければ勝てない。橋下維新は「大阪都構想」という大義を名目にしてこれまで各種選挙に勝ち抜いてきた。だが最近になって、唯一の旗印である「大阪都構想」のメッキがはげ落ちてきている。だから、選挙の争点が訳のわからない「大阪都構想の実現」か、“自治都市・堺”の伝統を引き継ぐ「政令指定都市・堺の擁護」かということになると、堺市民の選択はおのずから明らかになる。

 橋下維新が首長選挙で大敗した格好の前例がある。今年4月14日投開票の伊丹・宝塚両市長選だ。橋下維新が「大阪都=関西州」を目指す戦略から兵庫県下に乗り出し、手始めに伊丹・宝塚市の市長選に維新候補を擁立した。だが維新幹部が兵庫県にも「大阪都構想を広げる」と街頭演説をした瞬間から聴衆の雰囲気が一気に変わったという。その直後から「俺たちのまちを守れ」という大合唱が起り、維新候補は現職候補にダブル・トリプルの大差で惨敗したのである。

 おそらく堺市でも同様の現象が起るだろう。堺市民は自治都市の伝統を持つ誇り高い市民だ。それが自らの都市を破壊するような「大阪都構想」に賛成するわけがない。そして堺市が地盤の北側氏もこの世論を無視することはできないだろう。もし公明が維新に公然と加担すれば、次の総選挙でどのようなリアクションが返ってくるかをよく知っているからだ。

 公明はおそらく「自由投票」にするのではないか。どっちつかずの「蝙蝠(こうもり)政党」という名にふさわしい方針である。しかし、市民はこれで「公明が維新とは手を切った」とみなすだろう。そして維新大敗の“雪崩現象”が起るに違いない。京都ジャーナリスト9条の会の終了後、政井氏とは「堺市に行って結果を見届けよう」と約束した。その日が来るのが楽しみである。