橋下維新が首相官邸にすり寄るのはなぜか、堺屋太一氏の内閣官房参与の就任が意味するもの、『リベラル21』の再録(その4)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(26)

 『リベラル21』が混み合っている所為か、本ブログが遂に「再録」を追い越してフライイング掲載になってしまった。これでは「再録」とはいえないのであるが、いずれ掲載されるだろうからお許しいただきたい。今回の主題は、橋下維新と安倍政権の関係である。

 過日、本ブログに対して厳しいコメントがあった。それは堺市長選に対する情勢の読みが甘くて「噴飯もの」だというもの。理由は、安倍政権が橋下維新を応援していることを考慮に入れないで選挙情勢を分析しているとの指摘である。確かにそう誤解されても仕方がないような箇所もあったが、一言反論するとすれば、それは橋下維新が対決する「大阪の自民」は、首相官邸(安倍政権中枢部)とは名前は同じ「自民」であっても、もはや中身が全く違うということだ。平たく言えば、大阪の自民は「旧保守」、首相官邸は橋下維新と同質の「ネオコン(新保守)」であり、しかも札付きの「極右+新自由主義」の集団なのである。

 だから、首相官邸堺市長選で橋下維新を応援したいのは山々なのだが、自民はまだ「旧保守」と「ネオコン(新保守)」に分裂していないので、安倍政権は建前上橋下維新を推すわけにはいかない。その「ねじれ現象」を解く鍵が橋下維新のブレーンである堺屋太一氏の内閣官房参与(安倍政権のブレーン)への就任である。

【再録?】堺市長選で自民と対決しながら、橋下維新が首相官邸にすり寄る不思議、堺市長選は“天下分け目の大決戦”になる(その2)〜関西から(113)〜

 橋下維新の動きには不可解なことが多い。その極めつきが今回の堺市長選をめぐる対自民の政治姿勢だろう。8月10日の日経新聞によれば、「日本維新の会は秋の臨時国会をにらみ、憲法改正のための国民投票法の改正や道州制の導入などで、自民党に協議を要請する方針を固めた」というのである。その背景には、「衆参両院で主導権を握る自民党と連携して改革の実績を重ね、党勢の立て直しにつなげたい考えだ」ということがあるらしい。また「橋下徹共同代表(大阪市長)は首相官邸との連携に期待する」との態度表明を(抜け抜けと)したそうだ。堺市長選では表向き自民と激突しながら、その裏では首相官邸にすり寄って自民との国会協議を持ちかける、こんな複雑怪奇な維新の行動をどう読み解けばいいのか。

 日経新聞は、こうした橋下維新の官邸寄りの動きを野党勢力の結集を目指す姿勢との「矛盾」としてとらえている。だが、この見方は明らかな(意図的な)間違いだ。維新が目指す野党結集はもともと「野党再編」が目的なのではなく、「政界再編」の手段としての野党結集なのだ。つまり橋下維新の野党結集の狙いは、自民に加担するための政界再編の推進なのであり、それも改憲道州制を断行する「ネオコン(新保守)型専制政治」(極右+新自由主義)を旗印とする政界再編なのである。

 そう言う視点からすれば、現在の野党再編の流れはおよそ3つにわけることができる。第1は、橋下維新が目指す「ネオコン路線」の野党結集である。この流れは、安倍政権と基本政策を共有し、みんな(江田派)及び民主(前原氏など改憲派)と連携して「専制政治」を実現しようとする最も危険な潮流であり、かつ現在の最も有力な潮流でもある。第2は、民主(海江田氏など非改憲派)が中心となって保守2大政党制を復活し、「保守補完型政治」を再建しようとする中道右派の流れである。第3は、自民と対決して「革新政治」を実現しようとする左派(共産)あるいは中道左派(社民など)の流れである。だが第1の流れが急速な展開を見せているのに対して、第2、第3の流れはまだ影も形も見えない。

 橋下維新は大阪自民を分断して生まれたために、表面的には「反自民」であるかのように見える。しかし、この表現は必ずしも正確だとは言えない。「オール与党」体制のなかの保守政治に基盤を置く自民に満足できない急進分子が、「ネオコン(新保守)=維新」として自民から分裂したといった方が正しい。したがって維新が抜けた後の大阪自民は「旧保守」となり、それが「大阪都構想」など急進的市政改革に反対して「新保守=維新」と対決する構図が生まれているのである。

 こう考えてくると、橋下維新が大阪では「反自民」を掲げて旧保守と対決しながら、国会では「ネオコン専制政治」(極右+新自由主義)を推進する安倍政権にすり寄っても何らおかしくない。政治路線としては、堺市長選で橋下維新と安倍政権が互いに連携して大阪自民(旧保守)に対抗しない方がむしろおかしいといわなければならない。たださすがに、このような性急な行動は自民全体の分裂を引き起こしかねず、また安倍政権の政治基盤を揺るがしかねない危険性を孕んでいる。そこで考え出された一手が維新顧問の堺屋太一氏の内閣官房参与への起用であり、そのことを誰よりも喜んだのが橋下氏だった。堺屋氏の参与就任の感想を求められた橋下氏は、「心強い。維新と官邸が直結する重要な役割を担ってもらえる」(日経8月10日)と大歓迎し、安倍政権との親密な関係を追求する態度を明らかにしたのである。

 それでは、安倍政権が堺屋太一氏をわざわざ内閣官房参与に起用した狙いは何か。ひとつは、連立政権を組みながらも改憲に消極的な公明を牽制するため、橋下維新を「改憲別働隊」として起用し、民主・みんなの改憲派を糾合する役割に当たらせるためであろう。堺屋氏は、安倍政権と維新・民主・みんなの改憲勢力との間の連絡調整に当たり、安倍政権が(公明を切り捨ててでも)改憲を断行する際の“軍師”の役割を与えられたのではないか。

 もうひとつは、橋下維新が堺市長選で敗北したときの「救命ブイ」の役割だ。堺市ではかって「オール与党」体制を担った自民・民主を中心に「旧保守・中道右派連合」が形成されている。これに完全野党の共産が「敵の敵は味方」として(勝手連として)加わったのだから、戦線は「ネオコン VS その他連合軍」に二分され、文字通り“天下分け目”の決戦の様相を呈している。しかし維新候補の堺市議は橋下氏の単なる「ロボット」にすぎず、堺市長選は事実上の「橋下代理選挙」として展開されるわけであるから、堺市長選の敗北はすなわち「橋下氏の敗北」として彼の政治責任に直結することになる。
 
加えて、橋下維新の敗北は「大阪都構想」の破綻を意味し、それ以外に政策らしい政策がない維新にとっては政党としての存立基盤が無くなるという致命的打撃を与える。維新が「大阪都構想」の全国版として道州制を提唱しては見たものの、自治体首長など自民党内の旧保守勢力の抵抗に遭って実現の見通しは立っていないので、このままでは「改憲別働隊」としての役割以外に橋下維新の存在意義が無くなってしまう。しかし、改憲のための「捨て駒」として橋下維新の利用を考えている安倍政権にとっては、このまま維新が消えてしまう事態だけは避けなければならない。そこで民主・みんなの改憲派を糾合して政界再編を推進し、そのなかに橋下維新を巻き込んで救済するというシナリオが浮上する。堺屋氏はその場合、維新の「救命ブイ」としての役割を期待されているのである。(つづく)