タウンミーティングで浮かび上がった橋下維新の選挙戦略と選挙戦術、堺市長選の分析(その1)、改憲勢力に如何に立ち向かうか(31)

 8月29日から堺市内の7行政区で、「大阪維新の会・堺」の堺市長選に向けたタウンミーティング(計7回)が始まった。9月2日は第2回目のタウンミーティングの日、市内中心区(堺区)の市民会館で開かれるとあって野次馬的に見学に出かけた。橋下・松井氏など幹部が維新候補とともに総出で出演するというので、どんなことを話すのか念のために行ってみたのである。

 維新幹部が総出の選挙集会だから千人規模の大集会でもやるのかと思っていたら、会場は4階の大会議室で用意されていた椅子は僅か150席だった。参加者の数は最終的に250人程度になったが、それでもこれまでのタウンミーティングにくらべると小規模であることは否めない。集会の最中に「もっと大きい会場が取れなかったのか」との苦情が出たが、維新側の回答は「大ホール・小ホールが先約で取れなかった」というもの。でも玄関口の催し案内板には、各ホールとも空白で行事はなかった。

 橋下維新のタウンミーティングはいつも緊張感が漂う。例によって会場入口でいちいち持ち物検査があり(私もバッグを開けさせられた)、金属探知機のゲートを潜って胸に赤いシールを貼られ、会場に入るのだ。会場には眼光鋭い大阪府警SPと私服刑事が10人近く配置され、仁王立ちになって参加者を睨みつけている。私などはもうこれだけで強い抵抗感を感じるのだが、他の人々は案外平気なようだ。

 参加者がどんな人たちなのかざっと眺めてみたが、大阪の街頭演説で見られたような若者の姿はほとんどなかった。夜の集会だから大半が地元の高齢者(男女半々)が中心であり、それも70歳代の高齢者が目立った。地元選出の議員後援会会員で元商店主といったあたりであろうか。またサラリーマンらしい人たちの姿もほとんど見かけなかった。

 しかし橋下・松井氏とともに維新候補が登場すると会場は拍手喝さいで、橋下人気は依然として衰えていないことを感じさせる。また集会の進め方も巧みで、通常の選挙演説会の光景を予想していた私は一瞬面喰った。馬場氏(衆院議員)が司会を兼ねて、橋下・松井・維新候補の4人でいきなり座談会形式の討論を始めたのだ。時間は全体で約100分、うち橋下氏が1時間近くを喋り、合いの手を入れた松井氏が20分余り、肝心の候補者は10分も喋らなかった。その後で会場との質疑応答もあったが、このときも橋下氏の独壇場、要するに「橋下代理選挙」なのだ。

 座談形式の話の内容は実に興味深いものだった。橋下・松井両氏の掛け合いが中心で候補者は「頑張ります」というだけ(会場からは「候補者をもっと喋らせろ!」との声が上がったほど)だったが、その構図のなかに橋下維新の選挙戦略がくっきりと浮かび上がったからだ。それは橋下・松井両氏が大阪都構想の意義を語り、堺市の衰退を食い止めるためには大阪都構想に参加する以外に方法がないことを繰り返し強調するというものである。大阪府知事大阪市長堺市長が三位一体になり、堺市の経済成長を考える。でなければ、堺市単独での発展は不可能だと例の口調で断言する。目の前に大阪府知事大阪市長が生出演でそういうのだから、もうそれだけでも迫力があるのである。

 私は、これまで堺市政令市として発展するという地方自治の精神を訴えることで堺市民の共感を得ることができると考えてきた。大阪都構想に反対する竹山陣営の「堺はひとつ」・「堺を無くすな」のスローガンが有効だと思ってきたのである。だがしかし、目の当たりに繰り広げられる橋下・松井両氏の掛け合いに参加者が次第に引きこまれていく様子を見るにつれ、地方自治の建前論だけでは説得力が弱いのではないかと少なくない不安を感じた。

 なぜなら、堺市の中心である南海電車高野線堺東駅周辺地域の衰退は誰の目にも明らかであり、周辺商店街でのシャター通り化が日に日に進んでいるからだ。また駅ビルのキーテナントである高島屋百貨店の閉店も噂されており、堺区住民の懸念は決して架空のものではないのである。そんな現実を前にして、「堺市だけでは衰退を食い止められない。大阪府大阪市の助力が要る。阿倍野ハスカルの人気を堺市に持ってくるには大阪都構想に参加する他はない」と畳みかけられると、商店主ならずとも動揺するのは当然だろう。

 また、東京オリンピックの誘致を話題にして大阪都構想の必要性を煽った論法も光った。かって大阪がオリンピック誘致に失敗したのは、大阪市単独でやったからだ。東京が成功しそうなのは「東京都」だからだ。大阪もオリンピック誘致を成功させようとすれば、「大阪都」にして大阪府大阪市堺市が互いに協力する他はないという論法である。この例え話も参加者の心をいたく引き付けたようだ。そして、いつの間にかオリンピックのような(橋下氏の好きな「世界と戦える」)巨大プロジェクトをやるには、堺市大阪都構想に参加する他はないとの論理に巻き込まれていくのである。

 それからもうひとつ気付いたことは、橋下・松井両氏の攻撃の的は竹山市長であることは勿論だが、政党攻撃は民主党共産党に限られ、市長選で敵対する自民党に対しては一切の批判がないということだ。また公明党に関する言及もなかった。これに関する分析は次回にしよう。(つづく)