橋下維新が自民党を批判できない理由、民主党・共産党に攻撃を集中する理由、堺市長選の分析(その2)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(32)

 タウンミーティングでの橋下氏の演説で気がついたことは、堺市長選で対決しているにもかかわらず、その主力である自民党に対しては一切批判をせず、側面勢力の民主党勝手連共産党を激しく攻撃することだ。また「自主投票」の公明党に触れない点も際立っている。

 自民大阪府連を分裂させて維新をつくった橋下氏からすれば、竹山市長を擁立する自民は「足下の敵」そのものだ。維新堺市議の多くも自民出身であり、今回の維新候補も自民党国会議員秘書から堺市議となった人物である。かっては同じ政党に属していた人たちが敵味方に分かれて争うのだから、「骨肉の争い」になっても何らおかしくない。ところが橋下氏は竹山個人を激しく批判するものの、竹山市長を擁立する自民に対しては一切批判らしい批判を口にしない。いったいなぜなのか。

 9月3日に竹山市長が推薦依頼のために石破自民幹事長を訪れ、「脈があった」と語ったという。だが果たしてそうだろうか。新聞各紙によれば、首相官邸は維新を改憲勢力として利用するため、本音としては自民大阪府連が橋下維新と対決することを望んでいない、だから自民本部が推薦を出さない可能性も十分あり得ると観測している。下手に自民を批判して竹山陣営に推薦を出させるような事態は避けたい。これが堺市長選を控えて橋下氏が自民を批判しない(できない)第1の理由である。

 しかし、橋下氏が自民を批判しない本当の理由はもっと根深いところにあるのではないか。それは、橋下氏が自民党内の極右勢力(新保守)と手を組んで本格的なファッショ政党の結成を目論んでいるからだ。橋下維新にとっての安倍政権はまさに「希望の星」なのであり、内閣官房参与に起用された堺屋氏は安倍政権との「ホットライン」の役割を期待されている貴重な存在なのである。橋下氏からすれば、自民大阪府連に残った「古い自民」(旧保守)などは問題外であり、「批判に値しない」といったところだろう。

 次に、橋下維新が民主党を激しく攻撃するのはなぜか。大阪市職員基本条例や教育基本条例を制定して公務員を自分の意のままに支配しようとする橋下氏が、それに対していささかでも抵抗しようとする労組(市労連)バックの民主党を攻撃するのはそれなりに筋が通っている。だがタウンミーティングで見せた橋下氏の民主党に対する異常な敵意が、そのレベルをはるかに超えているのはなぜか。

 周知のごとく維新国会議員団のなかには、松野氏のように「民主・維新・みんな」の野党再編を熱心に追求するグループがいる。自民に(数で)対抗できる野党をつくろうとすれば、100人程度の議員を結集できる政党の組み合わせが必要であり、そのためには「民・維・み」を集めるしかないという考えだ。しかし、橋下氏は表向きこれら3党による野党再編を否定しないものの、心の底ではもう「さじを投げている」のではないか。だから野党再編は東京に任せて自分は大阪都構想の実現に専念するとして身を引き、むしろ堺屋氏をパイプとする安倍政権との連携にハンドルを切ったのである。民主党に対する容赦のない罵声は、橋下氏の心境の変化を示す何よりの証拠だといえよう。

 だが橋下維新の方向転換は、目下、堺市長選の勝敗のカギを握るといわれている公明党に対して微妙な影響を与えずにはおかないだろう。中央レベルでは「自公連合政権」を維持するため、公明は自民に選挙協力を通してこれまで数々の便宜供与を図ってきた。しかし安倍政権が橋下維新との連携を深め、改憲方向に前のめりになっていくと、自公連合にひびが入ることも可能性も生じる。公明としてはこの際維新を牽制しておくことが必要であり、そのためには堺市長選で公然と維新候補に肩入れすることは得策でない、と考えても不思議ではないのである。

 しかし堺市においては、維新と公明は抜き差しならぬ関係にあることも事実だ。創価学会の最高幹部であり国会議員でもある北側氏と元堺市議会議長(自民)で維新から衆院議員に当選した馬場氏は“昵懇の間柄”だとされている。両者の関係は、とりわけ北側氏が国交相時代にLRT(高性能路面電車)の導入をめぐって尽力したことを契機にして深まったとされており、今回の堺市長選においても「北側・馬場パイプライン」がどう機能するかが市長選の行方を占う最重要情報だと見なされている。

 こんな激しく揺れ動く堺市長選で、竹山陣営はいったいどんな戦略のもとに動いているのか。次回は、市当局と市議会幹部に直接聞いた話をもとに現職側の分析をしてみよう。(つづく)